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41話 明るくポジティブなギャル少女の秘密。公爵くんの親友たちによる救出ミッションの件


 ――その日の放課後。


「よし、ミナト。さっそくお前の部屋にいくぞ」

「湊君、引っ越しのお片付けとかありますよね? できることがあれば、手伝います」


 チャイムが鳴るやいなや、鋭理と福音が湊の席にやってきた。「ありがとう」と言いながら、湊はスマホを見る。

 ちょうど同じタイミングで、結からメッセージが届いていたのだ。


【結】居残りすることになった。


【結】くれぐれもヘンな真似はしないように。


【結】自分の部屋に泥棒猫を連れ込むなんてもってのほかだからね! やらしい!


「何故か強く釘を刺されたのだが……」

「気にする必要はないだろう」

「人手は多い方がいいですし。居残りなら、妹さんが襲来する心配もなさそうですし」

「頼むから仲良くしてくれな?」


 通学鞄を手に取る。

 外はまだ雨が降っている。手伝ってもらうにしても、あまり長居はさせられないだろうと湊は思った。

 暦深がやってくる。


「もー、えーりんもねねっちも、あんまりゆいちーを刺激するようなことしちゃダメだよ? 困るのはみーくんなんだから」

「暦深はどうする? 今日、ウチに来るのか?」

「……うーん、そうだなあ。あたしがゆいちーに先に会って、誤解を解いておくってのはどうかな。なんならガッツリ仲良くなっちゃったりして?」


 冗談交じりの口調で暦深が言う。湊はそれでも構わないどころか、むしろコミュニケーションと調整能力に長けた暦深が行ってくれるならありがたいと思ったが、他の親友たちはそう考えなかったらしい。


「ずるいぞ、コヨミ」

「そうです。自分だけメインキャラの好感度を上げようなんて、ずるいですよ」

「あは。やっぱり? でもえーりんもねねっちもさ、みーくんと会ってからだいぶ変わったよね。特にねねっち、すっかりVTuberキャラが表に出ちゃってるぞ? ほれほれぃ」


 暦深はネイルをした指で福音の頬をつんつんつつく。くすぐったそうにする福音に、親切ギャルは微笑んだ。


 そのとき、暦深のスマホにメッセージの着信があった。『公爵くんちの親友さん』とは違う着信音だ。

「パパからだ。ちょっとごめん」と断ってからスマホを操作する暦深。


 その表情が、一気に曇った。


「え? ちょっとどういうこと。マジで?」

「どうした、暦深」

「パパが……家で怪我して、動けないって」

「何だって!?」

「ごめん、みーくん、皆。あたし、パスで」


 青白い顔で鞄をつかむ暦深を、湊は呼び止めた。


「俺たちも行こう」

「でも、みーくんたちは引っ越しの準備が」

「暦深の方が心配だ。俺たち親友だろう? 手を貸すよ」


 湊が言うと、鋭理も福音も真剣な表情で頷いた。

 逡巡していた暦深だったが、やがて「ありがとう、みーくん」と呟いた。


 それから、湊たち4人は急いで学校を出た。雨が降る中、小走りに暦深の自宅へと向かう。

 暦深がバス停に向かおうとしたので、湊は呼び止めた。


「急いでいるんだろう。タクシーを使おう。代金は俺が払う」

「湊君、タクシー手配できました」

「コヨミ。緊張と不安で呼吸が浅くなっている。私にならって深く呼吸するんだ。きっと大丈夫だ」


 親友たちの気遣いに、暦深はただ「ありがとう」と小声で呟くだけだった。いつもの快活な彼女とは明らかに違う。


 タクシーがやってきた。湊は鋭理と福音を振り返る。


「行き先の指示を頼む。俺は暦深の家を知らないんだ」

「えっと……」

「すまないミナト。実は私たちもコヨミの今の住所を知らない。少し前に引っ越したということは聞いているんだが」


 福音と鋭理が申し訳なさそうに眉を下げる。


(前に『暦深は自分のことを話そうとしない』と聞いていたが……まさか鋭理と福音相手でもそうだったとは)


 住所を知らないということは、ふたりとも暦深の家に行くのは初めてということだ。

 もしかして、親友になることにまだ拒否感を持っているのは、家の事情が絡んでいるのかもしれないと湊は思った。

 しかし、今は緊急事態である。


「暦深。俺たちはお前を本心から助けたい。暦深が隠したいことを暴くつもりはないんだ。信じてほしい」

「……うん。大丈夫、わかってるよ。みーくん」


 暦深は力なく笑うと、タクシーの助手席に乗り込んだ。湊たちは後部座席に乗り込む。


「このまま真っ直ぐお願いします。住所は――」


 指示を出す声に力がない。湊はふと、『ホクロの君』のことを思い出した。


(暦深が大変なときに、俺は何を考えている)


 鋭理と福音が励ます中、タクシーは暦深の自宅へと向かった。


 10分ほど走った後、タクシーは真新しい一軒家に到着した。

 ガレージ付きのシンプルな平屋造り。スロープなど随所にバリアフリー工事が施されており、工夫を凝らした注文住宅なのだとわかった。


「お父さん!!」


 到着するなり、タクシーから飛び出す暦深。彼女のフォローは鋭理と福音に任せ、湊はタクシーの運転手に言った。


「すみません。しばらくここで待機してもらえますか? お金は自分が払います」


 そう言って、万札を置く。引っ越し準備のためにおろしていた現金だが、親友のために使うのであればまったく惜しくない。


 自宅内に駆け込んだ暦深たちを追いかける。

 そのとき、ガレージから微かに呻き声を聞いた。


 ガレージに駆け込んだ湊は、奥の方で工具類や段ボールに埋もれた状態の男性を発見した。そばには倒れた車椅子もある。


「暦深ーっ! こっちだ!」


 大声で暦深を呼びながら、湊は男性の上にのしかかっていた物を取り除いていく。男性に負担がかからないように物を取り除く作業は、失敗できないパズルのような難しさはあったが、ここでも湊のプロゲーマーとしての経験が役に立った。

 間もなく暦深たちも姿を現し、皆で手分けして救出作業をした。


「お父さん! 大丈夫!?」

「暦深……すまん。心配かけた」

「もう! そんなこといいんだよ! 早く呼んでよ、もうっ! すっごい怖かったんだから!」


 涙ながらに文句を言いながら、父親に抱きつく暦深。

 湊は鋭理と福音と顔を見合わせ、「助けられてよかった」と安堵の息を吐いた。


 ちらりと、車椅子を見る。


(暦深のお父上は、足が悪いのか。自宅がバリアフリーなのも、それが理由なんだな)


 けど、それならなおのこと、親友たちの助力を求めてもいいはずなのに――そんな疑念を腹の底に押し込め、湊は暦深の父を介助した。



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