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短中編「堕天使受肉体愛好家の『A』」
毎日2エピソードずつ鋭意連載中!
さっき蔦原カエデは俺に逃げろと言った。この『誰か』がこのあと俺に何をするかを知っていたのだ。
この流れは、ひょっとすると。
『誰か』は蔦原カエデの身体を、仰向けで横たわる俺の真上で膝をつかせ馬乗りにさせ、その両手を俺の肩あたり床についた。
再びその顔が数十センチの至近に迫る。
「お前の身体が必要だ。戻るぞ」
覆いかぶさるように、俺の唇めがけて蔦原カエデの唇が着陸姿勢をとった。
ああ、やっぱりか。
女性とのキスはやぶさかではないのだが、さっきのアレがまたこっちに来るってことだよな?!
UMAの踊り食いとか前時代的なバラエティの罰ゲームじゃないんだから、コンプラ考えろよ令和だぞ。勘弁してくださいって、マジで!
俺の必死の魂の叫びは通じず、本日五度目のキスを逆眠り姫スタイルで味わってしまう。これ寝てる最中にやられたらわりと恐怖だろうな。
今日は一生忘れられない接吻記念日となるだろう。
短歌が詠めそうだ。今日は何日だっけ?
このあと訪れる地獄の罰ゲームのことを考えまいとして馬鹿なことを脳内で繰り広げていると、なかなか踊り食いが始まらないことに気づく。
やがて、勢いよく唇を引き離して『誰か』が蔦原カエデの上半身を起こした。
漆黒の瞳は感情の機微を伝えるのに不向きだったが、驚愕の表情で俺を見ていることは感じられた。
「馬鹿な。お前は、こんな芸当が可能なのか」
よろよろと立ち上がり、『誰か』は後ずさって俺から距離を取ろうとしているようだった。
「うかつだった。こんな遺伝形質までもが顕現しているとは!」
『誰か』は頭を抱えながら、激しく髪を振り乱した。よくわからないが、罰ゲームは回避されたってことでいいのか?
「くそっ!この私が、天使と同じ人間に受肉するなぞ!」
非常にプライドの高い悪役が、その自尊心を傷つけられたことに激しい怒りを覚え、どうしても周りに言い訳したくてつい説明的になってしまう心理状態に陥ったところを初めて目の当たりにした。
いやそんな事より、この高慢ちき今なんて言った?
天使と同じ人間に受肉?ひとりの人間に二つ以上の神格が受肉するなんて、神学的にあり得るのか?
慟哭した『誰か』がぴたりと動きを止めると、みるみるうちに瞳の色が中央から外側に向かって戻っていき、元の透き通るようなブラウンが復活した。
大きなため息をついた後、蔦原カエデは両膝に手を置いて屈みながら俺を見た。
「危なかった。でもこれであなたの身の安全は守られました」
口調が慇懃なものに戻っている。俺の呼称が『あなた』に戻ってしまったことがちょっと寂しいが、身体の主導権を取り戻したようだ。
俺の安全は。その代わり、あなたはどうなってしまったんです?さっきの自尊心&承認欲求強めな『誰か』が、身体の中にいるんですよね?
「さっきの……」
俺は痛む後頭部をさすりながら身体を起こした。蔦原カエデは十文字槍を拾い上げながら答える。
「奴は高名な堕天使ラムエルです。堕天した後、悪魔の眷属としてその名を連ねた者です」
「悪魔。……が、あなたの体に受肉したと言ってましたが」
彼女は槍を持つのと反対の手を胸に当て、自らの内面をうかがうような仕草をとった。
「ええ、そのようです。今は鳴りを潜めていますが、確実にいます」
「じゃああなたは今、天使と悪魔のハーフ&ハーフ状態ってことですか?」
ピザかよ。自分で言っといてナンだが。いやナンじゃねえピザだよ。
そんな俺の言葉に、蔦原カエデはくすくすと微笑んだ。
「面白い表現です。しかしこの状況、笑ってもいられませんね」
蔦原カエデはそのシャープな顎に指を当てて考え込んだ。
そういえば、ぐずぐずしていたら応援が到着してしまうだろう。このややこしい状況をどう説明したらいいだろうか。
「うん、やむを得ませんね」
蔦原カエデは意を決したように頷く。彼女は俺のそばに歩み寄り、手を差し伸べた。
「立てますか」
まだ頭は痛むものの、だいぶ気分は良くなってきた。俺は彼女の手を借りて立ち上がる。
「では、失礼します」
そう言うと、彼女は正面から俺を抱きしめた。
19 へつづく
※タイトルの『A』には3つの意味が?!
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