第五十六話 『わしが育てた!』って言っても良いよね、これ。
私の言葉に盛大にずっこけるエリサ。あ、あれ? もしかして……
「……裏番組の方、見てた?」
あのお化け番組じゃなくて裏番組の方を見ている可能性もあるぞ。なんと言ってもエリサ、わく学を周回プレイできる豪の者だし、人とは違った事をしている可能性もある。
「い、いいえ! ちゃんと見ていましたよ、私も。主人公の俳優好きでしたし!」
「そうなんだ。格好いいよね~、あの俳優さん」
私もファンだったな~。
「え、ええ……って、そうじゃなくて! 気にならないんですか!? どうして滅びたかとか、そう云った情報!!」
「え~……そう言われても……」
正直、あんまり興味はない。ああ、いや、正確には興味が無いワケでは無いのだが……なんだろう?
「……どうやってエリサとジークが殺されたのか、エリサは知っているの?」
「だから、断頭台に――」
「それは手段でしょ? エリサ、結果を知っているだけだよね? 原因は分からないってさっき言って無かった?」
「――そ、それは……はい」
「悪政をしたってのは分かったけど、一体どんな悪政をしたのかが分からない。税金が高かったのか、配下の意見を全く聞かなくて横暴の限りを尽くしたのか……或いは全部か。それ、エリサは全然知らないんでしょ?」
「……はい」
「それじゃ、これから起こる事を聞いても対処できなくない?」
結果だけは分かっても、どうしてそうなったかが分からないなら対処のし様がない。まあ、そもそも王位を継がないって選択肢もあるんだろうが……エカテリーナ様見てたらそれは絶対認めないだろうし。もし、此処でジークが廃嫡とかなった日にはエカテリーナ様がきっと荒れるぞ。
「そ、そうですけど……そ、それでも気にならないんですか!! だって、もしかしたらアリスさんだって死んじゃうかも知れないんですよ!! ゲームに出て来てないだけで、どっかで野垂れ死んでるかも知れないじゃないですか!!」
「……ヤな事いうね、貴方」
まあ、確かにそうかも知れないけど。ウチだってそこそこ大きめな貴族だし、どこまでジークの『悪政』に加担していたか分かったもんじゃない。なんだかんだで婚約者だったわけだし、ゲームでは。
「……うーん……でもね~……正直、あんまりピンと来ないんだよね」
「なんでですか!! 当時、ネットでも『そりゃ、アイツらが政治したら国も亡びるわな』って評判だったんですよ!! 『超展開? いやいや、王道ですな』って!!」
「……まあ、確かに」
私だって思ったもん。『あ、こいつらが国のトップになったら絶対滅びるな』って。でもさ?
「……でもまあ……今のジーク見てたら、そんな事は無いんじゃないかな~って思うよ?」
そう。
私がエリサの話を聞いてもいまいち危機感が湧かないのは正にそこだ。今のジークは昔……というか、『わく学』に出て来たジークとは似て非なるもの、下々の声にも耳を傾けつつ、それでも『王』としての矜持は保ったままっていう……まあ、そんな感じになっている。まだ王じゃないけど。陛下からも『最近のジークはすっかり変わったよ。アリス嬢のお陰だね』なんてお褒めの言葉も頂いたし。
ラインハルトにしても、エディにしてもそう。クリフトは……まあ、昔っからリリー一筋でいまいちよく分からんが……それにしたって、悪政に加担するようには見えない。むしろ、ジークが道を誤ったら一番最初に叱り飛ばしそうだしな、二人とも。
「う……そ、そうなんです?」
「私、転生した日が七歳の誕生日だったんだよ」
「七歳の誕生日って……はっ! まさか、ジークとアリスの婚約が発表される、あのイベントですか!!」
「……あのイベントって。そんなイベントあったっけ?」
「ありましたよ!! リリーとの会話の中でジークが、『アリスの七歳の誕生日に婚約をさせられた。迷惑だ』っていうセリフを言うヤツですよ!!」
「……テキストだけじゃないか」
どんだけ訓練されたわく学プレイヤーなんだ、エリサ。テキストだけのイベントを良くもまあ、そらで覚えてるな?
「……まあ、そういう訳で七歳から二年間、殆ど毎日……とまでは行かないけど、週に二、三回は逢ってるしね、ジークと。今では結構仲良し……だと思う」
「……アリス・サルバートとジーク・スモルが仲良しって……想像も付かないんですけど」
「……私もそう思う」
原作ではジーク、アリスを嫌いまくってたしな。良くもまあ、此処まで仲良くできたもんだと自分でも思うよ。
「あの子達も根は悪い子じゃないんだよ。ちょっと家庭環境とかで曲がった性根になってたけど……今は随分、良くなったし」
そう考えたら、最初に私が考えていた、『平和な生活の為にコイツら教育してやるぜ!!』という考え方もあながち間違っては無かったのかも知れない。グッジョブ、二年前の私!!
「……」
「エリサ?」
「……いや……なんか、そう云う……なんて言うんでしょ? 心に傷を負った攻略キャラの傷を癒すのって、普通は私の役目じゃないです? もしくはリリーの。なんでアリスさんがその役目してるんですか?」
……確かに。セリフ二つ実装のモブキャラのやる仕事では無かったかも知れない。
「いや、別にその役目をやりたいかって言われると面倒くさそうなので良いんですけどね?」
「良いの?」
「良いですよ。だってわく学ですし……他のゲームならもうちょっと頑張ろうかと思いますけど……わく学じゃ、モチベーション上がりませんから」
「……酷い」
「でも……原作の修正力とか……ありませんかね? ほら、定番じゃないですか? 原作の修正力で、今までのキャラが一気に心変わりしちゃうとか!」
「……まあ、無いワケじゃないだろうけど……」
よく見る展開と言えば展開ではあるな、うん。
「でもさ? それじゃエリサはどうすれば良いって思ってるの? そんな原作の修正力とか言い出したらキリなくない? 何やっても無駄って事でしょ?」
私の言葉に少しだけエリサが考え込むように宙を睨む。
「……滅びない様にするのはアリスさんがしてくれるって認識で良いですか?」
「まあ……うん」
滅びない様にっていうか……ジークが立派な王になるようには頑張っているつもりではある。完全にオカン目線だけど。
「……それで……アリスさんは、私にも楽しめと言って下さっている。援助もして下さる、と……」
「そうだね」
泣いても拗ねてもどうしようもないなら、楽しんだ方が良いだろう。なんの因果か、同じ日本から転生して来た訳だし……出来る事はさせて貰いたいと思う。日本の話だってしたいしね。
「……では、私は私のやりたい事をします」
「お、いいじゃん? 何がしたいの? 出来る援助はさせて貰うよ?」
「ありがとうございます。その……私、国が滅びても生き延びる様にはしておきたいです!! 私とアリスさん、二人が生きていけるぐらいの蓄えは貯めておきましょう!!」
「滅びを回避じゃなくて、滅びた後?」
「はい!」
そう言ってエリサはにっこり笑って。
「――商売しましょう、アリスさん! 転生物の定番ですよ、定番!!」
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