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短中編「堕天使受肉体愛好家の『A』」
毎日2エピソードずつ鋭意連載中!
絡んだ舌をほどき、松尾アヤが唇を離すと、その口元からは何かをこすり合わせるような聞き覚えのある音が漏れていた。
そこからの変身は秋野ユウヒの時と同じだ。
全身の皮が泡立つように剥がれていき、内側から柔らかな光をたたえた輝きが表れる。頭上にはエンジェル・ハロゥの光輪が煌めき、三つ編みがほどけ、白銀の頭髪がクモの巣のように広がって空中で舞った。
ローブも制服も燃えカスとなって散り、部室の横幅いっぱいにまで翼が広がる。横たわった俺の真上で天使の受肉が完了した。
『本番』はここからだ。
天使が跨っている周辺があたたかい。服を通してこれほど熱が伝わるのだから、素肌で触れたら熱で溶け合ってひとつになれるだろうか。
俺は制服のズボンを脱ぎ去りたい衝動にかられたが、どっしりと体重を乗せた天使はさせてくれそうにない。人生最後の行為となるかも知れないのだ。もう少し自由に動きたい気もしたが、文句は言えない。
さあ、堕天していく様を見せてくれ。
その時、背後から女子生徒の悲鳴が聞こえた。
山野レイだろう。悲鳴が遠ざかっていくので、部室から逃げ出そうとしているらしい。
いいさ、どこへでも行って助けを呼ぶなりすればいい。俺の目的は果たされた。もう誰にも邪魔はできないのだから。
しかし、天使が思ってもみない行動に出た。
顔を上げ山野レイを見た天使は、右手を上げてその腕を伸ばしたのだ。
ゴム紐のように伸びた腕は山野レイの背後から襲いかかってその頭部を掴み、今度は勢いよく縮んで山野レイを手元まで引き寄せる。
続いて本棚に寄りかかって腰を抜かしていた臼井モカを一瞥し、同じように左手を伸ばしてその頭部を掴み引き寄せる。
俺の直上で、後頭部を鷲掴みにされた二人がだらしない悲鳴を漏らしている。なんだ?この天使、何をするつもりだ?
その意図はすぐに判明した。
天使は両手に掴んだ二人の顔を俺の方へと無理やり向ける。ご丁寧に指で二人のまぶたを押し広げ、強制的に俺と目を合わせようとして。
そういうことか。何を考えているかは判らないが、意図は判った。
この二人も堕天させればいいんだな?
一人で堕天するのは寂しいか。それとも、多くの者を堕天させることに意味でもあるというのか?
いいだろう。何人でも堕天させてやるさ。一度に三人も相手にするなんて、人生最後にして最高のマッチになるじゃないか!
俺と目を合わせた二人は、魂を蹂躙されていくかのように視点が定まらなくなり、天使が手を離した途端、競うように俺の唇目掛けて唇を突きつけてくる。
どちらと先にキスをしたかなんてもう覚えていない。とにかく二人とも貪るように舌を絡めてきた。
欲望のるつぼだ。薄暗い部室の中央、黒魔術めいた円陣に囲まれて、四つの人影は互いに堕落を貪り食っていた。
ついに二人の全身にも天使受肉の兆候が見え始める。
松尾アヤだった天使は、二人を脇に押しのけ、改めて俺を見下ろした。
そうだな。お前にまずその権利がある。続きをしよう。
俺は両手を胸の高さまで上げ、両の掌を天使に向けて床から少し高くして止めた。それに応じるように、天使も両手を俺の手に重ねる。指と指がしっかりと絡まり合い、触れ合っているところから熱交換が始まった。
天使は愉悦に身悶えるように全身を震わせている。
ああ、最高だよ。夢にまで見たシーンだ。願わくば俺の命が尽きるその前に、俺が十七年間貯め続けてきた情欲を、命そのものを、その神秘の内側で受け止めてくれ!
しかと繋がれた両手の指先から黒き光が広がり、天使の腕を漆黒が這い上がり始めたその時、衝撃とともに異変が窓を破って飛び込んできた。
13 へつづく
※タイトルの『A』には3つの意味が?!
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