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クロス・リッパー ~ALVIS niredo int Eriu-Tori~(小説家になろう編集版)  作者: 海神書房
第3章「クロスリッパーと名もなき依頼」
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第2話 つつじ屋で舌鼓

「そういえばさ。みんなはこの後依頼を受けるのかしら?」


 ギルドを後にした道すがら、スカーは前に踏み出してからクルリと振り返って仲間に尋ねた。昼を少し超えた明の時0時半、スカーのひと騒動が無ければもっと早く昼食にありつけただろう時間である。


「いや? 俺はこの後は何もねえぜ」

「わたくしも、午前中で依頼は完了しましたわ」

「俺は今日は依頼の休暇日だ」

「私も休暇よ。最近は調査依頼が少なくてね」


 ちょうどいいタイミングで四人が暇になっているという事を聞いたスカーは目を輝かせて、四人の前に立って、手を広げて提案をする。


「それならさ。最近あたしが行ってる食事処に一緒に行きましょうよ! もちろんエリュ・トリの中だし、今回もあたしの奢りで!」


 そんなスカーの気前のいい提案に、四人は断る理由もなかった。そして全員が賛成したのを見たスカーは、繁華街とは別の、北西に伸びる街道へと四人を案内していく。




 民家が並ぶ区域の中にある。小ぢんまりとした食事処。


 【つつじ屋】と書かれた看板がぶら下がるそこを見つけると、スカーは迷いなく入って行って、中にいた白い料理着に身を包んだ男に話しかけた。


「おっちゃん、五人座れる?」

「おうスカーか、ずいぶん連れてきてくれたな。椅子増やすからちょっと待っててくれ!」


 カウンターテーブルの向こうで料理の準備をしていた男が回り込んできて、二つあるテーブルの一つに、背もたれの付いた椅子を五つ用意した。他の客はおらず、五人が来るまでの間で料理を作る音が流れている雰囲気はなかった。


「スカー、ここって……?」

「あぁ、三か月くらい前にあの双子ちゃんのアルカナ騒動があったでしょう? その時にこのお店の前でアルカナと戦ってて、あたしその場所で眠りこけちゃって……」


 てへへ。と笑いながら話すスカーに、調理場で料理の準備をしていた男が話を続ける。


「オレがこの子を起こして店の中に避難させたんだ。そん時に急場で飯を作って食わせてからの縁なんだよ。な!」

「ねっ!」


 店主の男のサムアップに、スカーもまた親指を立てて返す。二人の息の合い方から見て、おそらくこの二か月で何度も通っているのだろうと察した四人は、それぞれの納得を示すような表情を見せつつ、テーブルの上に並んだメニューを眺める。


「それにしても、石炉亭では聞かない料理が多いな。塩スープの小麦麺、サザン卵のホーハン?」

「鳥の塩揚げはよく屋台で出回ってるぜ。酒のおともに丁度いいんだよな」

「スカー? 半分ぐらいが想像の付かないメニューなのですけれど?」


 ジーンはともかく、シルヴィ、レギーナ、エリオはメニューに書かれている品々の独特な名前に苦戦して、何を頼むかを考えあぐねていた。


 ホーハン、小麦麺、イノシシ肉の甘酢炒め、そしてエビの辛み。普段から石炉亭のステーキやパスタと言った料理に慣れ親しんでいる四人にとっては、得体のしれないメニューでしかなかった。


「うーん……じゃあ個人で頼むよりも皆で分けられるものにしましょうか。おっちゃん! 鳥の塩揚げ、エビの辛み、あと……クレモナレタスのチャーハンを五人前で!」

「はいよ! ちょっと待っててくれ!」



 スカーが口にした得体のしれない料理名に、困惑や期待の表情を浮かべていた四人。


 ジュウジュウという何かが焼ける音、パチパチという油の跳ねる音が聞こえてくると、その音に合わさるかのように、普段は感じる事のない複雑な香りが全員の嗅覚をくすぐった。


「いいねえ、この鶏肉が油をくぐった時の匂い……昼じゃなきゃクラフトビアの一本でも開けたい気分だぜ」

「この、甘さと辛さが混じったような香りに、何だろう、肉とは違う不思議な香ばしさ……」

「何もわからないのにこれほど食欲が沸く香りというのも、珍しいな」

「メニューの正体は分かりかねますが、これからこの香りの正体が食べられると思うとワクワクいたしますわね」


 石炉亭では経験しない音と香りに期待を寄せて、十分ほど待った時、店主が五人のいるテーブルの前に大皿に乗った料理を三品用意した。


「はいよお待ち! サザン鳥の塩揚げ、塩河えんがエビの辛み、それとクレモナレタス入りのチャーハンだ! 大皿で作ったから取り分けて食べてくれ!」


 鶏肉に衣をつけて、油で揚げた所に岩塩を振りかけた塩揚げ。黄緑色のレタスが程よいしっとり感でライスと絡みあったご飯もの、そしてエリュ・トリでは見ない『塩河エビ』という食材を、赤いソースで和えた料理。未知の料理たちの見た目と、そこから溢れ出す香りに、全員がのどを鳴らした。


「じゃあ小皿でそれぞれ取り分けて食べるとしましょうか。はい、シルヴィ」

「あ、ええ。レギーナにエリオも」

「おっしゃ、そんじゃ俺は塩揚げを一つもらおうじゃねえか」


 それぞれの前に2枚の小皿が置かれて、各々が食べたい料理を少しずつ取る。そして、スプーンで恐る恐る口に運び、その味を試した。


「……っ! か、辛いっ……でも、なんですの、この不思議な味!」

「肉とも、キノコとも違う……新しい味がする、それにこの赤いソースも辛いと思ってもすぐに甘さがやってきて、食べる手が止まらなくなりそう」

「すごいな、レタスをサラダ以外で食べる事が無かったが、この組み合わせは……」

「っかぁ! いいねえこの鶏肉の塩加減。濃すぎるけど最っ高にうまい!」


「はっはっは! さすが冒険者はいい食べっぷりだ。他の料理が食べたきゃ言ってくれよ!」


 未知の料理を食べ進める四人は、皿と食器がかち合う音を鳴らして、次々と大皿の料理を取り分けていき、一皿五人前のつもりで作っていたはずの料理は、あっという間に空の皿となった。


「最初はどうなるかと思ったけど、満足してくれたみたいでよかった」


 スカーは残っていた塩河エビをつまみながら、満足げな四人の表情に純粋な笑顔を見せた。そしてジーンから水の入ったコップを渡されて、彼と顔を合わせる。


「お前が新しいメシを見つけてくるなんざ思っても見なかったぜ。それに見覚えのない食材もな、なんて言ったか? エビ?」


「あぁ、塩河エビの事ね。塩山の山麓に流れる塩水の河があるじゃない? それがたまる池みたいな場所で育ってる……さかなだっけ? その一つなんだって、ねぇおっちゃん?」

「そうだ。ここらは魚介が取れないし取らないって聞いてたから、オレが知ってる山間の塩河に言って獲ってきたんだ。そしたら、だーれも手を付けてねえから育ちがよくてな、エビが取り放題だったよ」


「塩河……そういえば、以前お姉さまが組合名義で出した依頼にそんな話がありましたわね。お父様からもちょくちょくお話を聞いたことがありますわ」


 シルヴィの店主の会話に、塩商家の令嬢であるレギーナがにわかに反応する。

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