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クロス・リッパー ~ALVIS niredo int Eriu-Tori~(小説家になろう編集版)  作者: 海神書房
第3章「クロスリッパーと名もなき依頼」
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第7話 依頼を肴に

 夜のエリュ・トリは、冒険者たちの宴で活気づいていた。中でも冒険者の台所たる『石炉亭』は、大小さまざまな冒険者たちの心と腹を満たすのにうってつけだ。


 スカーたち五人は、各々が飲みたい酒と、そのあてとなるつまみを食べながら、あいも変わらずここ数日の話で盛り上がっていた。そんな折に、ジーンの言葉を皮切りに、冒険者の人間的な幸せについて……要は『色恋沙汰』についての話が始まった。


「しかしよぉ。冒険者ってのは儚い生き物だぜ? レギーナとスカーはともかく、シルヴィは二十歳の入りなんだろ? 人生を添い遂げる相方を持つ準備ぐらいはしといた方が……」

「あ?」

「いえなんでもありません、相変わらずお美しい姿でございます」


 酔いの勢いかのようにシルヴィにダル絡みをするジーン。これはよくある事であり、シルヴィの「なんなら今死ぬか?」と言う言葉のこもった、殺伐とした目線も、この五人で語り合っている時の恒例のイベントのようなものだ。


「相変わらず、酔った時の絡みグセが最悪ですわね。ジーン」

「おぉう? レギーナちゃんもそういう話に興味のあるお年頃ってことかい? まぁうら若き乙女と言えばこいば……ぶへぁっ!?」


 ジーンのダル絡みがレギーナに向けられた瞬間、レギーナはジーンの後頭部を無言で押さえて、そのまま顔を木のテーブルに打ち付けた。酔いともそれ以外とも言える表情のレギーナによる『力の交渉術』は、周りにも音が響いて、近くで飲んでいた何人かはその衝撃に、スカー達のテーブルの方を向いた。


 クラフトビアーの瓶を持って顔をテーブルに打ち付けられたガンマンと、鼻を鳴らして怒りをあらわにする金髪の冒険者、そしてそれを三者三様の表情で見送るスカー達。その光景を見た者たちは、みんな揃って素早く目をそらし『このテーブルとは関わり合いにならないほうがいい』と口々に示し合わせた。


「そう言えば、話は変わるんだけど。今、紛争の時の遺物探しをしてるのよ。それでシルヴィと一緒にやってるんだけど、よかったらみんなも協力してくれない?」


 ジュース片手に、スカーは昼下がりに引き受けた依頼について話す。スカーはその依頼書をテーブルに置いて、ここにいる仲間たちにその事情を説明した。破格の依頼料、具体的な依頼、そして依頼者の名前がないこと……


「依頼者不明と言うのは、スカーらしくないミスだな。何か気を急ぐようなことがあったのか?」


 エリオからの質問に、スカーは左から右へ目線を泳がせる。つつじ屋の奢りで金欠だったから脇目も振らず受注したという理由を話すのは、例え親交の篤い仲間だとしても恥ずかしいものである。


「いや〜……まぁ、ちょっと、そう! 金額に惹かれてね!」

「……まぁ、そういう事にしておくか」


 明らかに訝しがっているエリオだったが、スカーの言いたくなさを察してか、深く言及はしない。エリオが一歩引いたことで、スカーはほっと胸を撫でおろして、信頼ある仲間の大切さを身に染みて理解した。


「とりあえず、その依頼者を探すのは重要よね。これだけの金額を提示するというのなら、相当に思い入れのある品だと思うのよ」

「あるいは、金額的な価値を見出したと言う考えもありますわ。ツタのエングレーブ(飾り模様)が施されたナイフとなれば、一点ものの可能性は高いですし」


 レギーナとシルヴィは、その不明な依頼者の影を推測して、それぞれの意見を交換する。


 レギーナとシルヴィの視点は、その依頼者をどのように推測しているのかを語っていた。


 シルヴィの目線では、法外な値段をかける品物であれば、強い愛着や思い入れのある品だと見る。それはつまり、依頼者がそれらを自分の思いで探していることになる。


 他方でレギーナの目線では、それらの品が何らかの価値を持つ品であり、依頼者はそれらを価値……例えば『金銭的価値』を目的に探していると言う事だ。


「つまりレギーナは、この依頼者が宝探しのつもりで依頼したと?」

「そういう可能性もあると思いますわ。ほら、わたくしたちもスミスクラウンの商品には触れてるでしょう?」


 エリュ・トリで武器防具の生産を担う都市型の商会【スミスクラウン商会】かつて、スカー達五人はそのスミスクラウン商会の依頼を受け、その報酬として特製の武器を譲り受けたことがある。ことスカーの愛用している刃渡り40センチの戦闘用ダガーは、その事件の時に修繕をした品でもある。


「エングレーブを付けたナイフは、それだけでワンランク上の高級品となります。それならば、求める相手が必ずしも情や義理で動く関係者だとは言い切れない、そう思いません?」

「……確かに」


 レギーナの予想はもっともだった。依頼書に特徴を明記するのは一つの礼儀ではあるが、わざわざそんな特徴を記すと言うのは、その特徴に大きな意味があると取ることも出来る。


「それに、依頼者の名前がないこと、残る二つの中身の詳細が鮮明ではないことも含めると『主にナイフを金銭的価値から追い求めている人物』と言う推理も出来ます。そうなれば、依頼者が悪意のある人物であっても、不思議ではないと思いますが?」


 レギーナの推理に、一同は軽く頷く。


 冒険者に依頼を出す際に、その中身、そしてその依頼者自身が、善悪両方の側面を持つと言うのは、長く冒険者をしている者なら、自然と身についてくる教訓である。ここにいる冒険者たちもその教訓を辿ってきた事はあるし、それを活かして危険な依頼を未然に防ぐことも少なくない。


「……そう、ね。ただやっぱり、どちらの可能性も残しておく必要はあると思うから、レギーナの推測も頭に入れた上で、依頼者と遺物の両方を探してみればいいんじゃないかしら?」

「それは賛成ですわ。穿った見方もしましたが、わたくしだって、大切な品が持ち主に返るのなら、その手伝いはしたいですし」


 そう言って、シルヴィの顔を笑顔で見つめるレギーナ。率直な意見で気を引き締めた上で、それでもシルヴィの言葉を尊重するその話しぶりに、シルヴィは少し頬を赤らめて、複雑な表情を見せた。


「……もう、そういう事を自然とやるのは、ズルいと思うんだけど?」

「えっ? ズルい? どういう意味ですの?」


 下げてから上げる。そんな、人を口説く時の常套手段を、何の気なしに使っていたレギーナは、シルヴィの膨れっ面の意味もわからずにキョトンとする。


 レギーナは視線の合いそうなスカーやエリオを見るが、エリオはすぐに視線を逃がし、スカーは余裕の笑みでジュースを楽しむ。そしてわけも分からずにうろたえているとシルヴィから、


「もういいから! 探し物の話は終わりっ! また明日考えるわよ!」


 と、何も解決しない疑問を脇に置かれて、宴の夜が過ぎていった。


「シルヴィ……お前実は少し酔ってんじゃねえか?」

「ジーン! 目を覚ますな、ばかっ!」

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