第五十八話 アリスちゃんのおねだり攻撃!! しかし、不発におわ--って、ないだと!!
がっくりと肩を落としたエリサを慰め、少しだけ立ち直った所でエディに引き渡した私はその足でそのまま、王城内にいるお父様の元へ向かった。確か今日は仕事で王城に居るって言ってたし……
「お父様!」
「……アリス?」
王城に与えられたお父様の執務室。秘書さんみたいな綺麗なメイドさんと話をしていたお父様が驚いた様にこちらに視線を向けた後、嬉しそうに微笑んで秘書さんに何かを言う。その声を聞いた秘書さんも温かい笑顔で頷き、私の横を通り過ぎて。
「閣下、お喜びですよ? 可愛らしいお嬢様が遊びに来てくださったので」
笑いながらそう言って通り過ぎる秘書さんに曖昧に笑いを返して、私はお父様に向き直る。お、おお……マジだ。マジで嬉しそうな顔をしておる。
「どうした、アリス? アリスが私の執務室に来るなんて珍しいな? いつもはエカテリーナ様の所ばかりなのに」
この二年、なんだかんだと王城には足を運んでいる。いや、幾ら公爵令嬢と言えども流石に仕事に関係ない小娘がうろちょろして良いモノかと思わんでも無いのだが……『アリスは自由に来てくれたらいい』というエカテリーナ様の有り難い言葉で、こうやってちょくちょく遊びに来させて貰っているのだ。こんなにセキュリティーガバガバで大丈夫かと思うが……まあ、わく学だし、こんなもんなんだろう。そら、国も滅びるわ。
「その……少し、お願いがありまして」
「……お願い、か」
心持、しょんぼりするお父様。お、お父様?
「ええっと……なんでがっかりしているんです?」
「……アリスがお父様の仕事に興味を持ってくれたのかと思ったからな。そうか……おねだり、か」
いじけた様な表情を浮かべるお父様……って、なにこのお父様!! アレか! 可愛い娘が折角やって来たのに目的が『おねだり』で拗ねてるの!? なんだよ……ちょっと可愛いじゃないか。
「……すみません、お父様。勿論、お父様のお仕事にも興味がありますよ?」
「……そう思うなら」
「ええ。これからはちょくちょく、寄らせて頂きますね」
私の言葉に嬉しそうに微笑むお父様。この人も大概、娘大好きだよな~。この二年でよく分かったよ。
「……そうしろ。それで? どんなお願いだ? なんでも言ってみなさい」
「有難いですけど……甘やかし過ぎでは無いですか? なんでもって……」
嬉しいけど、その育て方はロクな子に育たないぞ? もうちょっとこう、厳しくしつけをしないと。そう思う私に、お父様は困った様に眉根を寄せた。
「……お前が他の貴族令嬢の様に我儘放題なら考えるのだがな? アリスは新しいドレスも、綺麗なアクセサリーも欲しがらないだろう?」
「……まあ」
正直、ドレスなんて幾らあっても体は一つしかない。箪笥の肥やしになるくらいなら勿体ないから買わなくていいとは言ってはいたが……そもそも私、九歳だし? そんなにドレスばっかりあっても着ていく機会もないんだけどね。パーティーとかもまだ無いし。
「それでも、だ。メアリが嘆いていたぞ? 『折角、美しく成長なされたのに……少しは着飾って下さっても宜しいのに』と」
「……メアリ」
あの子、最近私を飾り立てようとしている節があるからな。にしても、『美しく』って……メアリに育てて貰った身としては、姉や母の様にメアリを思っているが、流石にそれは親バカ過ぎないか? 身近にもっと綺麗に育ったリリーが居るのに。
「まあ、メアリの意見も分からんでもないが……アリスはそのままで十分に綺麗だしな」
……ああ、こっちにはバカ親が居たわ。そんな事を思いながら、曖昧な笑顔を浮かべる私にお父様は言葉を継ぐ。
「だからまあ、アリスから『おねだり』されたらなんでも聞こうと思ってはいたんだ。普段、甘えて来ないアリスのお願いは、可能な限りは聞こうと思っていたしな」
……そんな事考えてくれていたのか。全く……私には勿体ない、いいお父様だよ。
「ありがとうございます、お父様。それでは遠慮なく、宜しいでしょうか?」
「ああ。言ってみてくれ」
そう言ってにっこり微笑むお父様に、私もにっこりと微笑み返し。
「――光魔法の使い手、現れたでしょう? あの子を……」
家で引き取って貰えませんか? と。
……そう。
今回、普段は『おねだり』なんかしなかった私がわざわざおねだりをしにまでお父様の執務室を訪ねたのはこの為だ。エリサが不憫というのもあるが……やっぱり、同郷から来た子だ。仲良くしたい、という気持ちもある。
「……」
……後はまあ……ごめん、ちょっとヤラシイ話をすれば監視の意味もある。ちょっと話をした感じではエリサは根はいい子だと思うが……そんなに簡単に見抜けるほど、自分の観察眼に自信を持っている訳ではないのだ、私。目の届くところに置いておきたい、という気持ちもあるのだ。
「……どう、でしょうか?」
普通なら、反対をされるだろう。そう思う私に、お父様は小さく息を吐いて。
「なんだ、そんな事か。勿論良いぞ」
「…………へ?」
「光魔法の使い手……確か、エリサ・ロクサーヌ嬢だったか? 勿論、家で引き取るのは可能だ。アリスとは同い年だし、仲良くしてくれ」
何でもない様にそう言うお父様。いや、ちょ、待って!!
「あ、あの……自分で言っておいてなんですが、良いんですか? 犬や猫を拾うのとは訳が違いますよ!!」
「お前こそ何を言っている。犬や猫などと同じように……ペットを飼うつもりだったならば、私はお前の教育をし直さなければならないぞ?」
「そ、そんなつもりはありません!! 友として接します! 接しますが……」
いや、あんまりにも簡単じゃね?
「光魔法の使い手が現れた場合、国が保護をする事になっている。知っているか?」
「え、ええ。それは勿論」
「保護の仕方も色々あるが……あれほど幼い子であれば、貴族屋敷で保護をするのが一般的だ」
「……そうなんです?」
修道院とかに入れられるかと思っていたんだが……違うの?
「修道院などに入れて急に光魔法が発動したら他の修道女に迷惑が掛かるだろう? 真夜中などに発動されたら迷惑この上無いぞ?」
「……確かに」
「王城は政務も司る場所だし、そこで光られても困る。そもそも、機密情報を扱う王城内を自由に歩かせるわけには行かんしな。当然、罪人でも無いのに牢屋につなぐなど論外だ。まあ、結論として貴族屋敷で保護、が一般的だな。貴族屋敷は部屋数も多いし、まあ急に光り出しても迷惑は最小限だ」
「……そうだったんですね」
それは知らんかったぞ。
「無論、成人すれば幾らか変わっては来るがな。少なくとも学園を卒業するまでは我が家で保護する事が決まっていた。エカテリーナ様からも推薦があったしな」
「エカテリーナ様?」
「『きっと、急に光魔法の使い手になって混乱したり落ち込んでいるハズ。同い年で、同性で……色んな子供を救ってくれたアリスなら、問題ない』と……まあ、そう云う訳だ」
「……」
……エカテリーナ様からの信頼が、半端ない。嬉しいんだよ? 嬉しいんだけど……うん、頑張ろう……
「……分かりました。ありがとうございます」
「気にするな。むしろ、こちらからお願いをしようと思っていたぐらいだ。光魔法の使い手と仲良くしてくれというつもりだったのだがな?」
その労が一つ減ったと笑うお父様。
「……だから、アリス? お前の願い事は願い事ではない。他になにか無いか? 欲しいものなら、なんでも買ってやるが?」
「……そう言われましても……」
欲しいものって言われても、そんなに直ぐには――
……。
………。
…………ん?
「……なんでも良いんですか?」
「ああ、なんでもいいぞ?」
「……」
……そっか。それなら……
「お父様」
「どうした?」
なんでも良いなら。
「――私に一つ、会社を買って頂けませんか?」
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