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54話 迷子吸血鬼、陽キャの前に灰になる。耳元で囁かれる特別なアドバイスの件


 橘高が苦笑する。


「うーん。福音ちゃんにそこまでハッキリ拒絶されると、ちょっと傷つくなぁ」

「ごっ、ごめんなさい。そんなつもりじゃ」

「みんなで明るくやろうよ。そっちのが楽しいって。体育祭はお祭りみたいなもんだしさ」

「正真正銘の陽の気ぃー!」


 震え上がる福音。

 湊は「ちょっと失礼」と福音を連れてその場を離れた。


「福音、落ち着け。素がだだ漏れで、夜空姫ネオンの生配信と変わらん。正直ちょっと面白い」

「面白いって言ったぁー!」

「元々の目的を思い出せ。両親を説得するためだろう。お前の話では、父親はフォローに回ってくれたそうじゃないか。お前が『配信を続けたい』と正直に思いを伝えたのがきっかけだ。つまり、今までの福音のイメージをいい意味で覆せれば、両親相手でも十分に勝機があるってことだ」

「うう……」

「お前の本気度と成長を、今から両親に示すいいチャンスだと考えろ。そのために、クラスメイトとの協働を願い出たんだ」

「ううう……」

「さっき、夜空姫ネオンみたいで面白いって言っただろ? リアルの感覚で接するのが怖いなら、いっそネット空間にいるつもりでやってみろ。彼らなら、きっと笑って受け入れてくれる」

「ほ、本当ですか?」

「陽キャのパワーは、お前が一番よくわかってるだろ? 味方につけろ。お前ならできる」


 湊は握り拳を作って差し出す。福音はしばらくためらってから、遠慮がちに自分の拳をこつんと当てた。


 よし、と頷いて、湊はクラスメイトたちの元へ戻る。


「待たせた。改めて、一緒に頑張ろう」

「よ、よろしくお願い、します。Bitte……」

「よろしくね、福音ちゃん!」


 まだ心を開けないでいる福音に、橘高はぐいぐい近づいていった。彼女だけでなく、リレーに参加する他の陽キャたちも次々と声をかけてくる。


「頑張ろうな、千代田!」

「お祭りなんだから、気楽にいこうぜ」

「千代田さんと一緒に練習できて嬉しい。3女神とこんな近くで話ができるなんて、アガるし」

「あぅ、えとえと……」


 福音はタジタジだった。

 航平と違い、クラスメイトたちは福音と一緒に練習できることを純粋に喜んでいた。自分のメンツやプライドにこだわる様子は見られない。

 だからこそ、際限なく放出される陽の気に、福音はパンク寸前だった。


 湊は手応えを感じて、何度も頷く。


「これでいい。暦深、せっかくだから福音の様子を記録しておいてくれ。きっと役に立つ」

「なかなかの鬼っぷりだね、みーくん」

「フォームの確認に動画は必須だからな。それに福音の場合、むしろ撮られている方が落ち着くだろう。何たって夜空姫ネオンだからな」

「そっか。さすがみーくん。りょーかいだよ」


 それから、リレー参加者の合同練習が始まった。

 今回は橘高の提案で、バトンパスの練習となった。

 最初にクラス対抗リレー参加者が、短い距離でバトンパスを行う。その中に鋭理も混ざった。


「はい!」

「おっけ!」

「走り出し、もっと合わせて!」


 おー、と感心しながら、湊はクラスメイトたちを見る。


「さすがクラスの精鋭。チームを結成したばかりなのに、もう息が合っている」

「あわわ。あんなにスムーズになんて、できっこないです」

「何事もチャレンジだ。動画だって、投稿しなきゃ永遠に再生数ゼロだぞ。嫌だろ? 再生数ゼロ」

「無価値なゴミでごめんなさい」

「もののたとえだ。戻ってこい」


 橘高が福音を呼んだ。彼女がバトンパスの練習相手になってくれるらしい。


「じゃー、いくよ。福音ちゃん!」


 橘高が少し離れた場所から走り出す。

 ガチガチに緊張した福音は、落ち着きなく視線を彷徨わせ、走り出すタイミングと手を出すタイミングに迷った。


「あっ……」


 結果、指先からバトンがこぼれ、グラウンドに落ちた。

 福音の顔から血の気が引く。


「やってしまいました……!」

「そうだな。ほら、バトン」


 湊がバトンを拾って差し出す。福音は半泣きの表情で赤い棒を見つめた。


「こんな大失敗して、会わせる顔がありません。やはりリアルなんて」

「――などと言ってるが、どう思う? 橘高」

「フツーにやり直せばいいんじゃないの?」


 クラスメイトがあまりにも平然と答えるので、福音は目を瞬かせた。


「いいんですか? やり直しても」

「いいも悪いも……ねえ、天宮君。福音ちゃんは何をそんなに怖がってるの?」

「嫌われて、見放されて、垢BANやむなしと思ってるんだな」

「垢BAN?」

「ひうっ!?」

「あ、効いてる。何で?」

「リアルの失敗が、ネットの炎上を連想させるんだ」

「なんか難しいことを考えて生きてるんだね」


「すみません、すみません、迷子吸血鬼ごときがすみません」としゃがみこんで頭を抱える福音。その肩を、橘高は軽く叩いた。


「どんまい、どんまい。気にしてないから、ほら立った立った」

「えと」

「失敗したらやり直せばよろし。そのための練習なんだし。本番じゃないんだから、気楽にやろうよ。ね?」


 橘高に手を引かれ、福音は恐る恐る立ち上がる。後ろを振り返ると、クラスメイトたちがひらひらと手を振って応えていた。


「みなさん、まったく気にされてない……?」

「常識がひっくり返ったな。これがリアルだ。悪くないだろ?」


 改めて、湊がバトンを差し出した。福音は小さく頷きながらバトンを受け取った。

 長い前髪の合間から見えた福音の瞳が、ほっとして緩んでいた。


 それを見た湊が、ふいに福音の耳元に口を寄せた。福音が飛び上がるほど驚き、暦深と鋭理が「むむっ!」と唸る。


「みみみ、湊君!?」

「聞け、福音。この公爵が、とびっきりのアドバイスを送ってやる。ここからが、お前のステージだ」


 真っ赤になった福音に、湊は不敵な笑みを見せた。

 その直後、「近い」と言いながら暦深と鋭理に引っ剥がされた。




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