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クロス・リッパー ~ALVIS niredo int Eriu-Tori~(小説家になろう編集版)  作者: 海神書房
第3章「クロスリッパーと名もなき依頼」
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第6話 啓示の向かう先で

 エリュ・トリ西部、スィンツーとの国境地帯。


 マリとミロの啓示を受けたスカーは、紛争の爪痕もまだ残る荒涼とした場所に足を運んだ。


「紛争と言えば、やっぱりここよね」


 啓示が示す『紛争を辿れ』の文言を受けて、彼女はこの場所を真っ先に思い浮かべた。エリュ・トリにおいてそれが示すものと言えばここだ。依頼主がここにいるとは限らないが、遺物がある可能性と言えば他にはない。


「まぁ、火事場泥棒が起きる可能性はあるけれど、あの二人が示したのなら、遺物そのものか、そのヒントか……そんなものが見つかることでしょう」


 そう言ってスカーは、枯れ草地帯を歩き始める。砂が飛んで、ゴツゴツとした岩肌も時折見える場所。数キロ向こうには監視塔が建っており、スィンツーがこの国境に対して執着を持っている事が遠目にもわかる。


 監視塔を右手に見るようにして、国境地帯を横断するスカー。地平が長く続くその場所で、スカーは足元に落ちている、朽ちた木材や錆びた金属片を見ながら、目的のヒントはないかと歩き回る。


「潰れた集落、か」


 暫く歩き進めていると、やたらと大きな木材や石壁が目立つ場所に着いた。枯れ草の伸びる砂地、石の土台だけが残った民家跡、虫に喰われて折れたかのような木の柱など、そこがいつかの集落であったことを示す史跡にたどり着いた。


「土台は、今のエリュ・トリのものと近い色……30年前の紛争で廃れた集落かしら」


 スカーは、自分が生まれるより前の集落と言った空気に、依頼への可能性とわずかなロマンを感じて集落跡を探し回った。


 家だったかもしれない石の土台の内側で、足元の砂や土を軽く掘り返す。その下から、ごくまれに木製の食器やボロの布切れ、服だったものなどが出てきて、スカーはそれらを掘り出しては石の土台の上にきちんと並べる。依頼品かどうかはともかく、砂の下に物が埋まっている可能性はあると踏んで、スカーはしばらく集落の砂の下を舞台にした宝探しを続けた。




「やっぱりだめかぁ……」


 時間を忘れるかのように捜索をしてから二時間、スカーはその集落の範囲とみられる場所を掘り返しつつ探したが、自分の求めている手がかりや遺物は見つけることが出来なかった。


「積みあがった砂の下に何かが埋まっている事については正解だったけど、さすがにこんな探し方で奇跡的に見つかるなんてことはなかったわね」


 淡い期待を裏切られて、今日のところは引き上げようと踵を返して、集落跡を去っていく。すると、そんなスカーの戻る先、エリュ・トリへの帰り道に、人の気配があるのを感じた。


「人? もしかして依頼主かしら?」


 そんな想像を浮かべていると、向こうにいた人影は、まるでこちらに気付いて走り始めたような素振りを見せた。


「おっと、これは何か怪しいわね……」


 そう言うとスカーは姿勢を低く取り、砂の中にある取っ掛かりに足を掛けて、向こうの人影に追いつく準備をした。目測での距離、およそ200メートル、だがスカーは追いつける。舌なめずりで位置を見極めて、スカーは瞬間、脚のバネととてつもない蹴り出しでエリュ・トリ方面に逃げる人影を追いかけた。


ザザザザ……!


 スカーは砂地を踏みしめて、しぶきを上げてエリュ・トリに戻っていく。国境線の向こうで起きているそんな動きに、スィンツー監視塔も遠くからその様子を眺めていた。そしておよそ16秒。スカーはその人影を射程範囲にとらえ、すかさずその人物に飛び込んだ。


「そりゃあっ!」

「きゃあっ!?」


 妙に可愛らしい悲鳴が聞こえてきて、スカーと件の人物は、もつれるような形で荒野と草原の入り混じる地面に転がり込んだ。


「いたた……ちょっと勢いが強すぎたかしら」


 スカーは起き上がり、その人物の顔を見る。すると、顔よりも先に、自分の手に妙な感触がするのを感じた。人肌のような温かさ、柔らかくも弾力のある球体のような質感。そして、目の前で顔を赤らめている……




「シ、シル……ヴィ?」




「は、はろー……スカー」


 スカーが馬乗りになる形で、追いかけて追いついたのは、先ほど冒険者ギルドで別れたはずのシルヴィだった。


「シルヴィ。どうしてこんな国境地帯に?」

「いやぁ……スカーが町中でミロとマリに会ってるのを見てね、ちょっと様子を追いかけてたのよ」


 そう言って、シルヴィは気まずそうに目線をそらす。尾行がバレたがゆえの気まずさなのか、スカーの手がちょうどよく彼女の胸を揉む形であることにも触れずに会話を進める。


「うーん……」


 シルヴィの煮え切らない反応を見て、怪訝な表情を見せるスカー、するとシルヴィの胸を掴んでいた手を、明確にシルヴィの胸の形に添わせて動かす。下から上へ押し上げるような動き、そんなゆっくりした動作にシルヴィは緊張と謎の感情がこみあげてくるのを感じる。そしてスカーの指先が、シルヴィの胸の最も高い位置に達したとき、


「ひゃんっ!」


 何か強い刺激を感じ取ったシルヴィは、これまでにスカーも聞いたことがないような嬌声をこぼした。何が起きたか分からなかったシルヴィがスカーの方をむくと、シルヴィが発した嬌声に、これまでの付き合いではそうそう見ない、下心をにじませたスカーの顔があった。


「シルヴィ? あたしはシルヴィがもう少し素直な人だと思ってたから、できればもう一回あたしを追いかけてた理由をきちんと教えてほしいのよね?」

「わ、わかった! 理由はちゃんと話すから! だからもう胸に押し当ててる手を離して!」


 エリュ・トリ領内の草原地帯。シルヴィとスカーはあの荒涼とした場所を眺められる場所に佇み、スカーの質問に答えた。


「それで、どうしてあたしを尾行してたの? あたしが全速で追いつかないギリギリのラインで、ずっと尾行してたわよね」

「なんでそこまでわかってるのよ……まぁいいわ。スカーを追いかけてた理由は、まぁ最近の夢見の悪さと言うか、ちょっと思い出したことがあって、そこにスカーが遺物捜索の受注をしたのが重なって、少し感傷的になってたのよ」


 荒野を眺めながら、銀色の髪を砂混じりの風に流してそんな話をするシルヴィ。スカーは彼女の表情に、個人的な問題が関わっていることは薄々感じていた。


「それって……紛争に関係あること?」

「そうね……あると言えばあるけれど、ないと言えばないかな」


 シルヴィのはぐらかすような言葉。スカーはそれが、彼女が本当に語りたがらない何かだと察して、あえてそこには深く触れなかった。だが、黙していたスカーをして、シルヴィはそれを聞いてほしそうな目を見せて振り返っていた。


「……私にはね。冒険の師匠がいるの。まだ未熟だった私を、ひとりで生き抜けるように鍛え上げて、その人たちの冒険に帯同して色々な事を教わった師匠。自然との付き合い方。武器での戦い。素手の闘い方も学んだし、私の持つ土のエナジーの操作方法だって教えてくれた。でも……」


 そこまで言って、シルヴィは再び荒野に視線を移した。スカーには見えない表情。それでもシルヴィは話を続ける。


「師匠は高齢だった。そして病床にも伏していた。私に技術や知恵のほとんどを授けた頃には、もう寝床から立つことは出来なかった」


「そして、師匠は私に看取られて穏やかに逝った」


「冒険者なら、いつかは覚悟しておくべき時よね。シルヴィはすでに経験をしていたと言うこと、か」

「看取ることが出来たのは幸運だったのかもしれないわ。紛争で人を亡くしたら、場合によっては最期の顔を見ることだって叶わないんだもの」

「もしかして、シルヴィがあたしを追ってたのって、あたしの依頼にそう言う情が湧いたから?」


 スカーの問いに、乾いた笑いを返すシルヴィ。困ったようなその笑い顔が、質問の答えを端的に表していた。


「遺物捜索の依頼と最近の思い出を重ね合わせちゃってね。だから、スカーの遺物探しについて、ギルドではつい昔話を思い出しちゃって、傍目にはぼんやりしてたように見えたわよね、あはは……」


 そこまで言って、シルヴィは大きく伸びをした。乾いた砂の香りも届きそうなこの草原で、細く端麗なシルヴィの銀の髪がなびく。スカーは彼女のそんな話を聞いて、ポツリと呟いた。


「それならせっかくだし、シルヴィも一緒に探す?」

「えっ」


 事も無げなスカーの一言に、シルヴィは軽く驚きの言葉をこぼす。


「それだけ思うところがあるのなら、シルヴィも一緒に探しましょうよ。それなら……」

「……それなら?」

「それなら、その遺物の持ち主も安心できるんじゃないかしら。墓荒らしに遭うよりもそっちの方が何倍もいい、でしょ?」


 スカーはそう言って、誘いのつもりのウィンクをシルヴィにくれた。そんな彼女の気配りに、シルヴィは両手を挙げて降参を示して、スカーの提案に乗ることを決めた。


「おーけー。それじゃあ続きと言いたいところだけれど、さすがにもう夜が近いから、今日のところは切り上げて、明日一緒に探しましょう?」

「ありがとう。最初は断っちゃってごめんなさい、一緒に遺物探し、頑張りましょう」


 こうして夜も近い頃、二人は砂の踊る夜の荒野をあとにして、エリュ・トリの町中へ戻っていった。

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