8話:週末の第3小隊 前編
翌朝9時。病院を出ると、昨日の曇天と打って変わって、雲一つない晴天だった。
「んーー!気持ちのいい朝だな。」
両腕を天高く伸ばし、伸びをした。
「一旦寮に戻って、出かける準備しますか。正門に10時半集合でよろしく!」
「りょーかーい」
女子達よりも一足先にロビーに集まった男子達の恰好は、見事なまでに各々の性格が出ていた。
体格の良さが際立つ無地のTシャツにカーゴパンツの隆利に、全身オーバーサイズパーカーを深く被った冥、スタイリッシュなシャツを着こなす恭平、右腕の骨折に配慮して恭平から借りたゆったりめのシャツを羽織った諒輔。
「女の子たちは準備に時間がかかるもんだ。大人しく待つとしようぜ。」
隆利が缶コーヒーを開けた――その時だった。
「おっ待たせー!遅くなってごめーんね!」
「「「「・・・っ!?」」」」
駆け寄ってきた3人の服装を見た瞬間、男子全員が息を呑んだ。
いつもの制服や戦闘服とはまるで違う私服姿が、それぞれの個性と魅力を鮮やかに映し出していた。
先頭を駆けてきた燈は、明るいアイボリーのマウンテンパーカーを前開きでさらりと羽織っていた。
スポーティでだぼっとしたアウターの隙間から覗くのは、首元がすっきりと開いたシンプルな白のインナー。健康的な鎖骨と華奢な肩のラインが見え隠れし、ハイウエストのワイドデニムがストリート感を際立たせている。八重歯を覗かせて笑う彼女の快活さと、不意に覗く女の子らしさのギャップがたまらない。
「どう?あたし、今日めっちゃ気合入ってんだけど!」
「ふふ、燈ちゃん、走ったら危ないよ」
続いておっとりと歩み出てきた真澄の姿に、諒輔の心臓が跳ね上がった。
柔らかな純白のワンピースに、背中の大きなリボンが可憐なアクセントを添えている。きゅっと絞られたウエストのせいか、小柄な身体に対してワンピースの胸元は少しだけ存在感があり、細い腰との対比もあって目を引いた。
制服姿とは違う大人びた雰囲気に、諒輔は思わず言葉を失う。
「・・・なによ、アンタたち。そんなにジロジロ見て」
最後に、少し気恥ずかしそうに腕を組んで現れた飛鳥に、今度は恭平が小さく口笛を吹いた。
すらりと伸びた抜群の美脚を強調する、細身のタイトスキニージーンズ。ショート丈のクロップドトップスからは引き締まった白いウエストとへそ周りが惜しげもなく覗き、その上に羽織ったオーバーサイズのチェックシャツが、大人の抜け感と洗練されたモデルのような風格を醸し出していた。
「お、おいおい・・・」
隆利が思わず缶コーヒーを落としそうになり、冥ですらスマホから顔を上げて目を丸くしている。
男子4人の熱い視線を浴びて、真澄は小さく両手でスカートを抑えながら、上目遣いで諒輔を見つめた。
「あのね、諒輔くん・・・。私、変じゃないかな・・・?」
「へ、変なわけないよ!す、すごく・・・似合ってる!」
顔から火が出るほど真っ赤になって答える諒輔に、真澄はパァッと花が咲いたような笑顔を咲かせたのだった。
恭平も一瞬だけ目を見開いたが、すぐいつもの柔らかそうな笑みに戻った。
「3人とも、よく似合っている。今日はいつもの訓練服より、ずっと街になじんでるね。それじゃあ第3小隊交流会で、彩ヶ丘駅に行こう!」
――学園から徒歩5分のところにある彩ヶ丘駅には、駅直結の小規模ショッピングビルが併設された【パレット彩ヶ丘】に、ビルをまっすぐ抜けるとどこか懐かしい雰囲気の個人商店が立ち並ぶ巨大な色彩街アーケードが伸びていた。
駅の改札には、休日を楽しむ学園生や、近隣の住民たちで賑わっていた。
「へぇ・・・駅前は今どきのお店が立ち並んでいるのに、一歩抜けると大きなアーケード街が続いているんだね!」
「そうだよ諒輔!このアーケードには、安くてうまい食べ歩きグルメがいーっぱいあるんだから!」
「おっ!今日は珍しく意見が合うな燈!諒輔、あのラーメン屋のおやっさんが出すラーメンも絶品で外せねえぞ!」
八重歯を輝かせる燈に、隆利も太鼓判を押しながらおすすめしてきた。
「それじゃあ、まずはビルとアーケードどっちから回る?」
駅ビルのエントランス前で諒輔が尋ねると、恭平と隆利が誰にも気づかれないように一瞬だけ目配せをした。
(よし、行くぞ、隆利!)
(合点承知だ、恭平!)
「まずは、諒輔の腕の治療に必要な道具や、痛みを軽減させるサポーターを探すのが最優先だな。」
恭平がもっともらしい表情で顎に手を当て、真澄を見る。
「治癒を使える人の視点が必要だ。・・・真澄、諒輔とバレットアーツ専門店とサポーターを購入できる店に2人で行って選んでやってくれないか?」
「私でいいの?いいよ、私諒輔くんに合うやつ一緒に探すよ。」
真澄は嬉しそうに頷きながら、ケガしていない左腕の方に身を寄せてきた。
「じゃー俺たちは2人の買い物している間アーケード散策だな!」
隆利がニッと笑い、燈と冥の肩を叩く。
「燈、アーケードの奥にある老舗喫茶店『カメリア』知ってるか?頑固なマスターが孫娘にそそのかされて始めた、週末限定30食の直火炙りブリュレクレープがあるんだよ。映える上に、表面の苦みが拘りの深煎りコーヒーにすっごい合うんだ。」
「なにそれ!目の前でファイアー!?行く行く、絶対行くーーっ!隆利早く並ばないと売り切れちゃうじゃん!」
「おいおい、慌てすぎだって!冥、おまえのお目当てのゲームショップも喫茶店のすぐ隣だ、席取っとくから一緒に行こうぜ!」
「オッケー、ゲーム漁った後アイスコーヒー飲む。」
「決まりだな、俺たちはあっちだ!」
「あ、ちょっとアンタたち待ちなさいよ・・・!」
飛鳥は呆れたようにため息をつき、振り返ったその先に、恭平がスッと並んだ。
「飛鳥、アーケード裏路地に俺のお気に入りの隠れ家セレクトショップがあるんだ。デザインと機能美を両立した、インポート物を扱っていて、今日の飛鳥のスタイルに絶対に合うアイテムがあると思うんだけどどうかな?」
「・・・へえ、小隊長のお気に入りね。」
飛鳥は意表を突かれたように目を瞬かせたが、すぐに勝気な笑みを唇に浮かべた。
「いいわよ。小隊長が普段どんなお店に通ってるのか品定めしてあげる。」
「お、おう。お手柔らかに頼むよ。――じゃあ諒輔、真澄。またあとでね。」
恭平は飛鳥をスマートにエスコートしながら、諒輔にむけて小さくサムズアップしていた。
残された2人は、ビル内のバレットアーツ補助具店『七色アーツ』を訪れた。
「あっ!これ気になっていた、輝属性の波動を増幅して回復力を増強してくれるアクセサリーだ。あっちには属性浸透布で編まれたサポーターだ。ここ、改装してから品ぞろえが圧倒的に良くなっているよ。」
救護用の道具に目を輝かせて、諒輔に合うか吟味してくれていた。
「真澄ちゃん、僕のためにありがとうね。」
「なっ・・・きゅ、急にどうしたの?」急にちゃん付けで呼ばれて耳まで真っ赤になった。
「いや・・・女の子と二人で、こんなふうに店を見て回ること自体が初めてなんだ。だから、すごく新鮮で」
真澄は一瞬きょとんとしたあと、ふわりと頬を染めた。
「そ、そうなんだ・・・。じゃあ、諒輔くんの初めてのお買い物相手が私なんだね。」
「うん。真澄ちゃんでよかったって思ってる」
その直球に、真澄の頬はますます赤くなった。
「諒輔くん、その言葉ずるいよ・・・。諒輔くんの秘密を知っちゃったから、私も1つ教えるね。」
「私は、中等部の時からクロマ学園にいるんだ。その時のルームメイトが外出中に襲われたって聞いて、高等部の学生と現場に向かったんだけど、私の治療でも間に合わなくってね。だから、後方で支援役にはならず、前線で小隊まとめて守れるここがいいなって思って、高等部では戦闘系の学科に進んだんだ。」
「そっか・・・。辛い過去を話させてごめん。」
「んーん。気にしないでいいよ。これは私の覚悟なの。誰かが無茶をしてしまう前に、私がその人を守れるようになるための。」
「僕が、真澄ちゃんも、みんなも守れるぐらい強くなればいいんだ。」
『初々しいわね・・・じれったくて、やんなっちゃう。』
諒輔の耳元で何かが囁いた。
「えーっと君は?」諒輔が尋ねると白銀に輝く精霊が目の前にいた。
『もう、私たちのことはかあ様から聞いているでしょ。私は、輝のネージュ。真澄と、すこーしだけ絆ができたようだから出てきちゃった。今なら真澄の治療も透過せずにすこーしだけなら効くわよ。』
「えっ!本当かい?教えてくれてありがとう。ネージュ。」
『ああ、私に感謝せず、あなたを信頼してくれた真澄に言いなさいよ・・・もう。』
輝の精霊に悪態を突かれながらも、真澄にありのままを伝えた。
「精霊が教えてくれたんだ。君との間に少しだけ絆が芽生えたって。今なら少しだけ治療ができるって。頼りない僕を少しでも想ってくれてありがとう。」
「・・・わたしは、少しじゃないんだけどな・・・」諒輔に聞こえないぐらいの声でボソッとつぶやいた。
「ほんとう!じゃあ、あそこのベンチで早速試してみましょう。」
諒輔の左腕を引っ張り、ベンチに隣り合わせで座った。
「じゃあ、回復してみるね。」
「お願い、少しだけ・・・届いて――≪輝癒≫」
真澄の手のひらから、白銀の光がそっと、諒輔の腕を包み込んだ。
暖かく、それでいて優しい光。腕の痛みが少し和らいでいく感覚があった。
「どう・・・かな・・・?」
「少しだけ、くっついたみたい。痛みが和らいだよ。ありがとう、真澄ちゃん。」
「よかった!これから毎日、ゆっくりと治癒してあげるからね。」
――2人の間には和やかな空気が流れていた。
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