第四百二話 辱めを受けた!! ……ロッテが。
「……明るい国家運営……に御座いますか……」
陛下の言葉にポカンと口を開けてそんな事を口に出すロッテ。そんな年相応に幼いロッテの姿に陛下はクスリと笑みを漏らす。自分のその間抜け――っていうか、可愛いんだよ? 可愛いんだけど、ともかくそんな姿を見られたことが恥ずかしいのか、ロッテの頬に朱色がさっと走る。
「ああ、ごめんごめん、シャルロッテ。うん、アレンに聞いてた話だとすごく大人のお姉さんみたいなイメージだったからさ? 年相応の女の子だな~って思っただけだよ?」
「お、お戯れを……」
陛下の追い打ちにロッテは顔を下げる。うん……これは……
「……セクハラ……」
「ごほごほごほ!!」
お、おお。ごめんって、ジーク。つい、心の声が漏れて。だってさ? 陛下の今の言葉って、『うーん? もうちょっと大人っぽいと思ったけど、子供らしいところもあって可愛いね~』って意味でしょ? なんだろう? エカテリーナ様とか、ジークのお母様の見た目の話を聞いたからか、どうしても陛下が『そっち』に見えるというか……ロッテだって現代日本だったら高校一年生、華のJKだし。
「しかも明るい国家運営って言っているけど……言っている事は政略結婚っていうか……」
「アリス!!」
私の言葉についに咳払いでは誤魔化せないと思ったのか、ジークが声を上げる。そんなジークと私を見て、陛下は面白そうに口を開いた。
「あれ? アリスは反対かな? 明るい国家運営」
「いえ、別に反対ではありません。先程も申しましたが、ロッテは得難い友人ですので。そんな得難い友人と義理の姉妹として過ごせるのであれば……そうですね、『平和な統治』となるでしょう」
アレン派、ジーク派みたいな括りは……どうだろう? 最近、王宮に顔を出していないのもあるからあんまり正確には分からないけど、少なくとも昔よりはゆるーくなっているとは思う。思うけど、だ。
「それで良いのでしょうか、とは思います」
「政略結婚は貴族の……そうだね、『嗜み』で、それに仕事でもあるさ。それこそ君だってそうじゃないか、アリス。今はともかく……最初は……」
そこまで喋って陛下は宙を見て何かを考え込む。
「……あれ? 婚約の話もリンドからだったし、それはアリスがジークを気に入っているっていう話だったし……そもそも、アリスに失礼な事をしたのはジークであって、アリスからはずっとジークを好意的に見ていたというか……」
そうなのだ。いや、私だって貴族令嬢のはしくれ、『政略結婚なんてダメです!! やっぱり結婚は好きな人とー!』なんて妄言を吐くつもりはさらさらないよ? でもさ? 私がやっている事って『この人と結婚するー』ってお父様に我儘言ってジークの婚約者になって、『今の』私になってからは恋愛感情こそないものの、友好的な関係を築いて……その……今は……え、えへへへへへへ~。
「……アリス? なんか凄くだらしない顔をしているよ? とりあえずレディなんだし、涎は拭いた方が良いんじゃないかな?」
「……へ? よだ――わぷっ!」
はっと意識を取り戻した私の口元をジークがハンカチで優しく拭ってくれる。
「……なんか恋人って言うより介護みたい」
失礼な事を言うんじゃないよ、陛下。誰が被介護者だ、誰が。
「……コホン。まあ、私は恵まれたパートナーを得たとは思っています。思っていますが、それはそれとして貴族として政略結婚の重要性も勿論、理解しています」
「うん」
「ですので、ロッテがアレンに嫁ぐことによって国家の平穏が保たれるのは確かに素晴らしいと思います。思いますが……」
ちらっとロッテを見る。
「……ゲーリング家の家訓……というか、配偶者選びって……こう、政略結婚の真逆というか……恋愛結婚推奨派閥の領袖というか……」
ゲーリング家が『恋愛結婚がベスト! 人は守るものがある方が強くなるから!!』という思想なのはロッテのお兄ちゃんから聴取済みだ。色んな意味でロッテがアレンに嫁ぐのはプラスなんだろうけど……家訓的に難しいんじゃないかな、とは思うよ、うん。
「……なるほど。確かにゲーリング家は今の当主も恋愛結婚だし、シャルルもあれだけの有望株なのに、あの年で婚約者も決まっていないからね」
「そうです。ですので陛下がそう仰っても、ゲーリング家が首を縦に振るかは別問題と言いましょうか……」
まあ、そうは言ってもゲーリング家も王家に『ちゃんと』仕える身だ。ウチの家みたいに、『はん? アリス様を泣かした? よし、ぶっ殺す!!』を地で行く集団ではないので、最終的には首を縦には振るんだろうけど……なんか良い事にならない気がするんだよね。面従腹背じゃないけど、禍根はのこりそうだな~って思う。
「……うん。それは確かに。でもね、アリス? 君はちょっとだけ勘違いをしているよ。僕は家族が大事だし、大好きだ。だからこそ、息子には平和な結婚をして欲しい。なにより」
一息。
「どう考えても、シャルロッテはアレンの事、大好きだろうし。それなら問題ないと思うね」
「デリカシーとか無いんか」
……見て見ろ、ロッテのあの真っ赤な顔。なんでこんな辱めを受けなくちゃいけないんだよ、ロッテ。




