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クロス・リッパー ~ALVIS niredo int Eriu-Tori~(小説家になろう編集版)  作者: 海神書房
第3章「クロスリッパーと名もなき依頼」
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第17話 希望は足元に

「それなら、シルヴィはカゴ団長の事を……」

「そうね。私は一方的に知っているわ。第一次紛争の侵攻で、統率が取れずに敗れた教訓から、それを解消するためにエリュ・トリに戦える人間を集める。やがてそれは町の治安維持や狩猟による資源確保を任される集団になり、次第に一つの治安維持組織を形成していく。それが、エリュ・トリ冒険者ギルド」


 辿って来たかのようなシルヴィの話しぶりに、エリオは言葉を失って目を奪われる。歴史の生き証人が、これほど身近で、これほど綺麗な姿をしているというのは、人間の尺度で生きるエリオにとっては考え難い事だった。


「そんな冒険者ギルドの成り立ち、一番最初のメンバーの名前は、ラーゾとヴェルール……私の仲間で、私を冒険者にしてくれた、仲睦まじい夫婦だったの」


 シルヴィが自分の身の上を明かした時に、一言だけ呟いたその名前。エリオはその名前を記憶していた。


「シルヴィを、守り抜いた、冒険者の名前だったか?」

「うん。ラーゾは火のエナジーの使い手で、戦場での火力役を務めていた、本来なら使う事は出来ない私の土のエナジーについて、彼は様々な本を読んで、私にエナジーの使い方を教えてくれた」


 そこで一呼吸おいて、シルヴィは右手にエナジーで土を集めて、その中から成長の可能性がある植物を成長させて、ほんの小さな芽をそこに誕生させる。


「その時のラーゾの教えが無かったら、土のエナジーに自然を操作する術がある事は、今でも疑ってたと思う。そして妻だったヴェルールは射手。生き物を狩猟する時の弓の引き方、確実に仕留める為の威力とコツ。そう言ったことを、私を拾った頃から熟知していた」


 シルヴィは、ベッドに座ったまま目をつぶり、思い出の中に残る二人の姿を思い出す。


「……だけど、ギルドが創立して動き始めた頃には、ラーゾとヴェルールは体力の限界に達していた。紛争での酷使が祟って、ギルド成立後は二人とも隠居をしていた。そしてある時、私に伝聞鳥が届いた。ラーゾが老衰で後がないという知らせ」


「すぐに二人の元に行き、私は晩年の床で私を見て、優しく手を握って笑ってくれた。そして私に再会して間もなく、ラーゾは、穏やかに息を引き取った」


 シルヴィの糸を織るような昔話はそこで途切れ、エリオは彼女の思い出に沈黙を添えて目をつぶっていた。シルヴィは今、何を話そうとしているのだろう。シルヴィが語るその物語は、どのような意味を持つのだろう。エリオは、シルヴィが自分と顔を合わせるまでの僅か数秒の間に、思考の池の波紋を感じ取り、答えを探した。


「ごめんね。色々と重い話を聞かせちゃって」

「構わないさ。それに、君の話は50年前の紛争を記録する上では、重要な証言だ。そう言う意味では、もっとその話を聞きたいぐらいだ」


 エリオは考えて、結局頭の中に列挙していた全ての質問を保留にして、ただ愚直に、シルヴィが求めるエリオの言葉を紡いだ。そんな無骨な青年の言葉に、シルヴィはまた少し笑顔を見せる。


「そうそう。エリオはそのくらいでいてくれる方が私も気持ちが落ち着くわ」

「本当に、よかったのか? 君の思い出に水を差しているのでは……」


 そんな事をエリオが尋ねようとしたとき、シルヴィはそっとエリオの手を掴む。その反応に、エリオは少し戸惑い、そしてシルヴィと顔を見合わせた。


「もう、そんなに深く考えなくたっていいのよ。この話は、誰かに聞いてもらいたくてしてるし、そう言う話をした時にエリオならそう言う冷静な分析をしてくれるでしょ? だから話したのよ」


 そう言って、何度も聞き返す事こそが水を差す行為であるとばかりに頬を膨れさせるシルヴィ。エリオは、全てを明かしてなお、こうして自分たちと連れ合っているシルヴィの奥底にある考えには、まだまだたどり着けないでいた。だが、そんなシルヴィに対して、エリオはとある出来事を伝えた。


「……その、この間、君が麻酔で倒れた時」

「ん?どうしたのいきなり」


 それは、シルヴィが最初に未開拓の森に侵入したときの事だ。シルヴィは過去の記憶にうなされており、その時に何が起きたかを知らない。そんな合間の話を、エリオは語り始める。


「あの時、シルヴィをおぶって運んだのは俺だったんだ」

「……あぁ、そうだったの。私、重たくなかった?」


 少しだけ、ここまでの雰囲気とは違う空気が感じられる二人の会話。お互いに、少しの間を置いてその時の様子を語り合う。


「それは、大丈夫だ。標準……だと思う」

「標準って……エリオはそんなに他の人を担いだりしてるの?」

「いや、そう言う事はないが……」


 お互いに不思議な空気を感じて押し黙る。そうして二人がそんな思い出話をしていると、病室のドアが急いであけられて、三人の冒険者たちが帰って来た。


バンッ!!


「シルヴィ!! 今度は当たりかもしれない!!」




 冒険者ギルド、備品倉庫。武器・防具などいくつもの道具が保管されている手狭な空間に、五人は集合していた。


「カゴ団長が、これまでの遺失物に関してプラーシュと相談していた時に、備品倉庫の遺失物を捜索するって言うアイデアを思いついて、それらを照合する許可を団長がくれたってわけ」

「そんで、この埃っぽい部屋が過去の遺失物を補完するための倉庫部屋だ。普通なら許可がある奴しか立ち寄らねえが、今回は自由に見ていいらしいぜ」


 スカーの説明とジーンの補足に、全員の顔が期待と緊張で引き締まる。これまで幾度となくハズレを引いてきた五人にとって、この捜索は最後の希望にも近かった。ここまで手を尽くして出てこないのであれば、そこから先は諦めか虚無の二択でしかない。


「確か宝飾品はショーケースに…あった、あそこね!」


 倉庫室を歩き、壁や柱などに飾られている多くの装備品の中から、アクセサリーをメインに保管してあるショーケースを見つけた。腕輪、足輪、髪飾りや口元を隠すヴェール、そしてペンダント……これまでの冒険者たちがうっかり落としてしまった品々が数多く並んでいる。


「資料で見るに……ペンダント、ネックレスはこれまでに188点が遺失物として届けられてるみたい」

「それはまた……みんな随分と落とし物をしているわね」


 呆れるシルヴィに、その後ろからエリオが声をかける。


「だが、落としたのがものではない場合もありうる。ここに残っているのは、そう言った亡き主の手を離れたものもあるのだろう?」

「そう言うこと。だからシルヴィ、ここは思い切って全部を探してみましょう。ショーケース以外にも、レギーナが許可をもらって向こうにある小さな金庫を確認する事が出来るから、それも含めて最後の望みを託しましょ?」


 スカーからの朗らかな提案と差し伸べられた手に、シルヴィは少し考えてから、自分の手を伸ばして握手を交わす。そしてショーケースから始めて、そこに飾られている数多のネックレス、ペンダントを次々と確認していく。


 シルヴィは自分の記憶の中のペンダントの形状を思い返す。50年前に、目を付けては様々な道具を買っては、その使い道にみんなで困った思い出。そしてあの時に、自分の手の中で気丈に笑って見せたザムトが全員に配った仲間の証…




――せっかくだし、俺達チームで何か身に着けておこうぜ。確か……お、あった! ほら! 石英細工のペンダント!




 いくつもの首飾りを辿っていくうちに、シルヴィの記憶は鮮明になっていき、その形状、質感、そしてそれをくれたザムトの思い出が蘇ってくる。




――いやぁ、これを五つ買った時はさすがにツイードに怒られちゃってさ。おかげで一日で四つぐらいの狩猟に引きずり回されちゃったんだよ。たはは……おっと、忘れてた。それぞれのペンダントにお前たちの名前を刻印しておかないとな!




 白いひし形のクリスタルをベースに、青と緑のガラスの三角形がはめ込まれたペンダント。金や銀、金属細工などのしゃれた装飾も存在しない、紐だけで結われていたそれが目に浮かび、そして50、60、70といくつもの装飾品を検品していく。


「シルヴィ! クリスタルベースのペンダント! これではありませんか?」


 そう言うと、金庫の中を調べていたレギーナが、一つの品を持ってシルヴィの元に駆け寄る。




――そう言うわけだからシルヴィ、あとラーゾとヴェルール、そしてツイード。これが俺たちの、仲間の証ってやつだ。ようこそシルヴィ、ここエリュ・トリへ。




「……見つ、けた」




 白く透き通る石英の台座に、左向きの青、右向きの緑の三角形がはめ込まれたペンダント、それを結んでいる紐はちぎれて、僅かに砂を含んでいる。そして、ペンダントトップの裏面。石英に打ち込まれる形で掘られた「ザムト」の文字。


「……長かった、こんなにも長くて……こんなにも、早く見つけられたわ……ザムト……」


 シルヴィは、長年かけてようやく探すことができた。そしてようやく見つける事が出来たペンダントを、静かに胸に抱きしめた。

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