第九十三話 ガンガン煽っていくぅ!!
エカテリーナ様の部屋を後にした私は、ジークに連れられてアレンの私室を訪れる為に王城を連れ立って歩いていた。
「……いいよ、ジーク? 私、一人でアレンに逢うよ? 忙しいんでしょ、ジークも」
「まあ、暇ではないが……そもそも、これは我が家の話だしな。お前に任せっ放しと云うのも……まあ、なんだ? 申し訳ないというか……」
「……気にしなくても良いのに。それに、半分くらいは私のせいでもあるし」
もう、落ち込んだりはしないが……それでも、ジークとエカテリーナ様の間を取り持ったのは私である以上、完全に無関係とはいえない。少なくとも『わく学』の世界ならアレンがこういう拗れ方をする事も無かった訳だし。原因があるから、結果がある。だから、『因果』と言うのだ。
……尤も、わく学の世界のまんまだったら、アレンはもっとヤバい拗れ方をしていただろうが……それはそれ、これはこれだ。
「だから……なんていうのかな? えーっと……そう! 落とし前! 落とし前は自分で付けないとね!」
「……落とし前って」
呆れた様な視線をこちらに向けるジーク。あ、あれ? 違う?
「……まあ、いい。ただ、これだけは言っておくが……俺もエカテリーナ様も、お前の『せい』だとはこれっぽちも思っていない。感謝こそすれ、お前のせいにするなんてことは出来ない。それだけは覚えていてくれ」
「……嬉しい事言ってくれるじゃん」
「当たり前だ」
「だから、一緒に来てくれるの?」
なんだかちょっと嬉しくなる。微笑んでそう問いかける私に、ジークはついっと視線を逸らした。お? なんだ? 照れてるのか? 照れなくても――
「……それもあるが……その、悪い意味じゃないぞ? ないが……アレンの体も心配だし……その……物理的に」
「……おい」
照れてなんか無かった。おい!
「い、いや! ち、違うんだ!? でも……そ、そう!! 九歳で淑女になったお前がドロップキックなんてしたら『はしたない』だろう!? だから、それを心配してだな!!」
慌てた様にそれだけ言って視線を前に向けて歩く。そんなジークにジト目を向けながら、それでも前科があるしそれ以上の言及を避けてジークの後ろをついて歩く。しばらく歩いた所で、目の前のジークがこちらに振り返った。
「着いたぞ。ノックするが……準備は良いか?」
「暴力の?」
「違う!!」
「冗談だってば。さあ、ノック――と、その前に一個、良い?」
「なんだ?」
「ほら、私、結構ヒートアップする方だし? 気を付けるけど……物理はともかく、途中で口調が、その……」
「……ああ。不敬だなんだとは言わさないさ。そもそも第一王子の俺に敬語を使って無いんだ。今更だな」
よし、こっちも言質取った。
「それじゃオッケーだよ。お願い」
「分かった。その……申しわけないが、よろしく頼む」
そう言って小さく頭を下げてジークが扉を叩く。中から『どうぞ』という声が聞こえ、ジークがゆっくり扉を開ける。と、そこにはソファに座って本を読んでいるアレンの姿があった。って、アレンが読んでいる本って……
「……歴史学の、本」
「……何しに来た、アリス・サルバート? 見たら分かるだろう? 俺は勉強中だ。それとも何か? 兄上が五歳で読んで理解までした本を今更読んでいる俺を馬鹿にしに来たのか?」
正に取り付く島もない、という風にちらりとこちらに視線を向けて皮肉たっぷり、そう言って視線を本に戻すアレン。え、えっと……
「……構ってちゃん?」
「……なんだと? どういう意味だ?」
ギンっと擬音が付きそうなぐらいの勢いでアレンがこちらを睨みつける。そんな視線に自分の失言に気付き、慌てて両手をわちゃわちゃ振って見せる。
「あ、いえ! す、すみません、アレン殿下」
「謝罪は良い。『構ってちゃん』? とは、どういう意味だ」
「あ、それは完全に失言でして……」
「言え」
……仕方ない。
「……アレン殿下、本日私が此処に来ること分かっておられたのでしょう? ならば、客人が訪ねて来る以上、本を読みながら迎え入れるのは如何なものでしょうか? 礼儀として、失礼じゃないですか?」
「なっ! そ、それは……」
「少なくとも……まあ、この言い方したらアレン殿下嫌がるでしょうけど……ジークはそんな事しないですよ?」
「っ!! そ、そもそもだな!! 別に俺はお前が来ることなんて待ってなかった!! 兄上がどうしてもというから時間を作ってやったんだぞ!! それを、なんだ!!」
「どうしても嫌なら断れば良いでしょう? 少なくとも、一度了承した以上、それ相応の態度を取るのが筋ってものじゃないでしょうか?」
……たまに居るのだ、こういうヤツ。日本でOL時代、ちょっとだけ営業経験があるのだが……アポまで取って訪問した取引先で、こっちが喋ってるのに新聞読んで生返事する社長とか。大体、立場が上の……まあ、元請と下請の関係でこっちが下請の時とかに多い。そういう会社は、会社の業況が悪くなった時に誰も助けてくれないんだ。まあ、日本の常識とこっちの常識は違うから一概には言えないし、誰でもかれでもペコペコ頭を下げろとは言わんが……アポまで取った以上、最低限の礼儀はいるだろう。
「す、筋だと!? 公爵令嬢風情が、第二王子である俺に筋論を説くのか!! 不敬だぞ!!」
「……ジーク?」
「……アレン。敬語不要も、口調も俺が認めた。不敬にはならない」
「な! あ、兄上!!」
「それと、アリスは俺の婚約者で……大事な人だ。今後、第二王子『風情』のお前が、アリスを馬鹿にする様な発言は許さん」
「っ!!」
ジークの言葉に、アレンが押し黙る。そのまま、こちらに険しい視線を向けた。
「……分かった。本を読んでいたことは……くっ……わ、詫びよう」
絞り出す様な声。悔しいんだろうな、あれ。
「……それで? 『構ってちゃん』とはどういう意味だ?」
「……そのままの意味です。だって、今日、私が来るのを分かっていて、わざわざジークが五歳の時に読んでいた歴史学の本を取り出して読んで……その上で、『馬鹿にしに来たのか?』って……」
一息。
「――もう、『絡んで下さい! 構って下さい!!』って言ってるのと、変わらなくないですか?」
「喧嘩を売りに来たのか、お前は!?」
そういうつもりじゃないんだが……あるんだよね~、私、煽り癖が。
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