第15話 解決は手早く
翌朝。シルヴィとエリオが療養をしている最中に、三人はシルヴィが追い求めていた未開拓の森にチームで入っていた。
「しかし、隠密に優れてるとは言え、こんな樹海を根城にするというのは自殺行為なのでは?」
「そうね。団長ですら、ここの探索には相当気を遣うし、一介の盗賊にどうにかなる場所だとは思えないけれど」
レギーナの疑問に、スカーも納得して、足元の小枝を折るパキパキとした音を鳴らしながら森林の中を進んでいく。シルヴィが感じたものと同じ感触を三人も感じ取っており、生物の気配の無さ、朝ぼらけの薄暗い雰囲気、それらがこの場所を未開拓たらしめる物である事を如実に語っていた。
「確かこの少し奥に……おっ、見っけた」
潜入から一時間弱、スカーたちは、シルヴィが見つけたとされる洞穴らしき場所にたどり着いた。そして、下に降りようとするスカーだったが、それをジーンが止める。
「おい待て。まだ下りない方がいいぜ」
そう言うと、ジーンは右のホルスターのガンナイフを取り出して、火のエナジーを凝縮させた弾丸を、リボルバーに3発装填した。そして洞窟付近の地面に狙いを定めて、何かを探すように視線を走らせる。
「……そこだ」
その一言で、ジーンのガンナイフは一発の弾丸を地面に向けて打ち出した。ドォン!という鈍い銃撃音が無音の森林に響いて、ジーンの弾丸は地面を抉った。それと同時にプンッ……!という糸の切れるような音が三人の耳に届き、次の瞬間に洞穴付近の小さな穴から、裁縫や縫製に使う小型の針が飛び出してきた。
「なるほど、ここで罠を仕掛けて待ってやがったのか」
「シルヴィはこれに……という事は、この洞窟にはそれを用意する人物と、その動機があるという事ですわね」
レギーナの推測に、全員の顔が引き締まる。そして三人は、恐る恐る洞窟まで降り、そして洞穴の中へと進んでいった。
中は暗く、三人はジーンが起動したガンナイフの灯で洞窟の中を探索した。岩で出来た壁、平らかな道、生物の感じられない無音。中に入れば入る程、この場所の人造物感が強まっていき、三人の緊張感も高まっていく。
「こりゃあ、人が住んでいてもおかしくはねえな」
「最初は疑っていましたが、思った以上に相手はやり手のようですわね」
足を進めて5分。三人はそこである事に気が付く。
「……おっ、壁に当たったわね」
スカーたちが見つけたのは、壁だった。これまでずっと人が通れる開けた洞窟を演じていたにもかかわらず、ある場所からは突然道がなくなり、代わりに何かを塞ぐ岩盤のようなものが立てられていた。
「行き止まり?でもこれはまるで……」
スカーが道を塞ぐ岩に触れ、その様子を確認しようとする。しかし、その時何かに気が付いたレギーナはスカーの手を引っ張った。
「スカーっ! 今すぐここから出ましょう!」
「うえっ! なになに!?」
「もしも予想が正しければ、行き止まりのある洞窟の使い方なんて限られております」
レギーナの言葉で、三人はすぐに出口に向かっていく。そしてレギーナの予想が当たっていたのか、スカー達が来た道には煙が張り巡らされていた。
「これは……煙幕?」
「スカー、口を塞ぎましょう。この場所へ誘導するのが目的なら、この煙はおそらく薬効性の……」
そう言って、三人は口元を覆い、その煙に触れないように警戒する。その外では、一人の男がゆがんた笑みを浮かべていた。
「へっへっへ……麻酔に引っかかって眠った女は仕留め損ねたが、さすがに密室の洞窟に麻痺性の煙幕を張れば、どんな優秀な冒険者でも太刀打ちできねえだろうよ」
黒のローブと黒の面頬に身を包み、顔が割れるのを警戒していた男は、煙の充満する洞窟を見てほくそ笑んだ。そして体感で4分、その煙は洞窟内を漂い続け、男は静かに穴の前に降り立った。
「さすがに4分もこの場で息を止めてられるとは思えねえ。確か三人で入ってたな、誰か一人でも生き残ってちゃ厄介だ。ここはもう一つこの薬を……」
そう言って薬を取り出した時、男は何かがフッと左肩を掠めるのを感じた。そして、左頬を撫でる風に気がついて顔を上げた時、今度は自分の右の首筋に冷たい金属の感触を覚えた。
「最後の最後で詰めを誤ったわね。シャドウクロークの残党」
右後ろに感じる赤髪の女の気配、見なくても判る敵意を感じて、男は狼狽えた。
「な、なんでっ!? まさかずっと息を止めてたのかっ!?」
「それはちょっと難しかったから、代わりに自分たちの顔を守ることにしたのよ、頼りになる若人の機転ってやつでね」
そんなスカーのセリフとともに、ジーンとレギーナも洞窟から現れる。その顔は水で出来たヘルメットのようなもので覆われており、外部からの空気を遮断するようになっていた。
「……ぷはっ! あいにくわたくし、人の顔を水で覆うのには慣れてますの。うっとうしいくらい愛情の深い姉の口を塞ぐ時に役に立ちますのよ?」
「そ、そんな……俺の罠が……シャドウクロークの再興が……」
自分の策を完全に破られた男は、三対一の圧倒的不利と、自分の罠を看破されたショックで、そこからは大人しく三人に捕まることとなった。
「まったく、未開拓の森なんて危険なところ、よくアジトに選んだわね」
「俺たちだって好きで選んだわけじゃねえさ、ここならよほどの冒険者しか来ねえし、その上ここは不規則に地形が変化するんだ。だから土地勘なんてものでバレる心配もなかったのさ。この洞窟だって、二か月前に突然生まれてきたからな」
男の証言によると、この森林は生物の侵入や生息を拒むように、地形が少しずつ変化しているという。シャドウクロークの団員同士は、各々がこの場所に隠れ潜み、必要に応じてこの森林以外の場所で集まり、集団での窃盗に臨んでいたそうだ。
「なるほど、これまで足がつかなかったのもそれで納得がいく、しかし手紙を寄越したのは協力者か?」
「あぁ、そう言えばお前らは『俺と出会ってない奴ら』だったな。品物を盗まれたフリをして、あの耳の長い女をここにおびき寄せたのも俺だよ。そいつかもう一人の男に俺を突き出してみろよ、そうすりゃ判るぜ」
男の不遜な態度に三人は思うところがあったが、まずはこの森を抜けて冒険者ギルドに突き出すところから始めるため、ここでの問答はそれ以上しなかった。




