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51話 妹ちゃんの不完全なハートは愛の証? 悩めるVTuberにリレーのエスコートを提案する件


 その後、湊たちは空き教室に向かった。

 廊下ですれ違う生徒の多くが、湊と3女神が一緒に歩く姿を見て振り返った。

 もちろん、湊は気にしない。

 そして3女神の方も、湊に意識を向けるあまり、周囲の視線に気付くことはなかった。


 空き教室に入ると、湊は満足げに頷いた。


「静かで、いい場所だ。さて、これで心置きなく昼飯を――」

「みーくんはこっちに座りなさい」

「ん? いや、あっちの広いテーブルの方がいいだろ。弁当も広げやすいし。なんでわざわざ小さい方の机で俺を囲む?」

「さあ弁当を出せ」

「脅されてる?」


 親友たちに強く促され、湊は首を傾げながら弁当を取り出した。

 暦深が唸る。


「立派な重箱だね……」

「こんなにいらないと言ったんだがな。おかげで手分けしたのに、時間ギリギリになってしまった」

「まさかの共同作業だったんですか!?」

「おい、早く開けろ。早く!」

「ヤバいブツみたいに言うな。傷つくぞ、さすがに」


 かぽ、と蓋を開けると、色とりどりのおかずの数々が目に入った。「むむぅ……」と3女神が妙に悔しそうな声を上げた。


「美味しそう」

「美味そうだな」

「とても美味しそうです」

「何でだろうな。褒められた気がしない」


 湊は渋面を浮かべ、重箱の下の段を開けた。

 3女神の顔があからさまに固まる。


「こ、これは」

「でんぶのハートマーク……!」

「――の、作りかけ……!?」

「何でか知らないが、結が『これだけは自分にやらせろ』と言って聞かなかったからなあ。材料が足りなかったせいかもしれない」


 暦深、鋭理、福音が顔を見合わせる。


「これは、あれだね」

「肌に触れずとも何となく伝わるな」

「はい。妹さん、きっと葛藤していたのでしょうね」

「何の話だ?」


 首を傾げる湊に、3女神はじろりと視線を向けた。湊はさらに首を傾げた。


「とりあえず食べよう。いただきます」

「……」

「……? いただきますしないのか」

「……いただきます」


 渋々といった様子で、暦深たちも弁当箱を開く。


 それから4人は、雑談混じりに昼食をとった。

 怒り心頭だった鋭理も、落ち込んでいた福音も、落ち着きを取り戻していた。結の重箱弁当のインパクトで、怒りも不安も吹き飛んだらしい。


「そういえば、福音。体育祭のことなんだが」


 ひととおり弁当を平らげた後、湊は話を持ちかけた。


「ご両親を納得させられそうな競技に心当たりはあるか? あるいは、福音が参加したい競技とか」

「ないです」

「即答かよ。ご両親になかなか言いたいことを言えずにいた人物と同一とは思えんぞ」

「ここにいる皆さんだから、素直に話せるんです」

「光栄だな」


 湊はポケットからコピー用紙を取り出した。

 それは、体育祭で行われる競技の一覧であった。


「じゃあ、俺からの提案だ。福音、スウェーデンリレーに立候補してみないか?」

「スウェーデンリレー? 普通のリレーとは違うんですか?」

「ああ。一番は距離が違う。部活対抗リレーや、大トリのクラス対抗リレーが皆同じ距離を走る一方で、スウェーデンリレーは後ろの走者ほど長い距離を走るんだ」

「1走が100メートル、2走が200、3走が300、4走が400だったな」


 鋭理の補足に、湊は頷く。


「リレー競技なら、ご両親も納得するだろう。体育祭の代名詞だし、チームワークの見せ所でもある。普段、誰かと一緒に身体を動かさない福音が、チーム一丸となってゴールを目指す姿を見せれば、きっとご両親もお前の頑張りを認めてくれるさ」

「わ、私が、リレー競技に!? む、無理です。無理無理!」


 椅子の上で膝を抱える福音。


「だって、リレーですよ? リアル陽キャの皆様方が集まる陽の空間ですよ!? インドア迷子吸血鬼ごときの私が、ネット回線じゃなくリアルなバトンを繋ぐなんて正気の沙汰ではありませんよ!? 灰になっても知りませんからね!?」

「本音が隠し切れてない上に、リレーに対する熱い風評被害だな。大丈夫だ、福音。だからこそのスウェーデンリレーだ」

「どういうことなのかな、みーくん」


 暦深の問いかけに、湊はもう一枚コピー用紙を取り出して、見せた。瑞穂学園のHPを印刷したもので、昨年度のスウェーデンリレーの様子が映っていた。

 印刷された写真を見て、福音が目を丸くする。


「え? この方たちがリレー走者だったんですか?」

「運動が得意そうには見えないだろ? でも、それがうちの特徴なんだ。瑞穂学園のスウェーデンリレーは、伝統的に『運動が苦手な生徒の活躍の場を設ける』って考えがあるらしい」


 湊は鋭理を見る。


「瑞穂学園には、運動に秀でた生徒も多数入学する。鋭理は確か、クラス対抗リレーに推薦されてるんだよな」

「そうだ。もちろん、全力でやる。肉体感覚を磨くのに、これ以上ない舞台だからな」

「鋭理さん、さすがフィジカルエリート……」

「つまりだ、福音。花形であるクラス対抗リレーや部活対抗リレーには、運動の得意な人間が集まってガチで戦う。その分、スウェーデンリレーは勝敗度外視のメンバーでOKってわけだ」

「な、なるほど」

「福音は第1走者でエントリーすればいい。一番、距離が短いから。クラスの連中も拒否はしないだろう」

「う……トップバッター、ですか」

「安心しろ。俺もエントリーする」


 福音が目を丸くした。湊は微笑んだ。


「俺はお前の次の走者として出る。バトンを繋ぐのが俺なら、少しは気が楽だろ?」

「湊君に、バトンを渡す……」

「ご両親にカッコいいところ、見せてやろうぜ。一緒にな」

「一緒に……そ、それなら、大丈夫だと思います。はい」

「決まりだ」


 湊は手を差し出し、握手を促した。福音はおずおずと、湊の手を握り返す。


「頑張ろうな、福音」

「は、はい!」


 先ほどまでの憂鬱さを吹き飛ばし、むしろ楽しそうに福音は頷いた。

 その様子を、暦深と鋭理が頬を膨らませながら見ている。


「ぶー。ねねっち、いいなあ。あたしもエントリーしようかな」

「ミナト、私も走りたい。ぶっちぎってやる」

「やめろって。これは福音のためなんだぞ。今回は福音が主役だ」

「わ、私が主役……!? そんなの、素面のままじゃ耐えられません。こうなったら――Achtung(アハトゥング)! 我が来た! 天界のブラック労働に別れを告げ、夜の(とばり)に舞い降りた高貴なる」

「ログオフして戻ってこい」



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