第47話 2対2
人のいない国境地帯。これまでの道のりで道を行き交う人間の姿など一度も見てはいない。だが今のシルヴィとザムトにはそんなものは見えていない。ただまっすぐに見据えるのは、国境の荒野に立つ二人の影だった。
二振りの剣を携えた、赤髪の軽装戦士。
テンガロンハットをかぶって、こちらに静かな敵意を向ける銃使い。
「剣を持っている方が、おそらくスカーよ」
「なら、あの帽子の男がジーンだね」
戦う準備をしてきたとはいえ、二人が立っている雰囲気は普通ではない。これまでレギーナ、エリオの時とは違う、一つ間違えればその時点で敗北してしまうような緊張感が、何度も戦ってきたこの場所に満ちていた。
「じゃあ、やろうか」
「……ええ」
進んでいく二人、一方でスカーとジーンはそんな二人を静かに見守り、向こうがどんな攻撃をするかを様子見するように、ザムトとシルヴィの接近を許す。そして二人はジーンの前にやってきて、無言でこちらを睨むジーン相手に、先手を仕掛けた。
「……ふっ!」
ザムトが足元を踏み鳴らすと、四角い石柱がジーンの腹部を狙う。だがすぐにジーンは飛び上がり、生えてきた石柱の上に座り込む。
もちろん避けるだろうと想定していたザムトは、シルヴィ共々すぐにその場所を離れる。そしてジーンが乗っていた石柱は瞬間的に爆発して、無数の石つぶてとなって四散した。その様子にジーンも驚きつつ、その石つぶてを身に受けてダメージを軽減させる。だが、それでもザムトの攻撃は止まらない。
「はぁっ!」
ザムトが一声気合を入れると、ジーンの歩く先を狙うように下から石柱が真上向きに生えてくる。ジーンはその石柱の隆起をかわしながら、ザムトとシルヴィのラインまで近づけないかと模索する。その間にジーンも、こちらへの反撃の準備をしていた。
「シルヴィ! 装填し始めた!」
「わかったわ!」
ザムトがジーンの挙動をシルヴィに報告すると、シルヴィはすぐに自分の土のエナジーを利用して、その装填を止めに入る。
向こうで自分のガンナイフに球を装填している時、瞬く間に地面を割って出てきたツタが銃の中にからまり、ジーンのガンナイフを無効化する。それはシルヴィが知っていたジーンに対する知識から予想した戦略だった。植物がからまった銃は発射することが出来ないと踏んだジーンは、もう一丁の銃を取り出して再び弾薬を装填する。
「させないっ!」
その様子に、再びシルヴィがツタを絡ませようとする。だがその時、ジーンめがけて地面から這い出したツタを、風のようなものが横切り、それらのツタは散り散りに刻まれた。
「なっ……!?」
何も見えずに細切れにされていくツタ。だが、その驚きと正体に、シルヴィは経験があった。
「…………」
ツタを切り裂いた鈍色の刃が、ジーンの左側にキラリと光った。スカーの援護。音の速さ並みに自分たちの右側から左側まで抜けていき、僅かに光る青緑の風を散らしながら、シルヴィの攻撃をいともたやすくいなしてしまう。記憶に合った通りの戦闘力を見せつけられて、シルヴィは震えと共に、その戦いの隙を窺っていた。
「…………」
シルヴィのツタを切り刻んだスカーは、そこから特に動くことはなく、そうこうしている間にジーンの方は一丁の銃へ装弾を完了させていた。
「シルヴィ! 来るぞっ!」
「えぇっ! 予定通りにっ!」
そう言って二人は別々の方向に逃げていく。ジーンの持っている銃の性質をシルヴィは知っている。
一度に発射できるのは六発、そして火のエナジーで作られた弾丸は、ジーンの操作によりこちらを追尾してくる。射程はかなり広く、相当な距離を保たないとジーンの操作の範囲を外れない。だが……
ドンッ! ドンッ!
二発の銃声。そして「シュー……」という火花が走る時のような音と共に、シルヴィの後ろには物凄い速度の弾丸が迫る。すぐに追いつかれる、そんな予感がしたところで、シルヴィはグッと足元に力を入れて、90度角度を変えて『先ほどザムトが立てた石柱』の影に飛び込んだ。
ズド……ン!
弾丸は石柱を貫いて砕いたが、シルヴィはしゃがんだ状態でそれを回避。そう、ジーンの攻撃に対応する手段。それは、銃撃や弓矢による射撃戦で基本になる遮蔽物だった。
荒涼たる平野で、何もなく遠距離攻撃をかわすのは無謀も無謀。だからこそ、二人はこの作戦に打って出たのだ。
――
「エナジーでコントロールが出来る遠距離で攻撃するのなら、脚力や回避で乗り切るのは難しいだろうね。だけど、俺たちは土のエナジー使いだ。長距離攻撃に対する対応はよくわかってるはずだろう?」
――
作戦会議で、ザムトが発したセリフ、そして最初の攻撃を仕掛けたザムトの『真上方向に生えてきた石柱』それらが、ザムトの計画した遮蔽物の答えだった。
「シルヴィ、常に遮蔽物を立てながら近づくんだ。そうすれ……うおっ!?」
離れた場所にいたシルヴィにザムトから指示が入るが、そんな彼が隠れている石柱が、一つ、また一つとジーンの銃撃によって破壊されていく。だがザムトもシルヴィも土エナジーの使い手。なくなった石柱は補充して、ジーンの破壊よりも早く遮蔽物を作り出す。そうすることで防御を維持したまま、二人でジーンに肉薄することが出来る。
ただ、シルヴィにもザムトにも懸念はある。それは、先ほどシルヴィのツタをほんの数秒で細切れにしたスカーの存在である。あの一撃からここまで一切動きを見せなかったスカーが、どのタイミングで動き出すか分からない。目で追えない速度の敵が、どんなタイミングで来るのか分からない状況は、途方もないリスクである。
「…………」
シルヴィは、自分を守る石柱の遮蔽物の生成、ジーンの弾丸の回避、そしてスカーの動向と複数の事に目を向けて、どうにかジーン一人となら戦える状態を維持し続けた。
「うおぉっ!!」
そして、シルヴィがザムトの作戦に乗って戦況を進めていた時、そのザムトがジーンとの距離を詰める。刃渡りの長いダガーで襲い掛かり、ジーンのガンナイフと鍔迫り合いになる「ガキィン!」という音がシルヴィの耳にも聞こえてきた。
ジーンは一丁のガンナイフでザムトの攻撃と対峙する。遮蔽物から距離を詰めたザムトはジーンの腹部を狙ってダガーをまっすぐ突き立てる、それに気づいたジーンはガンナイフのブレードでそれを止めるも、体重の乗ったザムトの攻撃によりブレードが逸らされて、ダガーの射程外まで距離を取らざるを得なかった。
その間にリボルバーの弾薬を火エナジーで作って装填しようとするが、その動作に気付いたザムトはポケットから一つの砂袋を取り出して、自分のダガーで傷をつけながらジーンに投げつける。砂埃をまき散らしながらジーンの元にやってくる袋に気が付いたジーンは、その理由にすぐに気づき、弾薬の装填もままならないままに逃げの一手を取る。ザムトは用意していた、装填銃の弱点、異物が入る事での動作不良を引き起こす手段を。
「へへっ、手数ならエリュ・トリの誰にも負けねえんだ! お得意の銃を両方とも封じる事が出来れば、たとえ強くても勝機は……」
「っ……」
そう言って有利を確信したザムトは、その攻撃の手の最中に、ジーンの不敵な笑みを見た。
ザッ!
ジーンのそれが笑いだと気付いたザムトは攻撃を止め、その場で足を止めた。そして、その判断が正しかったかのように、ジーンの身体を中心として、爆発的な炎の波が広がり、それまで防御の要としていたシルヴィとザムトの遮蔽物は、その炎波一つでガラガラと崩れ去っていった。
半径25メートル、いやそれ以上の距離を炎が飲み込み、ジーンの周辺は土が燃える異様な光景に包まれた。以上に気付いて素早く距離を取ったザムトにも、炎波の熱に気付いて安全距離まで下がったシルヴィにも、その状況が圧倒的不利に転じたことは一目でわかった。そして、周囲にくすぶる炎の中からジーンが現れて、彼は天高く一丁の銃を掲げた。




