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短中編「堕天使受肉体愛好家の『A』」
毎日2エピソードずつ鋭意連載中!
ええと?どういうことだこれは。一連の流れのどこでフラグが立ったのか全く心当たりがない。
騙そうとしたうえ無理やりキスして悪魔を口移しさせてきた男のどこにそんな雌堕ちポイントがあったかな?
聞いて素直に答えてくれるとも思えないが、俺は差し当たり無難な反応を返す。
「俺のどこが、そんなに」
「厳密に言うとあなたにではありません」
彼女は顔を上げて食い気味に辛辣なことを言った。
かなしいね。じゃあ何なのよ。
「あなたの奥ゆかしい天使輪郭を顕現させているその遺伝子。二千年の時を経て褪せない、あの御方の遠い面影に対してです」
待て待て、話が飛躍した。二千年?
天使がへりくだって『あの御方』と呼ぶ者?
しかも遺伝しているということは、少なくとも人間としてこの世に生を受けているということで、つまるところそれって。
「まさか、キリ……」
言いかけた俺の口を、ふわりと天使の羽根が塞いだ。膝まずいたままの蔦原カエデの翼が音もなく伸びたのだ。
髪から香ったシャンプーとはまた違った芳香が鼻をくすぐる。ああ、天使って翼もちゃんと洗うんですね。
「今はまだ、その御名を口にするまでの証拠はありません。しかし私の魂は確信しています」
そういえばラムエルも「お前の身体が必要だ」みたいなことや、彼女の中に取り込まれた時も「遺伝形質が顕現」だのと宣っていた。
それってそういう事だったのか。つまりラム公は俺の特異な遺伝形質を利用しようとして墓穴を掘った訳だな。ざまあ。
それが事実だとすると、俺の特異体質だと思っていたものの正体がおぼろげながら見えてくる。
天使輪郭を備えた女子に天使を受肉させてしまう能力。それは聖なる御方の遺伝形質だったのではないか。
では、受肉した天使を堕天させる能力は?それは俺に憑依していたラム公のものか。じゃあラム公なき今、もう俺に堕天させる能力はないんだよな。
いやそもそもラム公はどうやって俺に憑依したんだ。悪魔って聖魔戦争の末に地の底へ封印されたはずじゃないのか?
一気に情報が流れ込んできて、どだい貧弱な俺のCPUが悲鳴を上げている。
これは持ち帰って整理する必要があるな。そう考えると官憲の不当拘束を回避させてくれる蔦原カエデの申し出は非常にありがたい。
だいいち特殊性癖だと思っていた『堕落させたい欲求』がラム公のせいだったのなら、今の俺は人畜無害なKDDI(※エピソード01参照)である。
いくら尋問されたところで――。
待てよ。今何かひっかかる事がなかったか。
なんだ。何か、さっき感じた疑問というか違和感に通ずるものがある気がしてならない。違和感ってなんだっけ。
目の前で跪いていた蔦原カエデがゆっくり立ち上がって制服を整えた。
そうそう、彼女が何かを言った時に感じたんじゃなかったか?なんだっけ。早めに思い出した方がいい予感がする。そうじゃないと手遅れに。
「お名前を聞いていませんでした。お聞かせいただけますか?」
「中野カズハです。一つの春と書きますけどカズハルじゃないんです」
「カズハさんなんですね、承知しました」
脊髄反射で本名を答えてしまっていた。しかも正確な漢字まで。
違和感の正体が掴めないのに、本名を晒すのは悪手か?とはいえ、天使の前でこれ以上嘘をつくメンタルは持ち合わせていない。さっきも俳優顔負けの名演技を見破られているんだし。
「カズハさん。この行動が私のためと言った理由の大部分を、まだお話していません」
そうだったのか。雌堕ちを告白された時点でもう大概だなと思ったんだが。
雌堕ち?そうだ、違和感の正体を思い出した。
この人さっき、俺を「独り占めしたい」と言った。
それって、まさか。
「カズハさんを他の天使たちに奪われたくないんです。あなたの中に御座すあの御方を、自分だけのものにできるなら、私、何でもします」
やばい。俺の中で赤色灯が回り出す。
やばいやばいやばい。ただの雌堕ちじゃないぞこれは。
この三年前で俺が企んできたことが、今ブーメランのように返ってきているんだ。
これは絶対あれだ。ラム公が彼女に移ったせいで、今度は彼女が……!
「私、あなたの堕落したところが見たいんです。あの御方の血を引く者が、その神性を失って地を這いずる姿を見られたら、天にも昇る気持ちになれるでしょうね」
21 へつづく
※タイトルの『A』には3つの意味が?!
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