第三百九十八話 その才能がもう少し別の方面に延びれば……わく学は神ゲーになっていたかも知れない……無理か
陛下の『ワルイカオ』に若干――っていうか、ドン引きする私とロッテ。そんな私たちの表情の変化に、少しばかり陛下が苦笑を浮かべて見せる。
「ああ、ごめんごめん。流石に若い女の子を前にする話じゃなかったね? でもね? 僕はスモル王家の家長だし、ティアナは家族だ。それなら『家族』の幸福を願うのはそんなにおかしい事じゃないでしょ?」
「まあ……そりゃ、そうですけど」
ウチのパパンにしたって私の幸福を祈ってくれているだろうし。それに関してはまあ、理解は出来るんだけど……
「皇位簒奪はちょっと……」
「マックス殿下が願うなら、だよ? 僕はこう見えて情が深いからね? ティアナの旦那さんって事は僕の義息子みたいなものだし、そりゃ義息子の願いなら叶えてあげようかなとは思うよ?」
「義息子の為って……」
いや、家族大事は良い事だと思うよ? 思うけど……
「戦争とか、起っちゃう感じですかね……?」
ただでさえ、ウチの領地はラージ帝国の最前線なのだ。戦争になったら間違いなくお父様は出陣することになるだろう。最前線に当主が身を置くというそれがサルバート家の伝統でもあるし、私だってサルバートの娘として、そこに対して思う事はない。ああ、いや、本当は戦争になんて行って欲しくはないけど……でも、覚悟はしている。そんな心配を浮かべる私の表情を見て、陛下が優しい笑みを浮かべて見せる。
「発想が逆、かな~?」
「逆?」
「殺しても死にそうにない、とは言ったけど、皇帝殿だって人間だし。もしかしたら此処で何かが起こる可能性もある。ならば、早めに切れるカードは切っておいた方がいいんじゃないかな、とは思うね」
「切れるカード、ですか?」
「なんだかんだ言ってマックス殿下は優秀だし、血筋も良い。ラージ帝国の第一皇子でもあるし、帝位を継承する資格は充分あるんだ」
「それは分かりますけど……」
「古今東西、兄弟で王位を争って血で血を洗う戦争になった例なんて枚挙に暇がないんだよ。だから、この現状で……もし、皇帝殿が身罷られた場合は戦争になる可能性が高いんだ。だから、どっちにしろ戦争は起こると思ってた方が良い。精神衛生上ね?」
『起こるかもしれない』、ではなく『起こる』と思っておけ、という陛下の言葉。
「……発想が逆って、そういう事ですか?」
私の言葉に、陛下は首を振って見せる。
「ううん」
横に。へ?
「全部仮定の話ではあるけど……戦争が起こった場合、どういう状態が戦争が長引くと思う?」
「どういう状態って……そりゃ、どっちが皇帝陛下に決まるか分からない状態、じゃないですか?」
後継者が決まって仕舞えば……まあ、例外もあるだろうけどある程度は国内も落ち着くと思うんだけど……
「その通りだね。最低の予想で、両皇子の間で戦争状態になるとする。なのに、片方の王子の旗色が不鮮明だったら、どうだろう? 下に付く貴族はたまったもんじゃないよ、これ。特にマックス殿下は武官派貴族が尤も担ぎたい神輿だろうしね? その神輿が『俺は皇帝にはならない!』って宣言したら?」
「……そしたら第二皇子が即位するんじゃないですか? っていうか、そもそも既定路線がそうだったって聞いたんですけど……」
「皇帝殿が健在だったらね。でもさ? 今は皇帝殿が危篤状態で、その上その危篤状態の原因が武官派貴族の宴会での食事後、だからね? どっちみち火薬庫みたいなものだよ、帝国のお家事情は」
「……」
まあ、確かに。
「武官派貴族としては立ち上がらないと不味いだろうね。まあ、全ての武官派貴族が纏まって、とは考え難いけど。それでも少なくない混乱は起こる」
「……はい」
「その時に、担ぐべき神輿がいなかったら? ううん、武官派貴族が各々違う神輿を担いだら? 国内の情勢が一番乱れる原因ってね? 『方針』が決まっていない時なんだよ。どんな悪政だろうと、一端方向性が固まって仕舞えば、後は取り合えず前には進むんだ。まあ、悪政の場合だと進むべき道は地獄への一本道だろうけどね」
一息。
「だから、マックス殿下が『皇帝候補』になるという『方針』を決めてしまうのが一番良いんだ。武官派貴族が勝手に色んな神輿を担ぐよりも、片方をぐっと纏めてしまえば後は一対一の勝負になる。これは戦争を起こさせない為じゃない。戦争を早期決着させようと思うと、という事だよ?」
そう言って陛下はにやりと笑って見せて。
「……それに、さっきも言ったけど、文官派貴族は軒並み青びょうたんだしね? 武官派貴族の方が……そうだね、『戦争』はともかく、『戦闘』は巧い。前の戦争で取られちゃった領土とか、そろそろ返して欲しいし……それが義息子の為にもなるんだったら、いいこと尽くめじゃないかな?」
もう一度、『ワルイカオ』を浮かべる陛下。そんな陛下から視線を逸らし、ジークに小声で話しかける。
「……陛下ってこんな人だったっけ?」
私の中の陛下はこう、温厚というか……小さい頃にキャンディー貰った、近所の優しいおじちゃんのイメージなんですけど。いや、陛下相手に『近所のおじちゃん』扱いは不敬の極みみたいなもんだって事はよくわかっているんですけども!
「……国王陛下だからな、父上は。国家の為にお考えなされているし……まあ、あのアクの強い宰相閣下に鍛えられているんだ。出来る国王陛下だぞ、父上は」
納得。納得したけど……
「……なんでこれで子育て下手なのかな~……」
……まあ、エヴァンス侯爵も決して教育上手じゃなかったし……あれか、師匠に似たのか。もし彼らの『この感じ』が子育てに発揮されれば、わく学はもうちょっとマシなゲームになったんじゃない? ああ、クリフトじゃ無理か。




