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40話 妹ちゃんが「塩対応」でヒートアップ。湊の親友宣言にヒロインたちが納得しない件


 ――翌朝。


 昨日とは打って変わって梅雨らしい空模様の中、湊は登校した。

 結と和解したあと、湊はいったんマンスリーマンションの自室に戻った。今日はマンションから通学である。

 靴箱に靴をしまい、ひとつ大きな欠伸をする湊。

 実家を出るとき、結が見送りに出てきてくれたことが嬉しくて、少し寝不足なのだ。


「おはよう、皆」

「あ! おっはー、みーくん。メッセージ見たよ。よかったじゃん!」


 教室に入ると、真っ先に暦深が駆け寄ってきた。


 親友たちに約束したとおり、湊はマンションに戻ってすぐ、結果を報告していたのだ。


 鋭理と福音も笑顔でやってきた。

 昨日の結とのやり取りを思い出し、涙腺が緩みそうになった湊だったが、ふと、首を傾げた。


 こういうとき、必ずと言っていいほど嫌味をぶつけてくる男の姿がない。


「相沢は?」

「今日は休むって。『やらなきゃいけないことがある』って言ってたけど……この感じじゃ、ズル休みっぽいね。雨だからかな?」


 暦深が答える。湊は呆れた。


(まあ、むしろ好都合かもしれないな。進展があったことを茶化されるのも気分が良くないし)


「おかげさまで、実家に戻れることになった。結との関係も、修復の第一歩を踏み出せた感じだ。これもお前たちのおかげだよ。礼を言う。本当にありがとう」

「ミナトが努力した結果だろう。私たちは何もしていない」


 鋭理の言葉に、湊は曖昧な笑みを浮かべた。福音が怪訝そうにする。


「湊君。妹さんと上手くいった割には、今の表情がちょっと暗いです。何かあったんですか?」


 福音に顔を覗き込まれ、湊は言葉に詰まった。

 だが、世話になった親友たちに隠し事をするべきでないと思い、正直に話す。


「実は、皆との写真を見せたら急に結の態度が変わってさ」

「ん……?」

「俺が近いうちに親友と会わせたいって言ったら、『イヤ。やめて。連れてきたら追い出す』って拒否されてしまったんだ」

「へぇ……」

「同性のお前たちなら、結も仲良くなれるだろうと思ったのに。どうやら結は、親友が3人とも女性なのが気にくわないらしい。まったく、どうしてこうなったのか」

「ふぅん……」

「……おい、さっきから微妙な反応だぞ。お前たちは結が不機嫌になった理由がわかるのか? 真面目に困っているんだが」


 どうかなぁ、と暦深が明後日の方を見ながら言った。絶対に何か勘づいていると湊は思った。

 すると、福音が握り拳を作って言った。


「親密度パラメーターの提示が不十分だったのでは? つまり、私たちがとっても親しいことをもっともっと強烈にぶち込む必要があると思う!」

「『夜空姫ネオン』が顔を出してないか?」

「ネネの言うとおりだな。よし、ミナトの家に押しかけよう。言葉でダメなら肉体言語で語り合うまでだ」

「『良い考えだ』みたいな顔で言わないでくれ、鋭理」


 福音と鋭理が予想以上に積極的なことに戸惑いつつ、湊はスマホを取り出した。

『親友たちが家に来たいと言っているのだが』とお伺いを立てる。


 すると、いきなり結から電話がかかってきた。


「もしもし――」

『ぜっっっっっったい来ないで! 塩10キロで埋めるよ!?』

「あ、そのセリフ。もしかして今期の春アニメ『呪縛霊は巫女さん!』の決めゼリフじゃないですか? あれ、マイナーだけど面白かったんですよねぇ」

『観た人いたんだ――じゃなくて! なに、泥棒猫がそこにいるの!?』

「ネネ、10キロじゃ人は埋まらないだろう。猫ならわからんが」

「鋭理さん、そのポンコツ具合が主人公ちゃんの魅力なんですよ。妹さんはそれを理解した上で、『本当はそんなつもりないんだ』と伝えるためにこのセリフを引用するという、とても高度でユーモアに富んだコミュニケーションを実行したんです! たぶん」

『マジレスすんな! もう何なの』

「まどろっこしいのはあまり好きじゃないな。やはりここは穏便で健康的に、肉体言語だ。互いの熱を感じよう」

『もうホント何なの、アンタたち!?』


 スマホから半泣きの声が聞こえてくる。こんな妹は初めて見たと、湊は目を丸くした。


『おに――湊! もうお弁当作ってあげないから!』

「え、作ってくれたのか?」

『ち、ちっがぁう! 私が言いたいのはそういうことじゃなくて――って、なに、伊月旗さん? ……朝礼の時間? あ、ああああ……!』


 そこで電話が切れた。ツー、ツーというビジートーンが虚しくスマホから響く。

 湊は神妙な顔でスマホをしまった。


「……ということだ。こういう妹だが、仲良くしてほしい」

「結構楽しい子ですね。負けヒロインとして出てきそう」

「辛辣か? 頼むから仲良くしてくれな?」

「スタミナがありそうな声の張りだった。しかし、私は負けん」

「頼むから、仲良く」


 親友たちの言葉に、湊は念を押す。


 それまで黙っていた暦深が、「みーくん」と声をかけてきた。


「実家に戻るってことは、今住んでるマンションから引っ越すってことだよね。荷物の整理は大丈夫?」

「ああ。もともと、必要最小限しか揃えてなかったからな。けど、手伝ってもらえると助かる」

「うーん……もちろん、引っ越しのお手伝いはするよ? けど、みーくんの実家まで行くのはちょっと。ほら、ゆいちーも拒否ってることだし」

「ゆいちー?」

「妹ちゃんのこと。可愛いでしょ? さっきのやり取り聞いてて思いついちゃった。あの慌てっぷりが、もう『ゆいちー』って感じ」


 暦深は微笑む。


 鋭理と福音から「私たちも引っ越しを手伝う」と言われて嬉しい一方で、どことなく関係に線を引こうとしている暦深に、湊は若干の不安を覚えた。



◆◆◆



 湊と3女神のやり取りを見たクラスメイトたちが「航平から乗り換えた?」と噂する中、湊は教壇で「彼女たちは親友だ」と豪語していた。

 そして4月の入学式当日と同じように、担当教師からべしんと頭をはたかれる。


「やっぱ相変わらずだなあ」と笑いに包まれるクラスで、3女神はそれぞれの思いを抱いていた。


(……む。肩の筋肉が硬直している。緊張か? それとも苛立ち? 私は、ミナトの言葉を不快に感じているのか?)


(湊君、何も皆の前であんな大声で『親友だ』なんて言わなくてもいいのに。それじゃ、本当に親友どまりになってしまいます……。たぶん、結さんも本当は湊君を嫌ってるわけじゃないみたいだし……もっと、もっとアピールが必要かも)


(親友、か。なんであたし、流されちゃったかなあ。あんなきっぱり、『親友はイヤ』とか言っといてさ。みーくん、困ってないかな。でも。でもさ……親友以上になって、今よりも踏み込まれるのは、やっぱり怖い。だったら今くらいで……今の、ままで)



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