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56話 妹ちゃんからの怒りのメッセージ。ミッション大成功の写真が修羅場を呼んだ件


 その後の練習は、とてもスムーズに進んだ。

 コツをつかんだ福音は、鋭理をはじめとしたリレー精鋭チームと同じ練習を難なくこなした。

 湊のアドバイスでメンタルが変わったことが、大きな要因だ。


 鋭理にはさすがに及ばないものの、福音のタイムはぐっと縮んだ。持ち前の柔軟性と、ゲーム配信で鍛えた観察力と発想力で、陽キャたちの走り方を自分のものにしたためだ。

 ストップウォッチを握った暦深が「1秒くらい早くなってる!」と驚いていた。


(思い描いたとおりの光景だな。さすが我が親友)


 破竹の勢いで快進撃を続ける勇者を後ろから見守る軍師のような気分で、湊は練習風景を観察した。


「湊君! 見てるだけじゃなくて、練習に参加してくださーい!」

「いえっさー」


 苦笑しながら頷く。隣の暦深が「ねねっち、すっかりやる気だね」と微笑みながら、スマホのカメラを福音に向けた。


 それから1時間ほど続けたあと、この日の練習はお開きになった。


 充実した表情で汗を拭う福音に、「よく頑張ったな」と声をかける湊。はにかみながら福音が口を開いたとき、橘高たちリレーメンバーが殺到した。


「おつかれー、福音ちゃん!」

「お、お疲れ様です、橘高さん」

「すごいじゃん。見違えるほどよくなった。まさか天宮君のアドバイスでこんだけ変われるなんてねえ。橘高さんびっくりだよ。いいコンビだね、ふたりとも」

「そ、そうですか? うへへ……」

「まあ、ふたりのやり取りは最後の最後まで訳わかんなかったけどさ。アルゼンなんとかって、結局なんだったの?」

「アルゼンチンヒメアルマジロです。可愛いです、アルゼンチンヒメアルマジロ」

「んー。やっぱりよくわかんないや。あっはっは」


 からりと笑う橘高に、福音は「あの可愛さが伝わらないなんて……」とその場に崩れ落ちた。夜空姫ネオンのリアクション癖が抜けない福音を見て、橘高は楽しそうに目を細めた。周りの陽キャたちも同様だ。

 ここには、福音を冷たい目で見たり、嘲笑したりする人間はいないのだ。


「というか、さ。福音ちゃんって、こんなキャラだったんだね。何か意外。でも、すごく自然でイイと思うよ。面白いし」

「橘高さん……」

「そだ。このあと、どっか寄ってかない? 親睦を深めるためにさ、打ち上げ行こうよ」


 橘高が言うと、リレーメンバーは口々に「賛成!」と言った。


「どこ行く? やっぱカラオケ?」

「千代田さんの声、すげー綺麗だから歌も上手いんじゃね? 超聞きたいんだけど」

「え!? 私が歌うんですか!?」

「それイイ!」

「えー、俺腹減ったよ。ファミレスで飯食おうぜー」

「だったら私、パフェ食べたい! 期間限定パフェが出るって聞いた!」

「あわわわ……カラオケ? ファミレス?」


 盛り上がる陽キャ集団に、福音は圧倒されていた。救いを求めるように湊を見る。


(さすがに、打ち上げに参加するのはまだハードルが高いか)


 湊は苦笑すると、福音と橘高たちの間に入った。


「すまんが、福音はこの後、俺たちと予定があるんだ。打ち上げはまた今度」

「み、湊君。そんなことを言ったら、皆さんが気を悪くしてしまうんじゃ……」


 福音が小声で慌てながら袖を引いてくる。

 湊は「心配ない、見てろ」と小声で福音に言った。


「えー、天宮君ずるいって」

「ふふん。何せ親友同士だからな」

「羨ましい奴めー」

「悪い。打ち上げが嫌だというわけじゃないんだ。ただ、福音は今日いっぱいいっぱいだろうからさ。少し休ませたい。練習、一緒にできてよかった。また明日も誘ってくれ」

「むぅ。まあそういうことならしゃーないか。じゃ、また明日ね!」


 福音の懸念とは裏腹に、陽キャたちはあっさりと引き下がった。着替えのために校舎内へ戻っていく彼らを、福音は目を丸くして見つめた。


「あ、あれ。こんな簡単に……?」

「言ったとおりだろ」

「リアルなんてこんなもんだよ、福音っち。きっちゃんは、遊びを断られたくらいで根に持ったりしないさー」


 暦深も言う。

 すると、鋭理が校門のほうを見ながらぼそりと言った。


「もっとも、コウヘイは違っただろうがな。あの男ならいつまでも根に持って、ことあるごとに嫌味を言ってきたに違いない」

「もー、えーりんったら。こーへーくんの話は今いいじゃない。せっかくイイ感じにまとまったんだから」

「む、そうだな。コウヘイごときで心拍数を上げる必要はなかった。すまん、ネネ」

「あはは……。一瞬、航平君が見てるんじゃないかと思って、少しぞっとしました」


 航平に対する3女神の言葉には、棘があった。

 それだけ、彼女たちの心が航平から離れている証拠である。

 微妙に悪くなった空気を、湊が手を叩いて切り替えた。


「とにかく、この調子で練習を続けていれば、必ずよい結果に繋がる。福音の両親を説得するための写真も撮れたしな。収穫大だ」

「湊君がいてくれて、本当によかったです……」

「何を言ってるんだ。頑張ったのは福音だろう」

「私……今までリアルの人間関係は暦深さんたちで十分だと思ってました。それ以上は、私には無理だって。けど、意外と大丈夫なんだって今日わかりました。全部、湊君のおかげです」


 福音が笑みを浮かべながら湊を見上げた。


「やっぱり、湊君はすごいです。公爵の名に偽りなしです。本当に尊敬します」

「そんな風に手放しで褒められると、さすがに照れるな。俺は親友として当たり前のことをしただけだ」

「……また親友って言う」

「親友だろう? ……おい、何で暦深や鋭理まで睨む? 俺たち親友だろう?」

「あたしはまだ何とも言ってないんだけどー」

「親友、親友と連呼されると違和感があるな」

「湊君はすごいけど、ひどい人です」

「何て、ことだ……俺はいつの間にか、親友という言葉だけにすがっていたのか? 命を預け、胸襟を開き、ともに財を守るという俺の親友像は、口先だけの幻想だった……?」


 ショックを受けて、その場に崩れ落ちる湊。3女神が異口同音に「そこまでは言ってない」と告げた。

 そのとき、湊のスマホが振動した。


「ん? 結からだ。どれどれ」


【結】:いまどこ?


【結】:まっすぐ帰ってくるって言ったじゃん。背中で。


「言ってないなあ」

「どうしたの、みーくん」

「暦深、ちょっと写真のデータを送ってくれ。俺が映ってるやつ、あっただろう」

「……こっそり壁紙にしようと思ったのに」

「何か言ったか?」

「なーんにも。はい、送ったよ。で、どうするの?」

「結に送る。今日は体育祭の練習があったって説明すれば、結もわかってくれるだろう。時計も映ってるし、嘘じゃないとわかるはずだ」

「やめたほうがいいと思うなあ」

「そうだな、やめたほうがいい」

「それは失敗フラグですよ、湊君」

「……もう送ってしまったぞ」


 親友たちがなぜ睨んでくるのかわからず、湊は困惑する。

 5秒と経たず返信が来た。


【結】:ちょっと


【結】:これどういうこと?


【結】:まさか体育祭の練習にかこつけて、雌猫どもとイチャイチャしてんじゃないでしょうね


【結】:宣戦布告ですか?


【結】:ん?


【結】:ん??


 怒りの絵文字付き文章が、怒濤の勢いで押し寄せてくる。

 湊は珍しく慌てた。


「なあ、助けてくれ。結がどういうわけか激怒している。俺は間違ったことをしていないよな?」

「間違ったねえ」

「盛大に間違えたな」

「強烈な先制パンチになりましたね」

「家族の誤解を解こうとしただけなのに!」


 直後、結から最後通牒のようなメッセージが来た。


【結】:湊、今日晩御飯抜き


【結】:そのへんの草でも食ってろ


「か、家族の団らんが……!」

「自業自得じゃないかなあ。さあて、みんな帰ろっか」

「久しぶりに3人で食事でもするか。運動後の栄養補給は新鮮な筋肉作りに必須だ」

「暦深さんの写真のおかげで、両親の反応はよさそうです! お礼に、今日は奢らせてください」

「お、珍しいね。じゃあねねっち、ゴチになります!」

「家族の絆だけでなく親友の絆まで崩壊の危機、だと? おい、お前たち。おーい!」




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