第4話 遺物捜索
脱線を繰り返しつつも、スカーが拾われて間もなくカゴ団長の独断で冒険者ギルドの名簿に名前を残されたことは五人の中にも残っていった。そして頬を膨らませてご機嫌ナナメになったスカーを差し置いて、シルヴィはエリオにも質問を向けた。
「それで、一つ上の先輩のエリオはどうだったのよ?」
「そう言う突っかかり方をしないでくれ。俺は未知の探求を求めてギルドに加入した。家は農村で、俺は氷結を使って作物倉庫の温度管理などを手伝わされてた。だがそう言った作業がない時にエリュ・トリでエナジーの知識にまつわる本を買って読んでから、知識の探求をしたいと思って加入したんだ」
「わぁ、凄い真っ当な動機」
「シルヴィは俺をなんだと思ってたんだ?」
シルヴィのわざとらしい驚きと心のこもっていない軽口に、エリオは眉をひそめて言葉を返す。
「そう言うシルヴィはレギーナと共に俺の一年あとに入ってきたんだったな」
「そうね。当時最年少の同期と一緒に、色々やって来たわね」
「そうですわね……同じ時期に登録したという事で共に三等級冒険者。そうなればチームを組んで依頼をこなすことも何度もありましたわ」
レギーナとシルヴィは、これまでに同じ時を過ごしてきた者同士でしみじみと冒険の記録を語り合う。まだ六年という短い時間がゆえに、それぞれが新鮮な思いで記憶を振り返り、古い記憶も朧気なジーンと、勝手に登録されていたスカーは、そんな二人をどこか羨ましそうに見ていた。
「まぁ、こうして五人でまとまる事が出来たのは、奇しくもあの三年前の紛争が理由だけどね」
そんなシルヴィの囁きに、四人は複雑な表情をした。レギーナ、エリオ、シルヴィにとって、その紛争は防衛で苦戦した記憶であり、ジーンとスカーにとっては、殲滅の一手を差して勝利を捻り取った戦いである。だがそんな反応を置いて、ジーンはシルヴィの言葉に優しい肯定を返した。
「そうだな。おかげさまで三人とも一等級に昇格したし、スカーとレギーナの剥きつ剥かれつの因縁のおかげで、こうして集まれるんだ。そう言う意味ではクロス・リッパーには感謝すべきか?」
「その感謝は余計なお世話よ」
へそを曲げるスカーに、一同は笑いをこらえきれなかった。そうしてつつじ屋での食事と小さな昔話は、スカーが支払ったお代で終わっていった。
「それとジーン! 剥きつ剥かれつとは言いましたが剥いたのがスカーで剥かれたのがわたくしなだけなんですけど?」
「細かいこと気にすんなって、可愛い顔が台無しだぜ?」
「この男はっ……!」
つつじ屋での食事からすぐ、スカーとシルヴィは冒険者ギルドに戻って来て、この後の時間でこなせそうな依頼がないかどうかを探すことにした。午後とは言えまだ昼下がり。このまま残りの時間を退屈に浪費するよりは、ひと仕事して少しでも懐を暖めたいと思うのは、ギルド冒険者の生存本能のようなものだ。
ジーン、レギーナは、いち早く依頼を受注して、それぞれの依頼先へ移動。エリオは休暇の続きを楽しむという事で自身の寝宿に戻り、スカーはギルドの依頼掲示板の前に立っていた。
「狩猟依頼は多いけど……どれも二等級から下、一等級用のものは、魅力にかけるわね」
顎に手を当てながら、依頼書が張られた掲示板を一望するスカー。
その一方で、シルヴィは掲示板の依頼を気の無い目線で追いかけていた。ぼんやりと、さながら紙の張られている掲示板そのものを眺めているような目線を走らせており、スカーはそんな彼女の様子を眺めてぽつりとつぶやいた。
「シルヴィは……そういえば休暇の予定だったわね」
「……え? あぁ、そうね。だから明日受けられそうなものがないかの下調べって事になるかしら」
少しぼんやりしすぎたのか、スカーへの返答が遅れるシルヴィ。そんな彼女ののんびりさに、スカーは羨望を向ける。
「いいなぁ休暇……さっきのつつじ屋、あのエビの辛みがバカにならないお値段だったから、ちょっと奮発しすぎたのよね。とりあえず火原鹿でも狩るか、でも……」
さっきの食事の奢りで思った以上に懐がさみしくなったスカーは、それを埋めるべく依頼書に目を走らせていた。そして、いくつかの依頼書を辿るうちに、スカーの視線は、ひとつの真新しい依頼にたどり着いた。
「おっ、紙が新しいって事は新規の依頼かしら……どれどれ」
――
紛争時代の遺物を探しています。二つの三角形のガラス細工が施されたペンダント、鋲が打たれた皮鎧、ツタのエングレーブが刃元に施されたサバイバルナイフ。いずれかの遺物の発見を求めます。
期限に制限なし 報酬80,000ミネル
――
スカーが手に取ったのは、遺物捜索の依頼だった。三度の紛争を経ているこのエリュ・トリでは、こういった遺物捜索の依頼は珍しくはない。だがその報酬額についてはスカーも驚きを隠せなかった。
「遺物探しで八万……随分と羽振りのいい依頼ね。普通なら5,000とかでも引き受け手はあるのに」
「相当な金額ね。火原鹿を一週間で25頭間引いた時の相場ぐらいかしら?」
シルヴィもスカーに顔を寄せて、その依頼内容を確認して、依頼の条件と報酬の破格さに興味深げな視線を送っていた。
「よしっ! じゃあこれを受けましょう! 今は奢りで消えた分を取り返すのが先決だし! シルヴィも参加してみる? よかったらバディで登録するけれど?」
スカーが振り返り、シルヴィの意思を確認するが、シルヴィは何処かぼんやりとした表情でスカーを見ており、スカーの目が合った瞬間に我に返って返事をした。
「……えっ!? あっ、バディ? ううん。私は今日はお休みだし、取り分が少なくなっちゃかわいそうだから」
「うっ……その心配は今の私には結構刺さるかも……おーけー。それじゃあこれはあたし一人で受注するわね。もし行き詰まったら、その時はシルヴィの知恵とツタ、貸してもらうからね」
シルヴィの返答も待たずに、スカーは持っていた依頼書を受付に渡して、すぐに出ていった。そしてシルヴィは、受注後すぐにギルドから出ていくスカーを見送って、三度ぼんやりとギルドの依頼書の掲示板を眺めていた。




