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クロス・リッパー ~ALVIS niredo int Eriu-Tori~(小説家になろう編集版)  作者: 海神書房
第3章「クロスリッパーと名もなき依頼」
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第5話 勘違いと星の目

 ギルドを後にしたスカーは、依頼書をじっくりと読んでみて、これまで普通にあったのに見落としていた重大な事実に気が付いた。


「……この依頼書、依頼主の名前がないじゃない」


 通常、依頼書にはその依頼主が書かれる。特に一等級冒険者は、依頼主との交渉や情報収集も自分の仕事の一端となる。つまり依頼主の名前がないという事は、それらの仕事が進まないという事を意味しており、遺物探しにおいては、そもそも遺物がどこにあるかの目星すらつかないのだ。


「……しまったぁ、金に目がくらんで、あたしとしたことが」


 石畳の街道のど真ん中で項垂れるクロス・リッパーの姿に、道行く民衆(特に若い女性)がひそひそと噂話を立てながら彼女を避けて通る。


 クロス・リッパーがクロス・リッパーである事はエリュ・トリの周知の事実である。だからこそ。そんな彼女に声をかける変わり者というのは、この街でもかなり稀な人物というわけだ。そして、そんな稀な人物というのは、案外すぐに見つかるものであった。




「スカー、おねえさん?」

「ん?」




 たどたどしい声がスカーの耳に入ってきて、スカーは立ち上がって後ろを振り向いた。そこには藍色のおかっぱとキラキラした髪の毛、そしてエメラルドグリーンの左目に天秤皿の透かしが入った小さな女の子が立っていた。


「あら、マリちゃん。久しぶりね」

「おひさしぶり、です。スカーお姉さん、こんなところで座り込んでどうしたの?」


 小さな少女の名前はマリ。本来は行き来が許されていないこの世界の一国から、人づてにこのエリュ・トリまで渡って来た、双子の占星術師の妹の方である。


「いやぁね……ちょっと冒険者のお仕事でつまずいちゃって、少しがっくりしているところなのよ」

「そうなんですね……冒険者はみなさんたいへんそう、ですね」


 外から来た人なりに、スカーの苦労を慮ろうとするマリに、スカーはこれ以上みっともない姿は見せられないと思い、自分の顔を軽くはつって立ち上がる。そしてマリに視線を戻したところで、少女の後ろに荷車があり、その上にはたくさんの食材や素材が積まれているのが見えた。


「なんだか大きな買い物ね。料理? それとも……なんかの儀式?」

「あっ、これは『くもつ』です。わたしたちのアルカナ『ジャスティス』を維持するための…アルカナのごはん? みたいなものです」


 マリと双子の兄、ミロは、このエリュ・トリでは知っている者すら少ない【アルカナ】という能力を使う。それはエナジーを人や物の姿に投影して、それらを使役する能力であり、マリとミロは、二人一組で使役することができる『正義ーNo.LXII』というアルカナを有している。ただしそれが、エリュ・トリを騒動に陥れた力であるのも、それほど古い話ではない。


「へぇ。アルカナの維持って言うのも大変ね。重そうだし、あたしが運ぶの手伝ってあげようか?」

「えっ、でも忙しいんじゃ……」

「まぁ忙しいんだけど、今はあなた達を助けるための時間だと思うから、手伝わせて」



 ゴロゴロという木製の車輪の音が街道に響いて、マリとスカーは、冒険者の為のハンティングポイントである【狩猟区】と呼ばれている森林の前までやって来た。狩猟区へ続く道の右側、石で囲われた闘技場がある施設。ここは冒険者用の訓練施設であり、マリとミロの仕事場かつ住居である。


「おっ、おかえりマリ……ってなんでクロス・リッパーが来てるのさ!!」

「やぁやぁミロ。どうやら聞かなくても元気そうだね、えらいえらい」


 荷車の車輪の音を聞いて出てきたのは、マリと同じ藍色髪のキラキラしたおかっぱの少年だった。マリとそっくりの顔をしており一目では見分けがつかない。数少ない違いと言えば『右目がエメラルドグリーンで、右目に天秤皿が描かれている』ことだ。


「ちがうのミロ! スカーお姉さんはお手伝いしてくれただけだから」

「そう、なのか? まぁマリが言うんなら信じるけど……」


 マリの説明でスカーを睨むミロ。スカー的にはここで去っても構わないと思ったが、マリの弁明で思っていた以上にこちらへの警戒が薄れた事で、スカーも安堵で胸を撫でおろした。


 そして、三人でマリの買ってきた荷物を施設の居住スペースに運んでいた時、ミロがスカーの顔を見て、無意識に彼女に質問した。


「クロス・リッパーの姉ちゃん。なんか困ってることあるのか?」

「へっ? あぁ、そうね。あるかと言われればあるかも」


 突然自分の考えを子どもに見透かされたことで、スカーはハッとして正直に答える。そしてすぐにミロは言葉を続けた。


「もしかして、どうしようもない困りごとなのか? ボクたちが占ってやってもいいぞ」


 ミロの少しだけ面倒臭そうな表情とその提案に、スカーは感心したような顔を見せていた。


 そう、二人はアルカナ使いでもあり、占星術師という存在でもある。マリとミロの国【占星都市タロキアム】は占星術で国が回っており、この二人もまた、そんな占星術については一人前とはいかずとも心得がある。紆余曲折を経てここに住むことになって以降、二人は占星術師として、たまに人々に占いのような啓示を与えている。


「そうねぇ……お代はいくらぐらいかしら?」

「どうせ大した悩みじゃないんだろ? マリのお礼もあるし、今日はタダでやってやるよ」


 ミロが小さな胸を張って宣言して、マリを含めた三人は、休憩中のバトルステージの端でスカーの相談を聞くこととなった。


「つまり、その依頼の依頼主が分からないと遺物を探すことができないから困ってるんだな」

「えぇ、その通りよ」


 スカーから話を聞いて二人は、首を傾げたり頷いたりして、その話を二人で咀嚼する。そして二人が納得の表情を浮かべた所で、ミロがその悩みの答えを出した。


「わかった。それじゃあジャスティスに聞いてみよう。どこまで分かるかは未知だけど、ボクたちが考えるよりもたくさんの情報を貰えると思う。じゃあマリ、呼び出そうか」

「わかった」


 そう言うと二人は手をつなぎ、周囲に青緑色の風が吹く。そして二人の瞳のうちエメラルドグリーンの方の瞳が輝き、透かしのようだった二人の天秤の模様が、はっきりと光を帯びた。


「久しぶりに見るわね。この風景と……あの天蓋」


 そういうとスカーは、訓練用ステージの上空、開けた空を見上げた。そこには夜もまだというのに星空のような光景が広がっており、まるでこの場所を夜に仕立てるような星空の天蓋が広がっていた。そして布がはためく様な夜空の揺れが始まって数分で、それらの光景は終わり、ミロとマリは一旦目を見合わせてからスカーに向かった。


「とりあえず、ジャスティスからの啓示はもらったよ。なんでも『紛争を辿れ。終着点は亡念ぼうねん』なんだって」


「紛争を辿れ。終着点は亡念……」


 ミロが告げた啓示をスカーは頭の中で繰り返す。これまでの経験から来る、その啓示にまつわる場所への推測が、スカーの頭の中に広がっていく。


「それと言っとくけど、普段はジャスティスの啓示をボクたちが説明するんだけど、今回はジャスティスから『直接伝えろ』って言われてるから、そのまま伝えたぞ」

「それって珍しいこと?」

「うん。ジャスティスはいつも、わたしたちに解釈をあずけてくれます。ジャスティスからこうやって言われるのは、とても珍しいですよ」


 マリとミロからのアドバイスも踏まえて、スカーはこれから探すべき場所をいくつか頭の中に思い浮かべた。そしてすぐに考えがまとまり、スカーは立ち上がって二人の占星術師にお礼を述べた。


「わかったわ。全部は分からないけれど、とりあえずその啓示とやらに関係のありそうなところを回ってみる事にするわね。それじゃ、いずれ訓練場で訓練をしようと思うから、その時は準備しといてね」

「スカーお姉さん、また来てくださいね」

「お前が来るとジャスティスの消耗が激しいから、たまーにでいいからな! じゃあな! クロス・リッパー!」


 スカーの丁寧なお礼に、ミロは複雑な顔をしてそんな言葉を返す。マリもまた手伝ってくれたお礼を伝えながら、訓練場を去って自分の目的地へ向かうスカーを見送った。

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