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クロス・リッパー ~ALVIS niredo int Eriu-Tori~(小説家になろう編集版)  作者: 海神書房
第3章「クロスリッパーと名もなき依頼」
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第14話 シルヴィ・レース・シャウラ

「……いやぁぁっっ!!ザムトぉぉっっっっ!!」




 夜の帳の下に響く様な叫びをあげて、シルヴィは目を覚ました。薄暗い部屋、白い布団を被って、ほんのりと薬の匂いを感じる場所。シルヴィは、あまりに多くの記憶に、今の自分を完全に見失っていた。だが、そんな彼女を今に引き戻す、若さに反して深い声がシルヴィの右耳を撫でた。


「……シルヴィ、目が覚めたか」

「エ、リオ?」


 右を向き、窓辺で椅子に座ってシルヴィの右手を握っていたエリオの姿を見て、シルヴィは数秒の後にそれがエリオであると認識した。


 意識が戻ったシルヴィを見て、エリオは珍しく顔を隠して、無言でシルヴィの身体を抱き締めた。シルヴィはその状況に何もできず、ただただその身体に抱きしめられて、その温かさを感じる事しか出来なかった。


「よかった……あのまま、死んでしまったらと思って……心配したんだ……」

「うん……うん……」


 自分の状況をどこから整理するべきか、まだはっきりとわかっていないシルヴィは、数分の間、エリオの優しい抱擁に身を委ねる事しか出来なかった。そしてしばらくして、スカーやレギーナ、ジーンもシルヴィを訪ねてきて、朝に始まった遺物捜索は、この夜になってようやく五人の集合を叶える事となった。




「そ・れ・でっ!!」

「ふゃぁぁぁ、いひゃいいひゃい……ほっへたをふねらないへ~……(痛い痛い、ほっぺたをつねらないで~)」


 ようやく落ち着いて話ができるようになった矢先、まずレギーナが夜の挨拶とばかりにシルヴィの両頬を思いっきりつねって引っ張る。


「いいえ許しませんわ! 単独で未開拓の森に出かけた挙句その森の中で倒れて意識不明! ぜんっぶシルヴィのせいですわよっ!」

「わ、わかったから……もうこんなことはしないってば!」

「いいえ、もう少しだけつねらせてもらいますっ!」

「ふやぁぁぁぁ~……!」


 全員の不満を代表するかのようなレギーナの報復で、一同は怒るような気力を全部持っていかれて、エリオも含めて全員の気持ちは落ち着いていた。


「いたた……腫れたらどうするのよ」

「それだけの事をしたって事よ。シルヴィ……心配したんだからね」

「スカー……うん、本当にごめんなさい」


 スカーの珍しく真剣な表情に、シルヴィは返す言葉もなく静かに頭を下げた。そして、仲間たちが薄々感づいている事について、シルヴィからも言及する。


「……多分、みんな私の言動がおかしい事について、聞きたいわよね」

「そうだな。特に、この遺物探しが一昔前に遡った頃から、お前の反応は余計におかしかったからな」


 ジーンの言葉に、シルヴィはゆっくりを頷く。そして、病院のベッドの上で一つ深呼吸をして、シルヴィは真剣な面持ちで、スカーたちと向き合った。




「……みんな落ち着いて聞いてね。今まで言わなかった事だけど、私シルヴィ・レース・シャウラは、50年前の第一次紛争の経験者。そして、その当時からこの姿で生き続けている……端的に言えばみんなと生きている時間が違うの」




 シルヴィの告白に、全員の顔には驚き以外の反応が出ない。だがそれでも、シルヴィは話を続けた。


「私は、いつともわからない時代に生まれて、このエリュ・トリで目を覚まして、偶然私を見つけた四人の冒険者に拾われた。そして四人の冒険者たちからエナジーの使い方や森での狩猟法、様々な戦い方を学んで、その冒険者たちを『師匠』と仰いで、師弟関係でありながら、良い冒険仲間として生活していた」


「だけど、そんな暮らしはある日突然揺るがされた。領土侵略を始めたスィンツー軍によって、エリュ・トリは甚大な被害を受ける事となった。もちろん戦える人間は戦地に赴いて迎撃をしたけれど、今のように団結するような状態じゃなかったエリュ・トリでは成す術はなかった」


「その戦いでエリュ・トリは領土の侵略を許して、国境線は今のエリュ・トリ並みのラインまで下げられた。幸いなのは、スィンツーが侵攻だけして略奪をしなかった事だった。けれど、紛争をするという事は、被害が出るという事だった」


 そこまで言って、シルヴィは自分の目が潤んでいる事に気が付く。エリオがそれを察して近づこうとするが、シルヴィはゆっくりと首を横に振ってそれを止めた。


「私の師匠たち、ザムト、ツイード、そしてヴェルールとラーゾの夫婦。仲間たちと私も戦場に赴いて、どうにか迎撃を進めていた。けれど、仲間の中で一番物持ちがよかった準備屋のザムトは、スィンツーの矢の雨と火炎球の応酬をまともに食らう事になって、私が駆け寄った時には、既に血という血を溢れさせて、虫の息だった」


「戦火を搔い潜って、どうにかザムトの所まで迎えたけれど、その時間はわずかだった。次の波状攻撃が来るからと、ヴェルールに抱えられて、私はほんのわずかな時間、ザムトの死ぬ間際の身体を抱きかかえただけで……何も、出来なかった」

「シルヴィ……」


「何も出来なかった」その言葉に声を詰まらせたシルヴィに、レギーナは深い悲しみを露わにした。特にレギーナにとっては、今の年齢的にも、そして未だに「人を失う事」を経験していない身としても、その悲しみを測る事が出来ない程悲痛な出来事だった。


「……もう、わかったわよね。あの依頼書の主は私。あの依頼書はね、その紛争からしばらくして、冒険者ギルドが立ち上がってから、自分の慰めのつもりで時々書いてたものなの。本当なら、新しい依頼書に埋もれて、私が剥がして捨てるものだったんだけど、今回に限って、よりにもよってスカーが見つけちゃった」

「それで、シルヴィはあたしが依頼を引き受けた時に、あんなにぼんやりしてたのね。まさかその依頼を手に取る人がいるとは思っていなかった……そう言う理由で」


 スカーの指摘に、乾いた笑顔を返すシルヴィ。そして、シルヴィの記憶を追う話はもう少し続く。


「依頼内容はいたずらなんかじゃないわよ。あの時ザムトから回収できなかった遺物、それがあの依頼の品。抱きしめて彼をどうにかしようとしか考えてなかったから、当然よね」


「だから、シャドウクロークの残党がそれを盗んだというあの手紙に、私は罠だと分かっても入り込まざるを得なかった。その結末は……まぁ、見ての通りよね」


 そう言って、病床で手を広げて、自分の有様を語るシルヴィ。こうして今回の依頼の全容が、その依頼主から語られる事となった。


「あー……まぁなんだ。とりあえず俺から言えるのは、無駄な心配をかけさせんなよって事ぐらいか? あと、冗談でも身を固めるだとか言った事は、悪かったよ」


 ジーンの言葉に、シルヴィはようやく自然な笑みをこぼす。


「ふふっ、身を固めるって言う話は、少し身につまされたし、気にしてないわよ。それと、心配かけさせたのは素直に謝るわ」

「わかりゃいいんだよ。不用意に出て行ってこのざまなんだから、こうして全部を話した以上、もう勝手な事はするんじゃねえぞ?」

「ふふっ、はーい」


 結果として、シルヴィが単独で無茶をしたことを四人で責めるにとどまり。それ以外の事については四人とも納得はしていた。長命という前代未聞の存在である事に驚きこそすれど、スカーたちにとってそれが特別な意味を持つというわけではなかった。


「まぁ、あたし的には依頼者が見つかった上に第一次紛争の生き証人まで増えたって言うのがとても興味深いから、それと今回の行動でトントンでいいんじゃないかと思ってるわよ」

「そうですわね。シルヴィにもシルヴィなりの事情があった。今回の行動の是非を決める要素なんて、それで十分ですわ」

「あぁ、それにシルヴィは無事で、そして生きて戻ってこれた」

「いやぁ、あの時のエリオの表情、シルヴィにも見てもらいたかったぜ。なにせ……」


 一同が安心して、いつもの調子で話している時、ジーンの言ったその言葉にエリオはいち早く反応して、ジーンの足元に氷結の罠を展開した。


「ジーン……そう言う野暮な事は言わないのが安全だとは思わないか?」

「わ、わかってるって! そんなにあからさまな反応しなくてもいいじゃねえかよ」


 ジーンとエリオの会話を聞いて、シルヴィは少し首を傾げたが、その結果が明らかになる事はなく、スカーがまた別の話を持ち出した。


「とりあえず、シルヴィの容態だけど、おそらく麻酔による昏睡。首の後ろに刺されていた針から、特殊な薬が検出されて、不意打ちで食らったみたいね。今は大丈夫みたいだけど、医師が言うには二日間は身体を休める事だって」

「うん、さすがに今回はちゃんと約束は守るわね。色々話したおかげで、あまり急がなくてもよくなった訳だし」


 シルヴィの言葉にスカーは頷き、更にスカーはエリオの方を向いた。


「それで、エリオ。この二日間、シルヴィのかんし……あぁいや、シルヴィの護衛を任せてもいいかしら?」

「今、監視って言おうとしたわね……?」


 スカーの提案に、エリオは即座に首を縦に振り、振った首でシルヴィを見た。シルヴィもエリオの目線を見て納得して、二日間の面倒をエリオが見る提案は定まった。そして、エリオを置いた状態でスカー、レギーナ、ジーンは病室を出る事になり、窓際の椅子に座ったエリオと、病床で身体を起こしているシルヴィの二人が残された。

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