第五十七話 よばれた方にも問題があるという問題。
「商売って……」
「商売ですよ、商売!! よくあるじゃないですか、異世界転生物と言えばコレ! ぐらいの勢いでしょ! 商売って!!」
「いや……まあ、確かにそうだけど……」
一般的に――まあ、異世界転生を一般的って言って良いのかどうかはともかく、一般的に転生した異世界よりも、元居た世界の方が栄えているのが通例ではある。その文明の差を利用して商売する、ってのはまあ、創作ものではよくあるっちゃよくある話ではある。良くある話ではあるのだが……
「……そうですね……手始めに生活用品の開発から始めましょう!! まずは石鹸です、アリスさん!! 『うわぁ! こんな凄い石鹸、使った事ない!!』って云うのは定番ですよ! シャンプー、リンス……化粧品とかも良いんじゃないですか!! アリスさん、社交界にも顔が広いでしょ? 飽くなき美への探求は社交界からですよ! きっと、売れ行きがっぽがっぽですよ!!」
目をランランと……瞳の中に¥マークが見えるぐらいに目を輝かせるエリサ。
「……お金、好きなの?」
「むしろ、嫌いな人居るんですか?」
「いや、そりゃ居ないだろうけど……」
なんだろう? 今のエリサ、完全に守銭奴に見えるんですけど……
「お金って大事なんです。私、大学生だったじゃないですか? 就活していたんですけど……これがもう、全然ダメで」
「……厳しかったの、就活?」
私が転生した時って流行ってたからな、例の病気。経済に与えるダメージは深刻って言ってたし……そう言えば私の夏のボーナスって出たのかな? 貰う前に転生しちゃったけど……
「まあ、厳しいのは厳しかったですけど……そもそも、あんまり働きたくも無かったんですよ、私。だから、好きな事で生きて行こうと動画投稿始めたワケでして……」
「……そんなに貰えるの、動画投稿?」
「人による、としか……人気商売ですし、貰えない人は全然ですね。私は……まあ、そこそこ、でしょうか。サラリーマンの月収くらいは貰ってましたよ、月に」
「……マジか」
結構凄いんじゃないか、それ。まあ、上には上が居るんだろうが……
「就職しなくて良いんじゃない、それ?」
「流石に世間体もありますし……というかそもそも、あんな人気商売、何時までも続くわけないですし。私の最終目標は、就職して、良い男性を見つけて、ことぶいて退社、小さいながらも家を建てて、犬を飼って……子供は三人、旦那さんと仲睦まじく暮らしながら、動画投稿で家計の足しに、でしたから!!」
「……昭和か」
あ、いや、別に馬鹿にするワケじゃないし、ある意味幸せな家族の象徴みたいなところはあるが……女子大生の夢にしちゃ、渋すぎないか、おい? 堅実と言い換えて良いかも知れんが……
「……まあ、その夢は潰えてしまいましたが……」
「……そうだね」
「……まあ、それは言っても仕方ないですからね。今は生き残る事に全力を尽くします!! 現代知識をフル活用して、今まで見た事のない石鹸とかシャンプー、リンスや化粧品を作り上げますよ、私は!!」
「……ちなみに聞くけど、石鹸とか作った事あるの?」
「実際にはありませんが……これでも私、乙女ゲーのみならず、BL、悪役令嬢転生物小説、アニメと、結構訓練されたオタクですから!! 経験こそないものの……知識だけなら此処にあります!」
そう言って人差し指で自分の頭をトントンと叩くエリサ。九歳の女の子の仕草らしからぬが……流石、神絵師るーびん先生の作画キャラの外見をしているだけあって非常に愛らしい姿に見える。
「アリスさん、二年もこの世界に居るんですよね? 一度も無かったですか? 元の世界には有ったのに、こっちの世界には無くて不便だな~って思った事」
「そりゃ……あるけど」
スマホとかパソコンとか。
「でしょ、でしょ? 流石に精密機器みたいなものは無理ですけど……でも、そういうものじゃ無ければ……この世界の科学力で出来る事であれば、私の知識とアリスさんの財力があれば、なんでも出来るハズです!!」
そう言って、エリサはにっこり笑って。
「――私達なら、『有ったら良いな』を形に出来ます!!」
「……製薬会社か」
どっかで聞いたキャッチコピーなんだが。
「でも……まあ、無理かな、石鹸とかシャンプーとかは。無論、化粧品もだけど」
「なんでですか!! あ、体に直につけたりするものは危険とか考えてます? 大丈夫ですよ! きちんと成分に配慮して――」
「ああ、そうじゃなくて」
うん、勿論そっちも懸案事項ではあるが……そうじゃなくて、もっと根本的に。
「――もうあるんだよ、石鹸とかシャンプーとかリンスとか……化粧品とか。結構良いモノが。素人がいきなり作った石鹸やシャンプーじゃ、ちょっと太刀打ちできないんじゃないかな?」
「…………はい?」
「ゲーム内でもあったじゃない? 石鹸とかシャンプー、化粧品って」
「あ、ありましたけど……え? あ、あれ、そんなに良いんですか?」
「……少なくとも私が前世で使ってたヤツよりは良いわね」
私も前世では二十九歳。ある程度、お肌の曲がり角的な年齢でもあるし、社会人としてそんなに恥ずかしい化粧も出来ないので美容関係にはある程度お金をかけてはいたが……そんな私が使っていた物より、良いモノがこの世界にはあるのだ。
「な、なんで? なんでそんなのがあるんですか?」
「……さあ」
前もちょっと言ったと思うが……この世界、印刷技術とかロクに発展してない癖に、綺麗な紙で包装されたキャンディーとか出て来るのだ。化粧品とかシャンプーとか石鹸なんかも同様、物凄く充実していたりする。
「まあ、乙女ゲーの世界だしね。登場人物全員すっぴんとか無理でしょう?」
「そ、そりゃそうかも知れませんけど……」
「実際、社交界のシーンとかで結構なおばちゃんマダムが綺麗なアイラインとか引いてたりするじゃん?」
「いや、そりゃそうでしたけど……で、でも! それってなんかおかしく無いですか!? 普通、そういうのより先にもっと発展させるものがあるっていうか!! なんでそんなに美容関係発展しているんですか!!」
何とも言えない表情でこちらを見やるエリサに、私は小さく肩を竦めて。
「――そういうゲームじゃん、『わく学』って」
「マジでわく学、クソゲーですね!!」
……うん、その意見には全面的に同意するよ。
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