第40話 弔い
「……弔いは、必要という事か」
ラーゾの低い声、夫婦として彼を見守り続けたヴェルールは、ラーゾのその言葉がどういう意味を持つのかをすぐに理解した。
「ラーゾ……あんた、やるつもりだね」
「ウソだろ? ラーゾ? ツイードだってあんなになってるってのに! これでラーゾまで死んだら、ヴェルールはどうなるんだよっ!! シルヴィはっ……!!」
ガタッ……
ザムトが叫んだ直後、家の玄関が音を立てる。三人がそちらを向くと、そこには顔を歪めて様子を窺っていたシルヴィの姿があった。
「あ……」
「シルヴィ……大丈夫、なのか?」
一歩、後ずさりをしたシルヴィにザムトが声をかける。だが、シルヴィはラーゾの話を聞き、ザムトの反論を聞いていた。全員気が付いている。彼女にとってラーゾの決意とは、死ぬ可能性のある戦いに挑むことと同じである。
だがシルヴィには、それを恐怖するような元気は残ってはいなかった。やがてシルヴィは玄関前に座り込み、力なく腕を落とした。すぐにザムトが駆け寄り、シルヴィを抱えて家の中に入り、人形のように押し黙る彼女をダイニングの椅子に座らせた。
「……シルヴィをこんな状態にさせてもまだ、ラーゾは行くつもりなのか」
質問ではなく詰問。ザムトの口調はそれほどまでに厳しいものだった。一方でヴェルールは、ザムトとラーゾの議論を聞いて、ラーゾの意見に半ば賛同するかのように話を勧めた。
「もちろん、ラーゾひとりで行くって言うのは隙が多くなりすぎるでしょうね。ツイードも死角を突かれた訳だし。けどそれなら、残された私たちがその流浪者たちを一対多の戦闘で倒していく事で、その問題をカバーできるかもしれない」
「だが……相手は暗殺のような技を使う。そんな相手に多人数が有利になるとは思えない」
「暗殺はシルヴィが倒したレギーナって言う女が使っていた戦法よ。それにあの戦闘は闇に紛れやすい夜に行われている。なら、その逆を行けば私たちにも有利な部分は生まれるはずよ。弔い合戦だからって、安直に攻め倒すのは愚策ね」
ヴェルールは、気丈に振る舞いつつも流浪者たちへの対策の議論を進める。その根底はツイードが殺されたレギーナという流浪者の戦い方を軸にした戦略。仮に奇襲を得意とする集団相手なら、奇襲の確率が下がる状況を作る事で戦況を有利に進める事が出来るとヴェルールは踏んだのだ。
「ヴェルールの意見は分かった。そして夫であるラーゾはどうなんだい?」
「そうだな……ヴェルールの意見には賛成だよ。ワシだってみすみす死にに行くわけじゃない。万全で行く必要がある事は重々承知しているさ」
ラーゾはそう言って、これまでの低いトーンを抑えて、少し穏やかな声で議論を重ねた。そしてラーゾは続けて「今のままでは共同で戦う事は出来ないから、戦うには少し待とう」と提案してきた。
ザムトとラーゾは、向こうも仲間意識がある一枚岩の集団であった場合、流浪者レギーナを仕留められた事で復讐をしに来る可能性はあるという予想を立てた。だがこの四人がチームを組むことでお互いを守れば、復讐が来たとしても対処が可能であると結論付ける。
結果として今日からしばらくは、四人が全員このラーゾとヴェルールの家に寝泊まりをするという事になり、ツイードの弔いの日の夜二階部分の寝室に、四人分の寝床を敷いて夜を過ごすことになった。




