第三百九十九話 権利と義務
子育て下手疑惑――っていうか、これは疑惑でもなんでもなく、間違いなく下手なのは確定的明らか。そう思う私の思惑を知ってか知らずか、陛下は視線をロッテに向ける。
「シャルロッテはどう思う? 忌憚のない意見でどうぞ?」
まさか陛下に話を振られると思っていなかったのだろう。ロッテは少しだけ驚いた様に目を見開いた後、少しばかり私、ジークに視線を飛ばした後で陛下に向き直る。
「……恐れながら……よろしかったのでしょうか?」
「よろしかった、っていうのは?」
陛下の言葉に深呼吸を一つ。
「――私に聞く『権利』はあったのでしょうか、という意味です」
「権利?」
そんなロッテの言葉に、きょとんとした顔を浮かべる陛下。そんな陛下に、まるで幼子に道理を説く母親の様に――というと、失礼が過ぎるか~。まあ、優しい声音で話しかけた。うん、ダメ親疑惑に引っ張られ過ぎだよね、私。
「……ジーク殿下は王太子であり、アリスはその婚約者です。ティアナ様のお身内であり……いずれはこのスモル王国を率いて、導いて行かれるお方です。そのお二人であれば、先程の……その……」
躊躇いは一瞬。
「――『外交』と『戦争』の方針を聞く権利はあるでしょう。ですが、私は侯爵令嬢に過ぎません。その私が、この様な国家の大事を聞いてよろしかったのでしょうか?」
じっと陛下に視線を固定してそう問うロッテ。そんなロッテに、陛下は相変わらずのきょとん顔。でも、それもちょっとの間の事だった。
「……っく」
「……」
「……くくく……あははは~。権利か~。うん、面白い事を言うね~、シャルロッテ」
陛下の控えめながら、それでも楽しそうな笑い声。
「……陛下?」
そんな陛下に、ロッテは困惑した顔を浮かべる。うん、そりゃそうだ。私だって思うよ、うん。
「……ええっと……陛下、ついにくるっ――」
「アリス、ダメだ! 流石にそれは不敬が過ぎる!!」
おお。危ない危ない。思わず心の声が漏れるとこだった。でもさ~?
「……今までの情緒不安定な陛下を見てたらそりゃ、そう思うと思わない?」
「……身内の事ながら否定は出来ない。出来ないが、アリス? 建前というものがあるだろう? 思ったことを直ぐに口に出し、行動し、そして是正出来るのはアリスの良いところだとは思うし、憧れ、慕う所でもある。あるが、ケースバイケースで頼む」
「……なんかちょっと馬鹿にしてない?」
「していない。やれば出来る子だと信じているだけだ」
それ、絶対馬鹿にしているやつ!! 不満げにジークを睨む私に気付いているのか、いないのか、陛下はロッテに言葉を続けた。
「ええっと……シャルロッテとアレンは結構良い仲だって認識だけど……違うかな?」
「そ、それは……」
先ほどの困惑顔とは別の種類の困惑顔を浮かべて、更にその困惑顔の上に朱色を乗せるロッテ。その姿は非常に可愛らしいが……なんだろう。職場の若い女の子に『彼氏はいるのか、うん? デートとか言っているのか?』って聞くセクハラ上司を思い出しちゃった。
「……なんか失礼な事を考えていないか、アリス?」
「考えて無いよ」
鋭いでござるな、ジーク氏。
「そ、その……アレン殿下には……良くして頂いているというか……」
顔を真っ赤にしながら『あうあう』とそう言って見せるロッテに陛下は苦笑を一つ。
「……ごめんごめん。流石に若い令嬢には答えにくい質問だったね。デリカシーが足りて無かったよ。でもまあ、僕の意思としては、シャルロッテにはアレンの所に嫁いでくれると良いと思っているんだ」
「……勿体ないお言葉です。そこまでご信頼頂けるのは、望外の幸福です」
「勿体ないのはこっちの方だけどね。それに、アレンの側近……って感じではないけど、学友にはシャルルがいる。シャルロッテはシャルルの妹だしね。元々、ゲーリング侯爵家とは友好的な関係だけど、シャルロッテがアレンに嫁げば、もっとその関係性は補強出来る。それに、君はアリスの親友でしょう? ジークとアレンの仲は今は良好だけど、何時までも良好かどうかは誰にも分からない。でも君たち二人が義理の姉妹になってくれたら、それも一つの補強材料だしね」
「……私たちが、ですか?」
「女の子に弱いのはスモル王家の伝統だからね。きっと、アレンもジークも君たちには逆らわないと思うよ」
『それもどうかとは思うけど』と、そう言って苦笑を浮かべる。
「ま、後はアレンとシャルロッテは相性も良さそうだしね。二人で王弟夫婦として……まあ、さっきの話の通り、ティアナが『ラージ帝国皇帝』に嫁入りするなら、副王家の当主が空家になっちゃうから……新たな副王家として立って貰っても良いと思っている。この辺はこれからの調整になるけどね。だからごめんね、シャルロッテ。ちょっと笑っちゃって」
おかしそうに。
「王族に嫁ぐんだよ、シャルロッテ? ならば国家の行いを聞くのも、行く末を考えるのも権利じゃない。それはね?」
『義務』って言うんだよ、と。
おかしそうに、陛下は笑った。




