第九十二話 我儘言ってこそ、貴族令嬢!!
ジークにお願いし、アレンに逢う段取りを整えて貰う約束をして三日後。ジークからアレンとの日程調整が済んだとの連絡を受けた私は王城に向かった。向かった、のだが……
「……本当にごめん、アリス。いつも迷惑ばかり掛けて……」
向かった先では、『……済まんが先にこちらのケアを頼む』とジークに言われ、やってきましたエカテリーナ様のお部屋。エカテリーナ様、すっかり意気消沈しているらしく、自分の部屋でふさぎ込んでいるとかとのことで、早急な改善を求められたのだ。いや、早急な改善って。
「エカテリーナ様……」
正直、国家としてを考えると第二王子が拗ねていようがいまいが、あんまり問題ではないが、王妃様がすっかりふさぎ込んでいるのは問題らしく、陛下も心配をしているらしい。まあ、国事なんかあった際にエカテリーナ様も参列しなくちゃならないし、その認識は間違ってはいないのだが……なんだろう? だからってエカテリーナ様のケアを私に任すかな?
「……いつも子育てに失敗している。私は、私が恥ずかしい」
すっかり肩を落としてそんな事を言うエカテリーナ様。うーん……まあ、気持ちは分からんでも無いのだが……
「……そんな事はないんじゃないですか? 少なくとも、ジークはいい子に育ってますし」
ジークはすっかり正統派の『王子様』になった。もう、何処に出しても恥ずかしくない乙女ゲームの攻略対象キャラだ。既に、わく学のあのポンコツの片鱗は何処にもない。
「ジークを育てたのは私じゃない。ジークが勝手に育ったし、その道筋を、きちんとした道に進ませてくれたのはアリス」
「……ええっと……」
……いや、まあ……うん。こと、『教育』に関してはそうかも知れんが……
「……ジーク、言っていましたよ? エカテリーナ様の無償の愛が嬉しかったって。私自身の功績……というとおこがましいですが、まあちょっとぐらいはジークの教育に役に立った自負はありますが、それでもそれを温かく、時に厳しく見つめてこられたエカテリーナ様のお力があってこそですよ」
「……お世辞?」
お世辞って……
「……不敬ながら、私がエカテリーナ様にお世辞を言うと思います?」
私の言葉にびっくりしたように目を丸くするエカテリーナ様。その後、おかしそうにクスクスと笑った。
「……そうだった。アリスはそういう、変わった子だった」
「レディに変わった子って、失礼ですよ?」
「いい意味で」
「いい意味と言ったらなんでも許されると思わないで下さい」
相変わらずクスクスと笑い続けるエカテリーナ様。うん……もう、大丈夫かな?
「……アレン殿下もきっと、心の底では分かっていますよ。エカテリーナ様がアレン殿下を蔑ろにしている訳じゃないって事、きっと理解してますって」
「……そうかな?」
「……たぶん」
「……そこは自信満々で言ってほしい」
う……だってさ? 私、アレンじゃないし、アレンがどう思ったかまでは知らないよ、うん。
「……逆にエカテリーナ様はどう思うんですか? アレンに嫌われてるって思っているんですか?」
「……分からない」
「分からない?」
「……愛を持って接していた、とは自信を持って言える。あの子の事を可愛くないと思った事は一度もない」
「……」
「でも……私は母だけど、王妃。国の事も考えなくちゃいけない。ジークは優秀。そんな優秀な兄の様に、アレンにもなって欲しくて……その、厳しい事も言った」
「比べる様な事は?」
私の言葉についっと目を逸らすエカテリーナ様。ああ、これ、言ったやつや。
「……ま、仕方ないですけどね」
理想論として兄弟姉妹を比べる事はしない方が良い、とはよく言われる。子供ごとに個性があるし、幾ら血を分けた兄弟でも成長のスピードに差があるのは当然で、親から『お兄ちゃんは貴方の歳ぐらいにはこれくらい出来たのに』と言われるのが下の子にとっては一番苦痛、なんて話も良く聞く。
「……仕方ないの?」
「仕方ないですよ。だってエカテリーナ様も人間ですもん」
子育てをした事は無いけど、私だって元アラサーOL、後輩は何人も指導して来た経験があるし、研修で『新人は同期や年の近い先輩と比べられる事を嫌います』みたいな事を必ず言われた記憶もある。それぐらい、他人と比べる行為は厳禁とされていたが……申し訳ないが、私だって機械じゃないんだ。心の底では『去年の子はこれぐらい直ぐ出来たのに……』と思った事はある。それを口に出していないのは私に思いやりとか綺麗な感情があったわけじゃない。単純に、それを口に出して嫌われるのが面倒くさいと云うのと……申し訳ないが、自分の業務も忙しく、後輩指導にそこまで熱意を持っていた訳じゃないと云うのが一番の理由だったりする。
「……そんな適当な事をしていたからわく学に転生しちゃったのかな?」
「アリス?」
「なんでもないです」
ジーク達にしたみたいに、あの後輩達にも真摯に向き合っていれば、彼ら彼女らはもっと伸びたかも知れないと云うのは小さな後悔でもある。そんな感情を押し殺し、私は首を左右に振ってエカテリーナ様に微笑む。
「……まあ、アレン殿下の事は私に任せて下さい!! ……と自信満々には言えませんが……ちょっと話をしてみます」
「……ごめん」
「謝罪はなしですよ。そもそも、別に誰かにお願いされた訳でもないですし……趣味みたいなもんです。我儘ですよ、我儘」
好きな事で生きていくって決めたからな。だから別にエカテリーナ様にお願いされたからする訳じゃない。これは私の『我儘』だ。
「……我儘なの?」
「貴族令嬢っぽいでしょ? 我儘押し通すの」
そう言って笑う私に、エカテリーナ様もクスリと笑う。
「本当に。アリスっぽくない」
「そうですか? 私、結構我儘ですけど?」
「そんな事は無いと思う。暴力的ではあるけど」
うぐぅ……そ、それを言われると辛いが……
「……それじゃ、『アリスっぽく』も行きましょうか?」
「……実の親として諸手を上げて賛成できない。出来ないけど……ジークも『それ』で素直になってくれた実績もあるし……」
そう言ってエカテリーナ様はついっと視線を逸らして。
「……手加減は、お願いします」
……よし! 言質取った!!
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