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短中編「堕天使受肉体愛好家の『A』」
毎日2エピソードずつ鋭意連載中!
それは猛スピードで俺と天使の横を通り過ぎ、遅れて風塵が舞い上がったかと思うと、天使の右腕が肘の部分で切断されていた。
異変の主は、天使隊員その人であった。
隊員はタイトスカートによる大腿の拘束をものともせず、膝下だけの開脚で床に踏ん張りをかけ急ブレーキし、瞬時にこちらへと身を翻した。
その返す槍で、今度は天使の左腕を切り落とした。あっという間の出来事だった。
苦悶の声を上げて天使はのけぞり、たまらずひっくり返るように俺の上から転げ落ちた。
天使隊員は槍を引き、コンパクトに畳まれていた両の翼をクジャクが求愛行動をするかのように優雅に広げた。そして翼は背中側から手前側に折れ、隊員の全身を包むように閉じる。
にわかに翼全体が輝いたかと思うと、無数の羽が射出され、それぞれが天使たちの三首、すなわち頸、手首、足首へと次々に突き刺さった。突き刺さった羽は重なり合ってリングのような形を為し、枷のようにして三体の天使を床に拘束する。
隊員が窓から突入して三十秒もしないうちに、制圧は完了していた。
「そこのあなた、立てますか」
翼を背中に折りたたんだ隊員が、寝そべったままの俺に声を掛ける。
「あ、はい」
俺は、のしかかる徒労感を押しのけるように上半身を起こした。
ふと、切り落とされた天使の手を握ったままなことに気づき、慌てて両手から振り落とす。切断されてもその腕は漆黒の光をたたえていた。切り落とされた天使の方は、堕天が進んでいる様子はない。
「HQ、こちら蔦原二等陸曹。派遣先の学園で堕天を処理。応援要請。位置を送る」
隊員は息のひとつも切らさず、澄んだ声で通信を行っている。先ほどの大捕物がまるで嘘のようだ。
俺は改めて天使隊員を見上げた。自衛隊の制服に身を包んだ女性が身の丈を越す槍を携える姿はやはり異様だ。穂先の根本から左右にも刃が突き出た十文字槍は、正面で刺すだけでなく、横薙ぎにしても威力があるのだろう。
「照屋陸士、聞こえましたか。こちらは状況終了。周囲の警戒を」
もう一人の隊員に通信したらしい。そういえば、蔦原と名乗ったこの隊員は、門のところで俺のことを見つめていた方だ。
受肉した天使と違って頭上にエンジェル・ハロゥはない。
その代わりであるかのように、窓から差し込んだ陽光を反射して光輪をたたえた黒髪は、長さが肩くらいだろうか、後ろでひとつに縛られている。
前髪両サイドの触覚ヘアの内側を通り、黒い布が両目を覆う。整った鼻や口は、目を隠していてもこの隊員が美しい顔立ちをしていることを示していた。
しかし、本当に目隠しをしたまま戦闘行動を完遂していた。やはり見えているのか。というより、どんな見え方をしているんだろう。
「助けが遅くなってすみません」
通信を終えた蔦原隊員が、優しい声色で話しかけてくる。
「受肉を感知しましたが、入り組んだ建物では遠近感が狂うので、時間がかかりました。とにかく、堕天に間に合ってよかった」
俺は松尾アヤだった天使を見た。床に縫い付けられた天使は、顔だけをこちらに向け、哀愁ただよう瞳で俺を見ている。
そうだな、何もよくないよな。
せっかくの秘め事を邪魔されたんだ。文句の一つも言ってやりたいところだが、うかつな事は言えない。あくまで俺は被害者の立場でいるべきだろう。
「あら失礼、男性の方でしたか。招待された学生さんですね」
今更のように俺の容姿を指摘した蔦原隊員に違和感を覚え振り返ると、その目隠しを片目の部分だけ持ち上げて直接俺を見ている。
すぐに布を戻してしまったが、一瞬だけ見えた瞳はこれまでに見た女性の中で一番美しい形をしていた。俄然、蔦原隊員に興味が湧いてくる。
この人は今、どうして俺を直接見たのだろうか。
もしや目隠しをしているのは、視覚から物質的なものを排除しヒトの神性のみを知覚している、とかなのか。
先ほど言っていた受肉を感知したというのも、そう考えるとうなずける。
下っ腹の奥がうずく。
先ほどまでの昂りが鳴りを潜め、達してもいないのに賢者タイムのような虚しさを感じていたが。しかしまだ、俺の欲望は確かにそこにあった。
この美しい女性が堕天するところを見てみたい。
14 へつづく
※タイトルの『A』には3つの意味が?!
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