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12.魔術学園

 夜になって――リオは自室に戻っていた。

 従者専用の部屋とはいえ、スペースは十分にある。

 衣食住の保証に加えて、高い給金まで約束されている――帝都にやってきて、かなり大きな仕事を得られたといってもいい。


(正直ラッキーだったな……)


 心の中で呟きながら――リオはそんな近況について、手紙を書き記していた。

 宛先はリオの保護者であり、親代わりの女性――レイシア・シャウネルだ。

 リオは元々、とある施設にいたところをレイシアに保護された。

 本来ならば――そこで死んでいたとしてもおかしくはない。

 けれど、レイシアはリオのことを保護という形で引き取った。

 レイシアがどうしてリオのことを引き取ったのか――一度だけ、その理由についてレイシアが話したことがある。


「私には妹がいた。ちょうど、お前くらいの歳にこの世を去ったが」


 ――レイシアが酒に酔っていた時の話であり、本当かどうか定かではない。

 ただ、彼女にも思うところはあったようで――実際にレイシアはリオを家族として迎え入れ、育ててくれたのだ。

 そのおかげで今がある――彼女には感謝すべきだろう。

 そんな気持ちを手紙に綴るのはさすがに恥ずかしいので――あくまで近況を報告するだけだ。

 無事に帝都に到着したこと、そこで出会ったフィーナのこと。

 紆余曲折あって――ヴェルター家に雇われたこと。


「……いや、これ信じてくれるかな?」


 手紙の内容を見て――とんとん拍子に事が運び過ぎている気がしてしまった。

 そうはいっても――リオは身に起きた事実しか書いていないので、特に脚色などはしていない。

 フィーナと出会ったことは偶然であるし、ヴェルター家に雇われたのも結果的にそうなっただけのことだ。

 ふと――思い出したのは元々、この家で護衛として雇われる予定だった男のこと。


「そういえば――ロットって人も傭兵だったらしいし……レイシアも知ってたりして」


 ロット・アルダン――リオが圧勝した男だ。

 その後――彼の姿を見ていないが、自信満々に決闘を受けた上であの負け方だ。

 アーノルドはロットに個人的に何度か依頼もしていたようだが、さすがにそうした関係も断たれてしまった可能性はある。

 そう考えると少し申し訳ない気もしてくるが、ロットの態度からして、フィーナとはどうあれ上手くいかなかっただろう。

 もちろん、リオも人付き合いが得意な方ではない。

 あくまでフィーナがリオを気に入っているから、今のところは上手くいっているだけに過ぎないだろう。

 護衛の仕事を引き受けたこと自体、果たして正解なのか分からない。

 リオの能力を十分に生かせる仕事ではあるが、レイシアとも『ある約束』をしているからだ。


(まあ――大丈夫だとは思うけど)


 今のところ、フィーナを狙った連中も大したことはなかった。

 リオが本気を出すまでもない相手ばかり――もちろん、油断するつもりはない。

 手紙を書き終えて封筒に入れ、部屋の灯を消した。

 そのままベッドに横になって、リオは目を瞑る。

 明日からが本番といってもいいだろう――改めて、気を引き締めていかなければ。


   ***


 ――翌日。

 リオはフィーナと共に『ガーレシア魔術学園』へと馬車で向かっていた。

 ヴェルター家の屋敷から学園まではそれなりの距離があるらしく、基本的には馬車で通っているとのことだ。

 生徒の中には学園の敷地内にある寮で生活している者も多く、フィーナも最初は寮生活を希望していたらしい。

 けれど、アーノルドからの許可が下りず――こうして毎朝、馬車で向かっているというわけだ。

 今でも、フィーナは寮生活に憧れているようで、定期的にアーノルドに交渉しているらしいが――許されてはいないとのこと。


「そんなに寮生活をしたいんですか?」

「だって、寮でみんなと生活するのって楽しそうじゃない?」

「楽しいかどうかは分かりませんが」

「リオは学園に通った経験とかあるの?」

「ない――です。わたしは、あんまり人のいない辺境で育ったから、似たようなところはあったけど」

「似たようなところ?」


 フィーナに問われ、思い返す。

 レイシアに連れられ――訪れたのは身寄りのない子供達が集められた孤児院だった。

 リオにはレイシアという保護者がいたが、彼女も付きっきりというわけにはいかない。

 仕事でどこかへ向かう時は、リオを孤児院に預けていった。

 どうやらその孤児院はレイシアからの援助を受けているらしく、リオも快く受け入れてもらえたのだ。

 そこで時々、勉強を教わっていた程度のことで。


「子供達に勉強を教えるシスターがいた、かな」

「じゃあ、リオもシスターに?」

「わたしは――どちらかというと武術とか、そっちの方が好みだったから」


 ――リオは別に、勉強が好きというわけではない。

 身体を動かす方が好みではあったし、レイシアと戦闘技術を磨くことの方が楽しめたかもしれない。

 元々――そういったことに楽しみを見出すような育てられ方をしていなかったが、その辺りは変化したというべきか。

 逆に勉強が嫌いだったというわけでもないが――そこまで興味を持てなかったというのが正しいのかもしれない。

 ただし、魔術という分野においては知識は、人並み以上にあるといえる。

 ――リオの知識は戦闘に必要なことに偏っているのだ。


「武術かぁ。私もちょっとだけ興味あるかも?」


 リオの話を聞いて、不意にフィーナはそんなことを言い出した。

 フィーナが武術――リオは彼女のことを一瞥した後、


「……お嬢様はあまり向いていなさそうですが」


 そんな評価を下した。


「……何か失礼なこと考えてない」

「そんなことはありませんが」

「本当に? 私って運動は得意な方だよ? たまに歩いて屋敷まで帰っているし」


 歩いて――それだけで運動が得意と言えるものではないと言いたいところだが、


「歩いて? 結構な距離があるのでは」


 歩いて通うには遠いと言える程度の距離はあるのだ。


「新しい出会いとか発見があるかもしれないじゃない?」

「新しい出会い、ですか」


 リオにはない発想だ――フィーナはそういうことも大切にしているのだろう。


「最近は――お父様に禁止されているけれど……」


 そう言って、少し落ち込んだ様子を見せる。

 寮生活も禁止で、徒歩での帰宅も禁止――随分と過保護とみるべきか、貴族の令嬢ならば当然というべきか。

 ただ、フィーナと話していると感じるのは――彼女自身、そこまで縛られて生きているような性格ではなそうに見える。

 無論、貴族の令嬢らしい気品さは感じさせる。

 ただ、それはあくまで彼女の雰囲気というだけで――性格は自由奔放でマイペース。

 アーノルドは一見、厳格そうには見えるが――フィーナにそこまで不自由を敷いているわけではなかったように思える。

 護衛の件にしてもそうだ――フィーナがいくら言おうが、ロットを護衛として押し通すこともできたはず。

 それなのに――こうしてリオがフィーナの護衛として仕えることとなった。

 無論、リオがロットを圧倒したという事実があってこそなのだろうが、おそらくアーノルドはリオのことを完全に信頼したわけではない。

 アーノルドからも信頼を得るのであれば、仕事で成果を出すのが手っ取り早いだろう。

 どうあれ、今日から始まった送り迎え――ここからがリオにとって本当の仕事というわけだ。

 警戒は常に怠っていない――こちらを狙う気配に気付けば、すぐに対処できるようにしている。

 だが、さすがに登校日にいきなりフィーナが狙われるようなことはなく――馬車はやがて、魔術学園へと到着した。

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