第七十七話 エディの謝罪
お父様の執務室を出ると、そこには心配そうな表情でこちらを見やるリリーとエディの姿があった。私が部屋から出て来た姿を認めると、すぐに駆け寄って来た。
「アリス!!」
「アリス様!!」
「どうしたの、二人とも? そんな顔して?」
心配そうな、申し訳無さそうな顔をする二人に首を捻る。と、絞り出すようにエディが声を出した。
「その……すまん。ウチの愚兄のせいでアリスに迷惑をかけてしまって……このことは私の方から父にはきちんと申し伝えて置く。その……本当に、申し訳ない」
唇をかみしめながらこちらに頭を下げるエディ。そんなエディに、私は笑顔を向ける。
「気にしなさんな、エディ。別にエディが悪いワケじゃないじゃん。悪いのはワイズでしょ?」
「だが……」
「それに、お父様も言ってたよ? 寄子の為に体を張ってこそ、寄親だって。リリーが絡まれている以上、リリーを助けるのは当然だよ」
ね? とリリーに視線を向けると、その視線に釣られるようにエディも視線をリリーに移して、先程と同じように深々と頭を下げる。
「リリーも、申し訳なかった」
「あ、頭を上げて下さい、エディ様! 私は気にしていませんので!」
「……あの愚兄には私の方から厳重に注意をしておく。謝罪もさせに伺いたいのだが……いかんせん、私の言う事に聞く耳を持たないヤツでな。年下、というのもあるが……なので、兄に成り代わり、私がお詫びする。申し訳ない、リリーも……アリスも」
「わ、私は本当にいいです!! そ、それよりも……その、アリス様のお立場が……」
「さっきも言ったけど、寄親が寄子を守るのは当然なの。だからまあ、そんな事で一々リリー、貴方が気にする事は無いわよ。まあ、寄親なのはお父様であって私じゃないけど……リリーは私の友達でしょ? なら、助けるに決まってるじゃん。私の立場なんて気にしないの」
「……アリス様」
「どうしても気になるっていうなら……そうだね、もし困った事があったら私の事も助けてくれる? 寄親とか寄子とか抜きに……『友達』として」
「アリス様……! はいっ!! それでも、これだけは言わせて下さい! 本当に、ありがとうございました!!」
そう言っていい笑顔で笑うリリー。ぶっちゃけ、力はリリーの方が強いだろう。純粋な腕力勝負の喧嘩なら、リリーに勝てる同年代は……まあ、精々ラインハルトぐらいのもんだ。いつか、リリーに助けて貰う時も来るんじゃなかろうかって、そう思う。だがまあ、私には『公爵令嬢』という立場がある。相互に補完し合える関係を築けて行けたらいいんじゃない? 技のアリスに力のリリー、みたいな。
「……本当にすまない、二人とも。兄はああ見えて、その……優秀は優秀なのだが……それを鼻に掛けるというか、なんというか……」
「嫌な奴って事?」
「……人がオブラートに包んだ言葉を……まあ、そうだ。優秀は優秀だが、賢しい人間ではない。小賢しいが関の山の人間だ」
「……あなたも言うね、エディ」
「……毎日毎日、『流石、エディだね~? その年で王城に出仕して凄いね~』なんて、嫌みと嫉妬たっぷりに言われれば、誰でもうんざりするさ」
そう言って疲れた様にため息を吐くエディ。そら、まあそうか。よく考えればエディ、あのワイズと一緒に暮らしているんだもな。
「私がこちらにお邪魔しているのも気に入らないみたいだしな。『ジーク派の巣窟』と随分口汚く罵ってくる。面倒な事にな」
「……あなたも大変なんだね、エディ」
「……まあ、首根っこを掴まれてこちらにお邪魔している訳ではない。自分の意思で決めた事だし……それは別に苦では無いさ」
そう言ってにこやかに笑うエディ。そう言って貰えると、まあ、うん……ちょっと嬉しい。
「……まあ、ともかく兄はそういう人間だ。器が小さいと言うか、他責的というか……きっと、今回の事も反省はしていないだろう」
「でしょうね」
「ばかりか、下手したら逆恨みして何か嫌がらせをしてくるかも知れん。何かあったらすぐに言え。俺の方で対処するから」
「……」
なんというか……今の話を聞いていれば、エディの言う事を聞く人間ではないっぽいんだけど? そんなワイズを、エディがコントロール出来るの?
「コントロール出来るのか、という顔だな?」
「えっと……う、うん」
「今までは別に実害はなかったからな。嫉妬したければ嫉妬すれば良いし、嫌みなど問題ではないが……」
一息。
「――アリスに手を出すと言うなら、俺のすべての力を使って叩き潰すさ」
……顔がマジなんですけど。こえーよ、エディ。
「エディ様……その際は、及ばずながら私もお手伝いしますので。お声かけ下さいませ」
お前もこえーよ、リリー。つうか、自己評価が低過ぎだろう? リリーが参戦したら、確実にオーバーキルなんだが。
「……気持ちだけ貰っておく。ただ、暴力はダメだよ、暴力は」
「……アリスだけには言われたくないが」
「……同感です。助けて貰っていながら言うな、という説もありますが」
「アンタらな? まあ、私は暴力禁止になったからね。次、暴力的な行為に出たらお父様の拳骨が落ちるから。既に一発、良いの貰ったし」
そう言ってため息を吐きながら頭をなでる。たんこぶとか出来てないか?
「……可哀想に」
「エディもそう思う? だよね? 女の子に暴力は流石に――」
「そうではなく」
「――酷い……え? そうではなく?」
そう言ってエディは哀れなモノを見る目でこちらを見やり。
「――暴力はアリスの生きがいだろうに……」
……おい。マジでいい加減にしろ、お前。
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