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クロス・リッパー ~ALVIS niredo int Eriu-Tori~(小説家になろう編集版)  作者: 海神書房
第3章「クロスリッパーと名もなき依頼」
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第1話 話はまず剥いてから




「こっ、こらーっ!! クロス・リッパーっ!!!」




 エリュ・トリの町角で、冒険者の女が恥ずかしさに声を上げた。その冒険者のすぐ側ではレザープレート、白のシャツ、スカート、具足、靴下……おおよそ人間が装備する下着以外の全てを丁寧に畳んだ状態で持って、大満足の表情を浮かべている赤髪の冒険者がいた。


「へへへ、やっぱりレギーナは反応がよくて、つい何回も剥ぎ取りたくなるのよね」


クロス・リッパーだ……


クロス・リッパーにやられた


可哀想に……


『クロス・リッパー』スカー・トレット・フレスヴェルグ。彼女の悪癖は、自分が可愛いと思った女の子の身ぐるみを剥ぐ事。そして、今日の被害者となった冒険者、レギーナ・コルセット・ヴェスパーも、スカーの言う通り今回が一回や二回の被害ではない。そして、スカーとレギーナのやり取りを見ていたガンマン風の男がスカーに声を掛ける。


「おいスカー。そう何回も剥いてるとそのうちレギーナからしっぺ返し食らわされるぞ」

「それで上等。むしろ、そのくらい強くなってくれないと」

「そう言うつもりで言ったんじゃねえんだが……」


 スカーを諌めようとした相棒、ジーン・デニー・ムスタング。彼の言葉にも、スカーは動じない。そして、満足感を味わったスカーはスタスタとレギーナの元に歩み寄り、自分が奪った衣服と装備を、身体を腕で隠していたレギーナに返した。


「はい、どうぞ」



 

「……っ!!」




スパァァァン!!


 服を返されたレギーナは、自分の服を奪い取るより先に右の拳をスカーに向けて打ち上げた。清々しい音が周囲に響くがしかし、スカーはレギーナの拳を受け流して宙を舞い、逆さまになりながらニカッと満面の笑みを見せた。


「ははっ、いいスマッシュじゃないの。でもヒットしないんじゃあ意味はないけどねー」

「あぁっ、もうっ!」


 レギーナのアッパーを両手で受けて、その力で身体を浮かせてダメージを相殺する。スカーはその類まれな反射神経と身体能力で、レギーナの拳を凌駕する素早い身のこなしによって、飄々と攻撃をいなした。




 石の町、エリュ・トリ。石と岩塩によって支えられるこの小国は、侵略を重ねる隣国スィンツーとの戦いを生き延びて、今日も日常を謳歌していた。


 今は昼。スカー、レギーナ、ジーンはそれぞれがこなしてきた冒険者依頼の報告のために、冒険者ギルド前で鉢合わせていた。先ほどのレギーナの事件は、そんな中で起きたものである。


「まったく! 毎度、人を見るなり脱がせるなと言っているでしょうに、だから処罰牢が実家だなんて言われるうえに、団長の頭痛が絶えませんのよ」


 報酬を受け取って、ギルドのロビーで話し合う三人。ようやく自分の身だしなみを整え終わったレギーナは、ダンッ! とテーブルを叩いてスカーに文句を並べ立てた。だが、そんな文句がスカーの反省を促すはずもなく、呆れるジーンを隣にして、スカーは弁明をする。


「そんなこと言っても……ほら、今日ってあたしが前に捕まってから4日目でしょ?」

「……そう、ですわね」

「あたしって、4日ペースで人の服を脱がして捕まるでしょう?」

「……そう、でしたわね」

「それで、今さっきあたし達は冒険者ギルドの前で出会った」

「……はい」


 スカーが熱心に言葉を並べて、レギーナはどういう反応をしていいか分からない顔でスカーの言い訳を聞く。そして、ここまでの会話を繰り広げた上で、スカーは前置きなく手を開いて、力強い表情で一言。




「……ほらね!」




「ほらね! じゃありませんわよ! 今の会話で、なに説明した気になっていますの! それだけで『牢から出て4日目も経ったわけだし、ちょうどレギーナがいるから剥いておこう』なんて事情が判るわけがないでしょう!」

「わかってんじゃねぇか」


 3人の会話を周囲の冒険者たちがあきれ半分で聞いている中、それを遠巻きに眺めていた二人の男女がそれぞれの反応を示していた。


「ふふっ、相変わらずね二人とも。何も変わってないから安心するわ」

「だが、レギーナの言い分は大いに賛成だな。もう少し自重は必要だと思うが?」


 シルヴィ・レース・シャウラ

 エリオ・ヴェール・カフス


 同い年程度の二人の冒険者もまた。スカーたちと行動を共にする冒険者のメンバーだ。そして、シルヴィもまたレギーナ同様に幾度となくスカーの悪癖の被害を度々受けている事を手に取って、レギーナはシルヴィに援護射撃を求める。


「シルヴィからも何か言ってあげなさい! 一度痛い目を見ないと分からないのですから」

「といってもねぇ……この中じゃ一番俊敏なレギーナでも捕まえられないんでしょう? 私は隠れるのが専門だから無理ね」


 開き直ったかのように言ったシルヴィに、レギーナは頭を抱えて小さな絶望を感じた。もう、このエリュ・トリに彼女をどうにかする手段はないかもしれない、と。


「まあでも、お前石炉亭では大人しくマグリットに捕まってるよな」


 エリオとシルヴィがギルド受付に歩き出して、依頼の相談をしている最中に、ジーンからそんな質問が飛ぶ。冒険者の台所【石炉亭】剛腕の女店主が名物のその店では、スカーは度々従業員の女の子をひん剥いてはその女店主であるマグリットに叩き出されている。


「ええ? だってマグリット姐さんよ? 石炉亭でやらかして逃げでもしたら、たとえ塩山の山頂に登ってたって追いかけてくるわよ」


あぁ……


 四人はそんな声が聞こえてきそうなほど無機質な表情でスカーの言い分に納得した。そして、それからは静々と、それぞれの依頼完了報告を済ませて、5人でギルドを後にした。

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