第七十八話 ワイズってさ? 誰かに似てると思ったら……
「そう言えばアリス」
エディは王城に出仕、クリフトは領地経営勉強中で不在以外はエリサも含めて参加していた勉強会の休憩中、紅茶を飲んでいる私に、ラインハルトがニヤリと笑いながら話しかけて来る。どったの?
「ワイズに絡まれて……撃退したらしいな?」
「……勘弁してよ」
揶揄う様にそう私に語り掛けるラインハルトに、うんざりとした顔を浮かべて見せる。そんな私に、ラインハルトが楽しそうに言葉を続けた。
「はっはははは! そんな嫌そうな顔すんなよ。洗礼みたいなもんだ、洗礼みたいなもん。犬に噛まれたとでも思って諦めな」
そう言って私の肩をポンポンと叩くラインハルト。犬に噛まれたって……いや、まあそんなもんだろうけどさ? っていうか……
「……洗礼?」
「ああ。アイツ、アレン王子派だろ? だから王城内で逢う度に俺とかエディに良く絡んで来るんだよな。めんどくせーけど、実害は無いから放っておいてるのに……まさか、ドロップキックかますとはな。流石、アリス。最近おとなしいと思ってたけど、やっぱりお家芸は健在なんだな?」
「お家芸ってなんだ、お家芸って。レディに言う言葉か」
「レディはドロップキックなんかしねーよ」
……確かに。
「ワイズ……ああ、エディの兄のワイズか?」
「そうそう。いるだろう、あのいけ好かないヤツ」
「……まあ、好かれているとは思わないが……そんなに面倒くさいか、ワイズ?」
「? ああ、そっか。ジークはそこまで害は無いだろうな」
「……なんでよ?」
ワイズが私達に絡んで来るのは……まあ、一番はエディに対する嫉妬だろうけど、それでも『アレン派』として、ジーク派の私達が憎いからじゃないの? そんな私の疑問の視線に、ラインハルトは肩を竦めて。
「王子様だしな、ジーク。問題になったら不味いと思ってんだろ?」
「……うわぁ……」
器、ちっちゃ! なんだよ、アイツ……強い者にはへーこらして、弱い者には威張り倒してんのか。
「……ですが、ラインハルト? ワイズ様はアリス様には突っかかって来たのでしょう? 問題にならないとでも思っていたのですか? 爵位自体は、サルバート家の方が上ですが?」
「そんときはリリーも居たからだよ、メアリ姉さん。アイツ、可愛いくて大人しそうな子に目が無いからな。リリーって一見すると清楚系じゃん? 実態はともかく」
「……ラインハルト様? 私は清楚では無いと?」
「清楚な女の子はラリアットなんかしねーよ……って、これ、さっきアリスに似た様な事を言った気がするな。さすが、サルバート公爵家の寄親寄子コンビ」
「……馬鹿にして」
「ま、そういう訳でメリット、デメリット勘案してリリー口説きに掛かったんじゃね? 宰相閣下とサルバート公爵が既知だって事も当然、ワイズは知っているし……問題になってもなんとかなるって思ったんだろう。そういう、狡い計算は早いヤツだし」
そう言って肩を竦めて見せるラインハルト。なんか……聞けば聞くほど、しょうもないな、ワイズ。
「……ちなみに、ラインハルト?」
「うん? どったの、姉さん」
「ワイズ様はリリーが……こう、好みだと思って声を掛けたわけなのでしょう?」
「多分な。アイツ、見た目は良いから結構モテるし……一緒にいる子見れば、そういうタイプが多いから」
「アリス様は?」
「……は?」
……は? 私? なんの話、メアリ? そんな私の視線を受け、メアリはゆっくりと口を開いて。
「――リリー様が可愛らしい事は認めますが……アリス様だって負けてはいません!! ワイズ様は、アリス様を放っておいてリリー様に声をおかけしたと……リリー様より、アリス様が『下』だと……そう言う事ですか?」
……底冷えする様な声音と視線をラインハルトに向けた。向けられたラインハルトが、ぶるっと体を震わしたのが見て取れる。
「し、知らねーよ!? っていうか、姉さん、その視線止めて! 怖すぎるって!! これ、完全に俺、巻き込まれ事故じゃん!?」
……確かに。不憫だ、ラインハルトが。
「……ま、まあ、ワイズの好みなんかさして興味もねーからしらねーけど……アリスみたいな気の強い女は好みじゃないと思うぞ? なんつうか……ナルシスト? そういうヤツだし。自分の言う事聞くヤツが好きなんじゃないか? っていうかさ、姉さん? アリスがワイズに口説かれてもいいのかよ?」
「良い訳ないでしょう!! ですが、眼中に無いのは業腹です! ワイズ様など、アリス様に愛を囁き、惨たらしく振られるべきなのですよ!」
「流石に理不尽過ぎない、姉さん!? 初めてちょっとワイズに同情したんだけど、俺!?」
気圧される様にそういうラインハルト。そんな姿を見ながら、私の隣で紅茶を飲んでいたエリサが私にだけ聞こえる様な小さい声で喋りかけて来た。
「……どっかで聞いたことあるな~って思ってたんですけど」
「うん?」
「……ワイズ様? って……なんとなく、エディさんに似てません?」
「……エディに? そりゃ、義理とはいえ兄弟なんだから、少しぐらいは……」
「そうじゃなくて」
私の言葉を遮って。
「――『わく学』の、エディさんですよ」
「……ああ」
そう言われて見れば確かに。ナルシストで、女性をモノ扱いして、感じが悪い。なるほど、わく学のエディだ、アレ。
「……アリスさんが居なければ……きっと、エディさんが『ああ』なってたんでしょうね」
「……そうかな?」
「そうですよ」
「……」
「……私ね、アリスさん。今、結構楽しいんですよ」
「……」
「わく学の世界に転生、なんて本当にどうしようかと思ったんですけど……こう、こうやって楽しく暮らせているのも、アリスさんのお陰です」
「……それはどうも。私がしている……っていうか、我が家がしてるのって生活の保障だけだけどね?」
「……」
「……なにさ?」
「照れてます、もしかして?」
「……うるへー」
「勿論、生活を保障して下さっているのも有難いんですけど……そうじゃなくて、なんで楽しいかって云うと……やっぱり、皆が居るからなんですよね。正直、『あの』わく学のメンバーと一緒に暮らして『楽しい』と思う日が来るなんて」
そう言って、にっこりと微笑んで。
「――ありがとうございます、アリスさん。アリスさんが、皆さんと仲良くしてくれたから……今が、こんなに楽しいんですよ? アリスさんの、功績です」
「……そうかい。良かったよ、馬鹿な攻略キャラを教育して」
「……」
「……だから、なに?」
「アリスさん……」
ニヤリと笑って。
「顔、真っ赤。ちょー可愛いですよ?」
……照れるんだよ、バカタレ。でも、まあ……うん、悪い気はしない。頑張って来て、良かった。
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