第三百九十七話 ティアナの婿取り
「……明るい家族計画って……ちょっと、ロッテ?」
「……シャルロッテ嬢……その、なんだ? まだ昼間なのだが……」
ロッテの言葉にドン引きする私とジーク。いや、私も分かるよ? ロッテの言いたい事が、『皆で仲良く! その為にはお互いに尊重し合いましょう!!』的な事だってことは。でもさ? 言い方、あんじゃん。
「アリスもジーク殿下も何を仰っているのですか! 別に『そのような』意味ではありません!!」
私たちの言葉に不満そうに頬を膨らますロッテ。うん、こっちも分かって言ってはいるんだが……流石、エロッテ。こっちの言いたいことを分かっていらっしゃる。
「……まあまあ。アリスもジークもシャルロッテも。喧嘩なんかしないで? ね?」
そんな私達三人に陛下が苦笑を浮かべながらそう声を掛ける。いや、陛下? 別に喧嘩をしているわけじゃないんですけど……
「まあ、シャルロッテの言う通りだよ。私も……それにジークも、アリスに任せ過ぎたからね。そこは反省しよう、ジーク」
「はい。それに関しては……アリス、その、なんだ? すまなかった……」
しゅんとして頭を下げるジーク。ちょ、じ、ジーク? そこまで落ち込む必要は無いんだけど……
「……いいよ。そもそも、私がやり過ぎた感がある事は否めないしね。ティアナ様の変化で陛下がびっくりしちゃうくらいだもん。だから――」
「ああ、アリス? 僕はアリスを責めるつもりは無いんだ。いや、そりゃ正直びっくりしたのはびっくりしたんだけど……まあ、ティアナがマックス殿下を昔から慕っていたことは知っているし。そもそも……僕とフローラが親戚筋だしね? それはつまり、フローラとティアナも僅かながらも血のつながりがあるってことだから」
私の言葉を遮るようにそう言って、苦笑を浮かべて見せる陛下。ええっと……
「……げにおそるべきはサルバートの血筋、と?」
え? 陛下の中でサルバート家ってそういう扱い? ま、まさかだけど……性獣の一族とか思われてる? 私の疑問に陛下は苦笑の色を強くして。
「ううん。情が深いって事」
「……そこまでお血が濃い訳では無いと思いますが……」
いや、でもまあ……今のティアナ様とお母様、なんとなく似ている所はある気もしないでもないけど……
「まあ、性格的な問題もあるだろうけどね。ともかく、ティアナが幸せになれるのであればティアナとマックス殿下の婚儀は基本的に認めて良いと思っているんだ。まあ、向こうさんの都合もあるから、中々進展は難しいと思うけど。特に今はね?」
そう言ってため息を吐く陛下。
「それは……ラージ帝国の皇帝陛下の病状が、という認識でよろしいでしょうか?」
おずおずとそう聞くロッテ。そんなロッテに、陛下は首を振る。
「違うよ?」
横に。え?
「ち、違う? 違うのですか、陛下?」
「うん、違う。ああ、まあ……ラージ帝国の皇帝殿がこのまま身罷られた場合は婚儀は延期にはなるだろうけど……殺しても死なそうな人だからね~、あの人。今度もなんだかんだで回復するんじゃないかな~とは思っているよ」
「そ、そうなんですか?」
いや、まあマックス殿下も殺しても死にそうにない人ではあるんだけど。そう思う私に、陛下は苦笑の色を深める。
「そこはさして問題ではない、かな。仮に皇帝殿が身罷られても、何時かは婚儀をする……まあ、婚約だね? 婚約くらいはしても良いだろうし。ただ……向こうさんがそれを認めるかな?」
「……」
「皇帝殿が倒れられて問題が一気に表面化したことは否めないけど……まあ、昔からあそこは皇位争いが熾烈だからね。このままティアナがマックス殿下に……というより武官派、かな? 武官派の王子に嫁ぐことを文官派が簡単に認めるか、とは思うね。あの国は文官優位ではあるけど、文字通り『文』官だからね。武官派に比べれば鍛えている訳でもない、青びょうたんの集まりだし」
青びょうたんって。
「だから、国を二分する内乱になれば間違いなく武官派が勝利する。皇帝殿もそれを考慮して武官、文官の高位貴族の娘を嫁にしてバランスを保っていたんだけど……此処で一気に問題が出たからね。このままマックス殿下とティアナの婚儀が成れば、皇帝殿のいないことを良い事に武官派、ひいてはスモル王国が攻めてくる、と思うかも知れないし」
「……なるほど」
あれか。昔の公家と武家みたいなもんか。公家の方が官位自体は高いけど、武家に実力行使に来られたらどーしようもない、みたいな。
「まあ、その話は良いよ。本筋じゃないしさ。ティアナの幸せの為なら、多少の無理はするし……マックス殿下にその気がないなら、皇位継承権を放棄してウチの副王家に入って貰っても良いしね」
そう言ってにっこりと笑う陛下。
「ちなみにですが……陛下? 殿下がもし、皇位を望むと仰ったならどうしますか?」
「マックス殿下が皇位を望むとは思えないけど……そうだね? もし本気で殿下が皇位を望むなら」
一息。
「――可愛い娘の『嫁ぎ先』だ。そりゃ、権力とお金はあった方が……良いよね?」
「……父上。エディの父の宰相の様な悪い顔になっていますよ?」
ジークがそう言ってため息を吐いた。ああ、そっか。そう言えばこの人お父様の幼馴染って事は、当然宰相閣下の薫陶も受けているんだね。




