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クロス・リッパー ~ALVIS niredo int Eriu-Tori~(小説家になろう編集版)  作者: 海神書房
第3章「クロスリッパーと名もなき依頼」
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第3話 冒険の歴史、スカーの足跡

 エリュ・トリにおいて岩塩は重要な資源であるが、それと同時にこの国で農業をする者にとっては頭を抱える問題でもある。レギーナは塩商ヴェスパー家の令嬢として、当主が呟いていた塩による作物の被害の話を思い出す。


「塩の含有率が殊更に高い山に雨水や雪が打ち付けられる事で、山中の岩塩が溶けだして作られる水源……それが塩河と呼ばれるものですわ」


 エリュ・トリには特殊なロケーションがある。連峰の中でも異質な山肌を持ったもの。植生の無い、黒い岩の混じった白い山。例えるなら、それは山の姿をした。石づきのある水晶柱である。


「協同組合の言い分としては、ヴェスパー家とストラヴィス家はその塩河に悩まされている側でしたわ。塩河が農地に流入しないように慎重を期す必要がありましたので。けれどケーシェル姉さまの話では交易を担う部門が興味を持ったとか……」

「つまり、塩河はもしかしたらただの厄介者じゃなく、新しい食材の可能性って訳だ」


 塩を相手にする上でトレードオフだと思っていた塩河への意外な活路、ジーンのまとめた意見に対して、レギーナはそれまであまり見せなかった『商家の娘』としての爛々とした瞳で、降ってわいた塩河の使い道に強い興味を持っていた。一方で、今回は珍しくスカーやジーンが彼女の打算にたじたじになり、これまでの関係性からはあまり見られない、人間臭いレギーナの姿を見たような気分で四人の仲間たちは顔を見合わせた。



 予想外の食事に満足げな笑みを浮かべる一同。そして食後のお茶と共に、ようやく冒険者然としたレギーナからある昔話が持ちかけられた。


「しかし、スカーの悪癖はさておいて、この五人もずいぶん長く冒険を共にしていますわね」


 この中では最も若い19歳のレギーナからそんな話が出てきた事で、一同は軽い笑いを浮かべる。


「長く……とは言っても、私とレギーナは登録では同期、エリオはその一年前で、スカーとジーンは、はるか上の先輩ね」

「わ、わかっていますわ! それでも、わたくしにとっては加入から六年というのは長く感じましたのっ!」


 顔を赤らめてそんなことを語るレギーナに、エリオも同意を示す。


「分かる気はするな。もう七年がたったのかと思う反面、ジーンやスカーを見ていると、まだまだだと感じてしまう」


 スカーもジーンも、そんな冒険者としての遍歴について話すエリオに強い反応は示さなかった。


 それというのも、この二人にとっては遍歴や年数などは気にするべきものではないので、そう言った物差しで話をすること自体が珍しい事だったからだ。そして、懐かしむ側に当たるシルヴィは、そんな呑気な二人に話しかける。


「ねえ、ジーンとスカーの遍歴って、私全然聞いたことないんだけれど、どんな感じだったの?」

「えぇ? シルヴィなんだか積極的ね、あたしに惚れたの?」

「あはは、そんなわけないじゃない。それでどうなのよ?」


 綺麗な笑顔で全否定したシルヴィに、渋い顔を見せるスカー。そしてそんなスカーを置いてジーンから話を始めた。


「そうだな……俺はカゴが団長になった頃は知ってるな。確か……二十歳ぐらいだったはずだ。第二次紛争の後釜で団長になったカゴから『冒険者に登録してくれないか』って打診があったんだ。昔の冒険者ギルドってのは、依頼を受けたり出したりするだけで、そこに出入りするやつらの管理みたいな今の仕事はカゴが何年もかけて組み立ててきた制度だったな」

「ふぅん……それなら当時は等級とかも?」

「あぁ、なかったぜ。俺が入ってから少ししてたから……今から15年前ぐらいじゃねえのか?」


 長い冒険者生活の記憶を辿るのは中々難儀なのか、ジーンも「ぐらい」という言葉で自分の頭を整理しながら話を進める。そしてジーンの遍歴を聞いたうえでシルヴィはスカーに尋ねた。


「それで、その次がスカーよね。スカーはカゴ団長に拾われたんだっけ?」

「そう、十歳の時に拾ったって聞かされてる。それで団長が言葉通りの鉄拳で戦闘技術の訓練をして、ダガーの二刀流の扱いを極めて、今では立派なクロス・リッパー……なんだけど、実は冒険者としての登録、あたしがやったんじゃないのよね」


 スカーからの話に、ジーンを除いた三人が意外そうな反応をする。


「そうなの?」

「そう。冒険者のお付きで町の見回りの初仕事をしてから……半年ぐらいかしら、その時に厳格な顔で『お前に冒険者ギルドへの加入を命じる』って言われて……あたしが今の名前スカー・トレット・フレスヴェルグになったのもその時だったけど、それがあたしの冒険者生活の始まりね」

「つまり、育ての親で名づけの親で、そしてスカーをここに押し込んだ立役者という事ですわね」


 流れるようなレギーナの言葉に、スカーは一瞬首を傾げたが、それ以上に自分が話したいことがあるからなのか、コップに入った水を飲み干して、スカーは自分語りを続けた。


「そう。それで、どうにもギルドに入ってからあたしの名前が知られるなって思って、ある時カゴに尋ねたの『どうしてあたしを冒険者ギルドに引き入れたのか? 住人として生きるにしてはあたしの名前が色んなところに知られ過ぎてる』って」


 スカーはそこまで言うと、それまで平常だった顔をしかめて、顔を見れば誰の目にも分かる程の不満顔を見せて四人にまくしたてた。


「そしたらなんて言ったか分かる? ……団長ってば、あたしが頻繁にエリュ・トリの女の子たちを剥くようになったから『お前の服を剥ぐ癖が深刻化してきたから、冒険者ギルドで監視できるようにお前の名前を登録した』ですって! おかげさまで今日の今日まであたしは処罰牢とオトモダチなわけ! それからずっと冒険者ギルドがあたしのお目付け役なわけ! だからあたしが人を脱がすと必ずギルドが捕まえに来るわけ! いくら育ての親でもやっていい事とわるい事があると思わない! ねえっ!?」


「思いませんわ」

「思わないわね」

「思わないな」

「お前に限っちゃそれが大正解だよクロス・リッパー」


「言うと思った! みんなが頷いてたから言うと思った!」

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