第18話 最初の仲間にエピタフを
倉庫室を片付けて、ペンダントを手に、受付マネージャーのプラーシュにその遺失物の情報を聞いた五人は、明くる日の朝、僅かな朝陽が差し込む第三次紛争地帯にやって来た。
調べたところ、そのペンダントは三年前の紛争地帯を探索していた冒険者が見つけたもので、拾い主はそれを宝石商に鑑定に出したが、クリスタルとガラス細工では大した価値も出なかったことから、冒険者ギルドに届け出ていたらしい。そして奇しくも、そのペンダントが届けられたのは今から六年前。どんな偶然か、それはシルヴィとレギーナのギルド登録の年となっていた。
「ここに、ペンダントが……」
草の生えていない荒野の、どこにでもある景色の中、シルヴィはそのペンダントを握りしめてかがむ。
シルヴィの記憶の場所、あの時最後にザムトを抱えた場所がどこなのかはもはや知る由もない。だが、こうしてペンダントだけが見つかり、紛争地帯にその痕跡があったという事は、シルヴィにとっては、この場所こそが仲間が最期を遂げた場所だと信じる理由である。
「シルヴィ、ちょっと手を貸してくれ」
ジーンはそう言って、人の腕程の太さの朽ちた木を二本運んできた。周囲の廃墟に積まれていた木だったそうで、ジーンはそれを十字の形に並べて、麻紐で縛って固定する。
「この仲間にだけは、結局ずっと墓参りできてねえんだろ? なら、このペンダントのあった場所は、お前にとっては訪れるべき仲間の墓の一つって事でいいんじゃねえか?」
「ジーン……」
ジーンの言葉で、シルヴィは優しくうなずき、仲間たちが用意した弔いの十字架はこの場所に立てられた。それは、シルヴィがこの50年間果たす事の出来なかった、あの日死んでいった仲間への最初の弔いを果たす大切な役割を果たしてくれたのだ。
「あたしたちも、挨拶させてもらってもいいかしら?」
「スカー?」
十字架を前に頭を下げるシルヴィの肩を、スカーがポン、と一つ叩いた。
「50年前のエリュ・トリを守り抜いて、冒険者たちをとどめ置いた。そしてあたしたちがここに立つ事になった先人、あたしたちの大事な仲間の恩人。そんな彼らに、あたしたちからも敬意を向けさせてほしいのよ」
スカーがそう言うと、ジーン、レギーナ、そしてエリオもシルヴィの目を見て強くうなずいた。
そう、シルヴィは教えられたのだ。ここにいる彼女たちもまた、今を生きているシルヴィにとっての大切な仲間であると。
「……もちろんよ。私を育ててくれた大切な仲間を、みんなにも紹介してあげたいわ」
シルヴィからの快い返事を聞いて、五人は横一列に並んで、何でもない荒野に立てられた一本の十字架へ、それぞれの哀悼の意を示した。その様子を知ってか知らずか、砂を含んでいた風は止み、代わりに五人の間と十字架の前を冷たい風が通り抜けた。五人はその風を受けてなお目を瞑り、最後までそんな変化を気にする事はなかったが、少なくともこの時間だけは、誰にも邪魔をされない特別な哀悼となった。
黙祷を終わらせた一向、シルヴィはすぐに振り返って、四人に向けて深く頭を下げた。
「みんな、ごめんなさい。ただの思い出のつもりが、シャドウクロークの残党や未開拓の森、そんな危険な事態にみんなを付き合わせた。みんなを危険な目に遭わせたし、私がずっと言えずにいた事もあった……迷惑をかけたのは、全部私のせいだから、償うべき事は全部償うわ」
真剣な声が、下げた頭の裏に隠れている表情を物語っている。きっかけはどうあれ、シルヴィが残していった依頼がその発端となった事は確かだった。そしてそのために仲間たちが動き、ギルドも協力をした。シルヴィは自分の気まぐれにそれだけを巻き込んだことを深く謝っていた。だが、
「まったく……今回ばかりは勘違いが多すぎましてよ、シルヴィ?」
「へっ……?」
予想外の返事にシルヴィが顔を上げる。そしてレギーナを始めとした全員の表情は、シルヴィが思っても見なかった程に穏やかな顔だった。
「シルヴィの気まぐれと、スカーの気まぐれが偶然に重なった事で、わたくし達は冒険者ギルドの生き証人を見つける事が出来ましたのよ。それに、自分たちの仲間に、これほど知らなかったことがあったのかと身につまされた。危険だとか迷惑だとか、そのようなものはハナっから承知の上ですし、それを越えてこその冒険者、ですのよ?」
「レギーナ……」
そう、シルヴィは重要な事を見落としていた。冒険者が危険に遭うというのは当たり前のことで、誰から始まったかは、気にするだけ野暮である。そしてレギーナを始めとした仲間たちの心にある共通の答えは「仲間が困ってるのだから、冒険してでも解決するべき」という一点だったのだ。
「そういう事だから、今回の件を例えるのなら、私たちは抱えきれない程の報酬をもらって終了。仲間の困りごとも解決できたし、今まで謎に包まれてた第一次紛争の話も聞けたし、未開拓の森でシャドウクロークの残党を殲滅する事も出来た。これ以上の成果があるかしら?」
「スカー……みんな……ありがとう……わたし、みんなの仲間で、よかった……」
スカーやレギーナの言葉を聞いて、シルヴィは自分の手で顔を隠しながら、潤んだ瞳を隠すようにして謝辞を告げた。
が。そんな彼女に対して、じりじりと近づく赤髪の女がいた。




