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堕天使受肉体愛好家の『A』  作者: 瀬良浩介


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短中編「堕天使受肉体愛好家の『A』」

毎日2エピソードずつ鋭意連載中!

「あなたは、ここで起きた堕天未遂事件の重要参考人です。どのみち取り調べを受ける必要があるのですが」

 蔦原隊員の静かな語り口を聞いていると、厳粛なる天使の執行力を突きつけられているようで背筋が凍る。


「しかし、私はあなたに興味があります。校門のところから気になっていましたが、あなたの天使輪郭はとても層が厚く、天使の眼をもってしてもその深遠を見通せない。もしかしてそこに、あなたのいう『奴』がいるのかな?」


 蔦原隊員は槍が倒れぬよう脇で支えながら、ゆっくりと両手を顔まで上げて目隠し布に親指をかけた。


「君」


 突然の『君』呼ばわりに心臓が高鳴る。年上女性の魅力が爆発して押し寄せてくる。


「こうして欲しかったんだよね?」

 そう言って蔦原隊員は目隠し布をたくし上げた。長いまつ毛が、貴人の御所にかかる御簾(みす)のようにおごそかに持ち上がる。


 その向こうに隠された神秘的な瞳、二つの透き通るブラウンの虹彩が俺の目を覗き込む。

 文字通り、眼窩(がんか)という体腔から体内の様子を覗き込まれている感覚に陥る。着衣を内側から剥ぎ取られるような恥辱(ちじょく)が全身を駆け巡った。


 だが、結果的に望む通りの状況だ。俺の特異体質は天使隊員にも通用するのか。さあ、どうなる?


 俺と蔦原隊員は見つめ合った。

 それは時間にして二秒もなかったろうが、スローなラブ・バラードの大サビを流しきったくらいの時間を俺に錯覚させた。

 壮大な後奏の余韻を打ち消すように蔦原隊員が口を開く。

「あなた様は」


 蔦原隊員は瞬きひとつせず俺の目を見つめている。様子が明らかに変わった。もしかして効いているのか?

「待て、貴様まで。なぜ貴様がその御方(おかた)とそこにいる?」


 ふと、秋野ユウヒに受肉した天使が見せた表情を思い出す。生き別れの親に再会したような、因縁の宿敵とついに相まみえたような。その両方を同時に見たような。


 いま蔦原隊員はまったく同じ表情を浮かべている。

 天使は何を見ている?

 俺の中に、一体誰がいるんだ?


 蔦原隊員が目を合わせたまま、こちらににじり寄ってくる。脇に抱えていた十文字槍がバランスを失って倒れ、派手な音を立てたが気にかける様子はない。

 これは、上手くいってるのか。


 彼女は右手、左手と順に俺の顔に手を添え、二人の顔の距離は二十センチに迫った。そのあまりにも美しく整った顔は、受肉した天使に負けるとも劣らず輝きを放って見える。


 ダメだ、直視できない。

 神聖な圧に負けた俺のまぶたは、営業を終えた百貨店のシャッターのように閉じていく。

 本日もご利用ありがとうございました。あとに残るは類人猿史上最も無防備なキス顔でございます。

 己のキス顔を客観的に想像すると死にたくなる。だがそんな恥はここでかき捨ててしまえ。

 キスさえできれば構うものかなのである!


「閉じるな」


 ――え?

 天使隊員の厳粛な声色とも、年上お姉さんの甘いささやきとも違った、あまりに簡素でシステマティックな声とともに、蔦原隊員は俺の両目を指でこじ開けた。


 どうも風向きがおかしい。

 キスのとき目を閉じないで私がいなくならないよう見ていて欲しいからみたいな青春ソングがあるのかどうか知らないが、なんかそういうアレなのか?

 それにしては目のこじ開け方が眼科で装着させられるあの怖いやつのそれだ。


「貴様、そこで何を企んでいる。答えろ!」

 その言葉は俺にではなく、俺の目を通して俺の中にいる『誰か』に向けていた。

 顔を左右から締め付ける力が増す。このまま天使の力で圧迫され続けたら、俺の顔はプレスマシンで潰してみた動画のスイカのような末路を辿ってしまうだろう。


 一転して命の危険を感じた俺は、咄嗟(とっさ)に蔦原隊員の両手首を握って謝罪を口にした。すいません、嘘をついたことは謝ります。ですが何か誤解があるようで――。


「答えるまでもない」


 ん?今、誰か喋ったか?

16 へつづく


※タイトルの『A』には3つの意味が?!

このトリプルミーニングに気づいた人は、ぜひコメントしてね!


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https://x.com/Koh_Serra

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