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61話 親友宣言する公爵に動揺する父と、「娘をよろしくお願いします」と告げる母の件


「お疲れ、みーくん、ねねっち」

「見事だったぞ、ふたりとも」


 スウェーデンリレーを終えた湊と福音がグラウンドを出ると、暦深と鋭理が出迎えた。周りには橘高たちもいて、福音はもみくちゃになった。


 福音は照れ笑いを浮かべて仲間たちの祝福を受け入れていたが、すぐに表情を改めた。


「すみません、皆さん。私、これから両親のところに行かないと」

「お、福音ちゃん。健闘報告かな。マメだねぇ」

「はい。約束をしていましたので。また戻ります」


 そう言って走り出そうとした福音は、ふと振り返った。

 前髪をかきあげ、晴れやかな笑みを顔いっぱいに浮かべながら、彼女は言った。


「皆さんのおかげで頑張れました! 本当にありがとう! 皆、大好きです!」


 一礼し、福音は保護者テントへと走っていった。

 残された橘高たち陽キャグループは、揃って胸を押さえた。


「やば……キュンときた」

「今日はいい夢見られそう」

「やっぱ女神はすげぇ」


 陽キャたちを虜にする様子を見て、湊は密かに誇らしく思った。

 親友たちを振り返る。


「俺たちも行こう――って、ん? 暦深は?」

「ついさっきまで一緒にいたと思ったのだが」


 鋭理とともに辺りを見渡す。大勢の生徒や観客が行き交っていて、暦深の姿を見つけられなかった。


「ミナト、お前はネネのところへ行ってやれ。まずはそっちが大事だろう。コヨミは私が探しておく」

「わかった」

「くれぐれも、私より先に子作りしようなどと思うなよ?」

「わかった。鋭理をご両親の前に連れていかないのは正解だってことがわかった」


 湊は福音を追い、保護者テントのエリアへと向かった。

 福音の両親はテントの前列を離れ、テント裏のスペースに立っていた。福音も一緒だ。


 湊は足を止めた。福音が真剣な表情で、母の涼子と向かい合っていたからだ。


「あの、お母さん。私のリレー、見ててくれた?」

「……ええ。もちろんよ」

「あの……、ど、どうだった?」

「……」

「お、お母さん? あの……」

「ふふっ」


 不意に涼子が吹き出した。


「福音ったら。走っているときはあんなに堂々としていたのに、また自信なくなっちゃったの?」

「そ、そんなことは――」


 必死に訴えようとした福音を、涼子は軽く手を挙げて遮った。それから、少しだけ戸惑ったように和宏を見上げる。

 和宏は優しい目をして頷いた。


「こういうときは素直になるものだよ、涼子」

「そうよね。それが、私たちにとって正しいことよね」

「お母さん?」


 不安そうにする福音に向き直ると、涼子は微笑んだ。そして、娘を優しく抱きしめた。


「よかったわよ、福音。あなたは頑張っていた。私のつまらない意地や不安なんか全部吹き飛ばすほど、あなたは素敵に輝いていた」

「お母さん」

「あなたはちゃんと成長していたのね。それが今日、よくわかったわ。いろいろと厳しいことを言って、ごめんなさい、福音」


 涼子が身体を離す。よく似た母娘の目元に、同じような涙が浮かんでいた。

 和宏が、娘と妻の肩に手を置く。


「僕も見ていたよ。福音のことを大勢の人たちが応援し、福音はそれに立派に応えていた。トラブルにも負けず、応援を力に変えて、最後までやりきる。それは大人でもなかなかできることじゃないよ。よく頑張ったね、福音」

「お父さん。それじゃあ、今回の課題は」

「もちろん、合格だ。これ以上ないほどの出来だよ。配信活動も再開して構わない。今日、僕たちに見せた姿を忘れないように、胸を張って活動しなさい。僕たちも応援しよう。なあ、涼子」

「ええ、そうね。けど、また間違えそうになったら遠慮なく言うからね、福音」

「ああっ……! ありがとう、お父さん! お母さん!」


 今度は福音の方から両親に抱きついた。

 

 湊はもらい泣きしそうになって、目尻を拭った。彼にとって今の光景は、感動的であると同時に、どうしようもなく羨ましくも感じた。

 タイムリープをしてでも手に入れたいと思っていた、理想の家族像だったから。


「あら、あなたは」


 ふと、涼子が湊に気付いた。

 振り返った福音が「湊君!?」と素っ頓狂な声を上げ、赤面する。慌てて涙を拭っていた。

 湊は福音たちに歩み寄り、会釈をした。


「はじめまして。天宮湊といいます」

「さっきのリレーでアンカーを務めた子ね。素晴らしい走りだったわ」

「ありがとうございます」

「でも、パンフレットには確か、運動が苦手な子がチームワークを見せる競技だと書かれていたわ。あなたほどの走力があれば、別の競技に参加してもよさそうだったけれど」

「福音さんが大きな決意をもって参加するというので、自分が力になりたいと思いまして」

「へぇ」


 涼子が目を細める。

 すると、和宏がなぜかサングラスをかけ直した。


「天宮君、だったかな。ウチの福音とはどういう関係かな?」

「ちょ、ちょっとお父さん、何言ってるの!?」

「親友です」

「湊君まで!?」


 堂々と親友宣言する湊に、福音が狼狽えた。

 娘たちの態度を怪訝に思った和宏が、改めて尋ねる。


「福音。彼はああ言っているが、どういう関係なんだい? まさか、配信のときに電話をかけてきた――」

「ち、違うよ! 湊君は航平君とは違う! 彼は、私にとって大事な……大事な……」


 そこでさらに赤くなって言い淀む。

「親友とは言ってくれないのか……」と少ししょんぼりする湊に、サングラスのフレームを落ち着きなく上げ下げする和宏。


 涼子が苦笑する。


「なるほど。福音を成長させたのはあなたということね」


 そう言って、涼子は夫の顔からサングラスを取り上げた。そして和宏を促し、夫婦揃って湊に向かって小さく頭を下げる。


「これからも娘の福音をよろしくお願いします」

「はい。お任せください。親友ですから」


 胸に手を置いて請け負う湊を、福音は頬を膨らませながら軽く叩いた。



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