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短中編「堕天使受肉体愛好家の『A』」
毎日2エピソードずつ鋭意連載中!
天使職の女性たちは天使教育を修了し、儀式を経て天使に支配されることなく受肉を完了している。
俺は無意識的に、高校卒業という境界線で女性を分けて考えていた。
この三年間、初体験に引きずられて受肉前の女性ばかりを目標としてきた。しかし考えてみれば、俺の特異体質は天使の受肉だけじゃない。
むしろ堕天が本質ではないのか。
俺が堕天させられるのは、教育が不十分な未熟な天使候補生だけか、それとも、成熟した受肉体をも堕とせるのか。ぜひ試してみたい。
「あなたのことを校門で見ました」
蔦原隊員が口を開く。
「かなりくっきりとした天使輪郭をお持ちでしたので、てっきり在校生の方と思っていましたが。まさか男性でしたとは」
天使輪郭という言葉は知らなかったが、基本的に男性は天使の奇跡からかけ離れた存在だ。さぞかし珍しいのだろう。
「それって、変なことですか?」
「いえ、男性が天使輪郭を持つことは稀ですが異常なことではありません。むしろ」
そこで蔦原隊員は言葉を切ってしまう。
「むしろ?」
聞き返した俺の言葉が、彼女の刹那の逡巡を断ち切ったようだった。
「いえ、すみません。一般の方には退屈な知識です。忘れてください」
そんなお茶の濁し方をされたら余計気になってしまうというものだが。
それより、蔦原隊員はさっき本部に応援要請をしていた。それはつまり、俺の野望を叶える時間が刻一刻と短くなっていることを意味する。
数ある天使職の中で、武力行使に特化し最も純粋天使に近い存在と言われる天使隊員と一対一になれる状況なんて、二度とあるとは思えない。
やるなら今だ。考えろ。状況を作れ。
校門やこの場で布越しに目が合っても変化は起きていない。直視でないとだめだ。なんとかあの目隠しを外させ、俺の目を直視させる方法は。
「目にゴミが入った」?
――いやチープすぎる。
「怪我して血が出ている」?
――救急隊を呼ばれるのがオチ。
「無理やり目隠し布をめくる」?
――死ぬ気か?
焦るな。急がば回れの精神だ。
「ううっ」
俺は儀式チャレンジの時のように芝居を打った。
果たして天使隊員に通じるか。両腕を腹の前で交差し、額を床に擦り付けるように身をかがめた。
「どうしました?」
「わかりません。けど、さっき何かが俺の中に入ってきて」
俺の演技は大丈夫か?白々しくないか?
「何かが、というと?」
蔦原隊員は槍を支えにしてかがむ。五十センチ先のタイトスカートから覗く太ももが艶めかしい。なんとか食いついてくれているようだ。
「ここで、儀式が行われていたんです。俺は最初、堕天儀式チャレンジをするって聞いてました。でも、実際は違いました」
俺はたっぷり間を取りながら蔦原隊員を見上げた。役者の才能があるかも知れない。
「あなたさっき、蔦原っていいました?」
「はい。蔦原カエデ、二等陸曹と申します」
「やっぱりそうだ。奴は知ってた、あなたがここに来ることを。危険です。奴の狙いはあなただ」
「奴、とは?」
俺は松尾アヤだった天使を振り返り見た。
「ここにいる三人を、天使に変えた。でも本当の狙いはあなたをここに呼び寄せるためだったんだ。ほら、ここにあなたの名前が!」
俺は迫真の演技で、足元の円陣の一部を指差した。
さあ、見ろ。ここまで言えば、その布をめくって見たくなったろう。さあ、めくれ!
「なるほど、興味深い」
蔦原隊員は槍を抱きしめるように持ち直し、しゃがんだまま膝を抱えた。
「どうしてあなたはそんな嘘をつくのかな」
……まずい、バレている。
15 へつづく
※タイトルの『A』には3つの意味が?!
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