第44話 変わらない結末
カッ………!
シルヴィとヴェルールのすぐ側で、強烈な閃光が弾ける。土の壁を盾にして、その閃光から目を守ったシルヴィとヴェルール。そして状況が読み取れないその中で、ザムトの「うわぁっっ!!」という叫びと、その直後の爆発のような轟音だけが耳に届く。そして僅か数秒で閃光は収まり、シルヴィとヴェルールが土の壁のすき間から外の様子を確認しようとする。
その時、土ぼこりを被ったザムトが一点を見つめている様子を見て、シルヴィたちもそこに視線を向けた。
「あ……あぁっ……!」
ザムトが見ていたのは、すぐ目の前で氷の剣を突き立てていた流浪者、そしてその切っ先は、ザムトをかばって前に出ていたラーゾの肩を貫いていた。
「ラーゾぉぉっ!!」
氷の刃から、結露水とラーゾの血が滴る様子を見たヴェルールが叫び、その光景に放心しかけていたシルヴィが、すぐにその流浪者に攻撃の手を向けた。
「ラーゾは殺させないっっ!! あいつを食いちらかせっ!」
シルヴィが叫ぶと、荒野の土がうねり、人の身の丈よりも大きな口と牙が現れる。口と牙を皮切りにそのうねりは大蛇のような姿に変性して、ラーゾを襲った流浪者に向かっていった。流浪者は剣を離してその大蛇のうねりを回避するように四人と距離を取る。さすがにこの状況に氷結空間を維持することはできず、空間が解除され、周囲の温度が正常に戻り、視界を奪っていた霧も晴れる。
「ラーゾっ!!しっかりしてっ!」
「おいっ!ラーゾっ!」
シルヴィが土の大蛇を操作している最中に、ヴェルールとザムトがラーゾの容態を確認する。ザムトはすぐに止血処理を施して、ラーゾの肩の出血を止める応急処置を行う。
「ぐ……ぐぅ……」
剣に貫かれていたラーゾは、痛みに悶えつつも一命を取りとめ、応急処置によって止血をすることが出来た。そして、どうにか助けることが出来た事にザムトが安心し、シルヴィはその流浪者の動きの隙を伺って、一気に敵を仕留めにかかる。
「そこだっ!!」
バグンッ!!
土と土がぶつかり合う轟音と共に、流浪者の身体は土の大蛇の口と牙にかみ砕かれ、流浪者を食ったそれは土を掘り返しながら自らも土へと戻っていった。
「はぁ……はぁ……」
今までに操作した事のなかったその物体に、土エナジーを過剰に持っていかれて、息を切らして流浪者が出てこないかを確認するシルヴィ。静寂を確認したら、今度はすぐにラーゾの元に振り返って彼の身体に泣きついた。
「ラーゾっっ!!」
「シルヴィ落ち着いて、息はある。肩を刺されただけだ」
「でもっ……でもぉっ……!!」
シルヴィは、ラーゾの痛々しい姿にツイードを重ねて見てしまい気が動転する。だがそんなシルヴィの身体を、ザムトが優しく抱きしめて感情をなだめる。
「落ち着くんだシルヴィ、ラーゾは生きている。まだ大丈夫だ。だから落ち着け……落ち着いてくれ……」
「ラーゾ……ザムトぉ……」
必死の説得でどうにか心が落ち着いたシルヴィは、ザムトの手から離れて、落ち着いて息を整える。まだ気持ちに陰りは抜けていない。しかし、ラーゾはどうにか生きている。それを自分に言い聞かせて、シルヴィはザムトに声をかけた。
「ザムト、すぐにラーゾを病院へ運びましょう」
「あぁ、わかった。ラーゾを担ぐのは俺に任せてくれ」
そう言うと、シルヴィとヴェルールでラーゾを抱え上げ、ザムトが背負って身体をその場から運び出す。10分もした頃に、エリュ・トリの病院に四人が駆け込んで、そこからすぐにラーゾは治療と手術に回される事となった。
手術が終わり、夜の病室。ラーゾは暖かな風が吹いてくる感触で目を覚まして、知らない天井を見上げた。
「……ここは」
そんな声が聞こえてきたのに気づいた人間が一人、ラーゾの様子を心配そうにのぞき込んだ。
「ラーゾッ!」
「シルヴィ……か?」
シルヴィの声を聞いて、自分が病室でベッドに横たわっている事にようやく気が付いたラーゾ。そして目を覚ましたラーゾの手を取り、シルヴィは静かに涙を流した。
「よかった……剣がラーゾを貫いた時、また殺されたと……思った……」
「はぁ……ワシも一瞬悟ったがな、どうやらもう少し生きていてもいいのかもしれん」
「うん……うん……生きてて、もっと生きててよ……」
ラーゾはシルヴィの懇願を聞いて「あまり無茶は言わんでくれ」と笑って、泣いて自分の手を握りしめるシルヴィの手を優しく握り返した。火炉の薄明りの中、自分の行動がラーゾを助けられた事を心に言い聞かせて、シルヴィは自分の置かれている事態に対してわずかな希望を見出した。
「ラーゾ、私、みんなを呼んでくる。早くみんなに知らせたいから」
「まあ慌てなさんな。ワシは逃げたりせんから急ぐ必要はないよ」
「……うん、わかった」
そんな短い会話の後、ラーゾは少し考えて、シルヴィに近くに来るよう伝える。
「シルヴィ」
「なに?」
「いいかシルヴィ……」
――これは私たちにとって最良の結末だ。よく聴きなさい。君は……
「えっ、いま何を……?」
ラーゾが近くで諭した言葉。シルヴィは、目の前でラーゾの手を握りなおして聞いていたはずなのに、その言葉の要所を認知することが出来なかった。そんな状態に呆けていると、ラーゾがそんなシルヴィを心配する。
「シルヴィ、疲れておるのかい?」
「い、いえ……」
シルヴィの様子を見て、ラーゾはゆっくりとシルヴィの手を離す。
「シルヴィ、お前も疲れただろう。水でも飲んできなさい」
「……えぇ、ありがとう、ラーゾ」
ラーゾに促され、シルヴィは小さな椅子を立って、病室のドアに手をかけて、外で水を飲もうとドアを開いた。
そして、ドアの向こうからラーゾへ振り返った時。
そのラーゾの寝ている胸に、ナイフを突き立てる黒い影があった。
「…………あ」
ラーゾの左胸に、音もなく入り込む切っ先。
光景に身体が動かず、無情に閉じていく病室の扉。
そして状況を認知して、ドアを押し開けたその時には。
ラーゾの胸は、血だまりに滲んでいた。
「……ラー、ゾ?」
ラーゾ?
ラーゾっ!!
ラーゾぉっ!!




