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クロス・リッパー ~ALVIS niredo int Eriu-Tori~(小説家になろう編集版)  作者: 海神書房
第3章「クロスリッパーと名もなき依頼」
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第21話 後日談:引き金

 未開拓の森。その一角にあった、行き止まりの洞窟。


 明かりも、夜空も届かない暗闇の中で、幽かにうごめく人の影。影は手前で倒れている人間に脇目も振らず、そこにポッカリと空いた洞窟へと入り、森よりも暗い闇の中で洞窟の行き止まりを探す。


 だが、行き止まりにはたどり着かない。暗闇を進んでいく影。そしてある時、異様な明るさを感じた。道の向こうに差す光、それは黒一色の宵闇の中ではあまりに明るすぎて、幽かな光であるにも関わらず、人の影の網膜を焼く様なまぶしさをもたらした。そして、光のあるままに影は進み、ついには光の先へとたどり着いた。


 その光景は、樹の中だった。百人の人間が一同に集まれるほどに広い空間。そして光あふれるその部屋に入ったところで、人の影をした者が『白衣を着た男』であると認識できた。


「樹の中……?」


 しゃがれた声で自分のいる場所の現状を確認しようとする白衣の男。そしてこの部屋のより異質な存在についてはあえて言及せずに、その樹木の皮のような内壁を調べる。


「間違いなく樹だな。だが既存の生態系とは異なる……世界樹の都の固有種か? いや、それにしては……」


 ぶつぶつと小言を呟きながら、部屋の壁を一周まわる男。時折その壁をコンコンと叩いては、これが樹であることを確認し続ける。


「参ったな。少し削ってサンプルを持ち帰れば何かわかるが……爪では……剥がせないか」


 内壁の一部に爪を立てて、どうにかその破片を持ち帰ろうとしたが、爪程度では傷もつかず、逆に指を痛めかねないと思い、その軽挙妄動を止めた。


「……まぁ、何よりも気になるのは……」


 そこまで言って、ようやく白衣の男は部屋の中央に合ったオブジェクトに目を遣る。


 遠目に見ても巨大だと分かる謎の物質。人間4人分はある縦の寸法と、その場で一定の軌道で回り続ける規則性。そして何より、そのオブジェクトは宙に浮いていた。


「何かのアート作品? いや、そんなものをここに置くわけもない。糸で釣っている……なんて訳でもないだろう」


 男は、いくつかの御託を並べつつも、その怪しげなオブジェクトを究明するには近づかざるを得ないと思い、そろりそろりとオブジェクトのある、部屋の中心部へ足を踏み入れた。


 踏み進めるたびに、男は周囲の光景がより異質である事を悟った。樹の中のような空間ではあるが、時折心臓の鼓動のように全体を光が脈動する。その光は、機械的な葉脈模様を映し出している。


「脈動と……回路か?ここは世界樹の都の領域だぞ? どうして我がエレギアの構造が出てくるんだ?」


 男は、その脈動に際して映し出される風景に見覚えがあった。自分の国で使用されている文明の中で、そんな図形を目にしていたのだ。そして、状況を把握しつつ足を進めていった事で、ようやく男はオブジェクトのすぐそばまでやって来た。


「デカいな……何メートルあるんだこの構造物は」


 男が見上げたそれは、部屋の端から感じた見立てよりもはるかに大きかった。一瞬、近づくにつれてサイズ感が変わっているのではないかと錯覚してしまったが、男は首を横に振ってそれを否定する。


「まあいい。あっちの先端研究から逃げて、この世界樹の都で研究をすること30年……ようやく成果らしい成果に出会えたんだからな」


 佇むオブジェクトに、男は歯をむき出して笑った。そして、男はそのオブジェクトにどうにか触れられないかと手を伸ばす。だが、


「……くそっ! 台座が邪魔だっ!」


 オブジェクトは、何もない中心部に浮いているわけではなかった。その真下には、オブジェクトを支えるかのような一段高い台座が設定されており、その高さも男の背丈以上のもので、登ってどうにかなるものではなかった。しかし、男が考えている裏で、その周囲の光景は刻々と変化していく。


「はぁ、はぁ……ん? なんだ、様子が変わってるな」


 必死にもがいて肩で息をする頃になって、男はようやく周囲の変化に気が付いた。それまである程度定期的だった脈動が、急激に強まり始めた。そして、脈動の高鳴りと共に、真ん中に置かれていたオブジェクトは、ノイズを伴ったかのように歪に変形する。


「な、なんだっ!? 何が起きてる……!?警戒態勢が……?」


 男が周囲の以上にうろたえていると、ザザザ……というノイズと共に、オブジェクトの形は変化した。




 白い水晶のようなベースメント


 左向きにはめ込まれた青の三角形


 右向きにはめ込まれた緑の三角形




 やがてそのオブジェクトは変化を止め、その姿で回転を止めた。


「なんだ……これはホログラムか何かなのか? こんな異常な変化を起こすのは……」


 男がオブジェクトの変化を訝しがっていると、男は突如として頭が割れるような衝撃を感じた。


「……がっ! ぐ、あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 脳の神経を直接焼かれているような痛み、そして血流が血管を通る感触すら感じられそうな強烈な触覚……悶えてもどうしようもないそれらの感触を感じつつ、男はその感覚の意味を瞬間的に理解した。


「……なんだこれは、記憶? 女の記憶なのか? しかもこの女は、何だこの耳は……!? この世界には亜人は存在しないはず……!」


 もだえ苦しみ、男はその向こうにあるものを目にして、痛みの感覚が鈍くなってきた所で、自分が見せられている光景にハッとする。


「いや、違うっ!! 分かった、わかったぞ……この痛みの意味が! そしてこの記憶の意味がっっ!!」




「あーーっはっはっはっはっは!!!! そうか!! これがっ!! これが俺が追い求めてきた成果だぁっ! そうだぁっ! この世界には! そしてこの【アルヴィス・ニレド】にはぁぁぁ…………!!!!」




ブゥン――……




 男が痛みに悶えながら、狂ったように叫び散らかしたその場所は『完全な静寂』に包まれた。声、音、無音すらもなく、そこに男がいたという『記憶』は残らなかった。


 そして、全ての音が消えたその場所で、光の脈動と、無数の映像だけが投影される。


 人間にしては少し横長の耳を持つ女。弓を扱い、野生動物を狩っていく勇ましい女。戦いに身を投じて、市民を守る勇敢な女。仲間たちと笑い合い、楽しく生きている女。


 戦火の中で、瞬く間に散っていくスィンツー兵と、巨大な火柱を目にした女。深夜に盗賊を相手取り、土で作った弓で応戦した女。八人の剣士と戦い、背中に傷を負った女。自分と同じ姿の幻影を相手にもてる力を尽くし、自分の仲間の幻影を相手取り、町の勝利を勝ち取った女。


 そして、大事な昔の仲間の形見を見つけ、十字架をかけて弔う事が出来た女。


 音のない空間の中で「あの時のペンダントの形を模した」オブジェクトは、その女の記憶を次々と映像で映し出す。何十年という長い記憶を呼び出し、その映像は点いては消える。いくつもの映像を確認したその場所は、全てを閉じて再びゆっくりとした脈動を始める。そしてこの場所は、人の侵入を拒むかのように、その経路を岩の壁で封じた。

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