7話:零の守護精霊と混色
スローモーションだった時がゆっくりと等速に戻り始め、一緒に身を焦がすように渦巻く輝と焔属性が暴れ始めた。
諒輔は気力を振り絞り、零の守護精霊から伝えられた名を叫ぶ。
「僕に、仲間を守る力を貸してくれ――トランゼェェッ!!!」
『あい、分かった。今回は特別じゃぞ。』
その声と共に、荒れ狂う輝と焔がトランゼの導きによって無理やり1つに束ねられていく。
だが、絆の形成を経ていない力は、完全な調和には至らず――激しく、朧げに揺らめいていた。
諒輔の籠手は、無数の白銀の粒子まき散らしながら白熱した紅蓮のオーラを纏いながら、籠手を彩っていった。
まるで、白銀と紅がせめぎ合い、奇跡のような熱光を放つ未完の色彩。
【――朧緋白熾】とでも呼ぼう。
太陽の熾火のように白熱し、まるで夕暮れを想起するその籠手を「ググッ」と握りこみ、回復ありきで身を焼きながら突撃してくる虚烈に対抗すべく構えた。
「お・・・おい、諒輔!大丈夫なのか!?」
恭平が心配そうに駆け寄ってくれた。
「ああ、問題ない。ただ、あいつを倒したら上空に向かって混ぜ合わせている属性を解放しないと、僕を焼きそうだ。」
「無茶しやがって。あいつにお前の拳をしっかりと届けるために、かく乱をすればいいか。」
「頼めるか、恭平」
「任せろ!俺たち仲間だろ。諒輔だけに負担を押し付けない。」
「ありがとう。」
恭平が碧の氷青を水に変え、拳から刀身まで水のベールを纏わせ、注意を引き付けてくれた。
全力の一撃を籠手に込め、諒輔は虚烈に向かっていった。
「いっけえぇぇぇ!!」
――バグシャァァッ!!!
燃えて脆くなった装甲を潰し、中心にむき出しとなったコアが輝と焔を揺らめかせていた。
脆く砕け散る装甲。勢いを一切殺さず、籠手をコアに押し込み、真正面から破壊した。
「――パキキキィィンッ!!!」
まるで2つのガラス玉をぶつけて割れたような甲高い音を響かせ、虚烈は粒子となり霧散した。
虚烈を撃破した瞬間、諒輔の籠手が焔のごとく赤熱し、無理に制御されていた属性の奔流が腕を焼き始めた。
「ぐぅ・・・あぁぁぁッ・・・!」
「諒輔、空に全部打ち出せ!」
恭平の叫びに、背中を押され、右腕を空へまっすぐと突き上げた。
「はぁぁぁぁぁッ――!!」
ドォォォォンッ――!!
籠手に凝縮されていた、2つの属性が混ざり朧緋白熾の色を保ったまま、巨大な光柱となった。
属性の塊は、はるか上空でさく裂し曇天を開き、太陽が眩しい光を降り注いだ。
上空でさく裂した属性は爆風となり、地上に漂っていた黒煙をも吹き飛ばした。
全ての属性を吐き出し終えた瞬間、諒輔の足から力が抜け、前に倒れ始めた。
「おっと・・・大丈夫か諒輔!よくやったよ。」
倒れかけた諒輔の身体を、駆け寄ってくれた隆利が鍛えられた腕でガシッと受け止め、恭平が一息ついた。
「まったく、諒輔の行動は心臓に悪い。」
光柱を目印にしたように、けたたましいローター音を響かせて、特務防衛隊の大型ヘリと増援部隊が乗ったトランスポーターが次々と周防地区へ現着した。
増援部隊を率いてきた橘涼音3等特務尉は、炭化した地面と無傷で守り抜かれた避難シェルターを見まわし、絶句し目を丸くした。
「・・・嘘でしょ。防衛ラインの死守と変異種を学生だけで・・・?」
真鍋1等特務曹をはじめとする前線部隊が直立し、満身創痍の第3小隊に向かい力強く敬礼した。
「橘3等特務尉、無線でお伝えしておりましたが、最終報告を差し上げたく。お時間よろしいでしょうか。」
「ああ・・・頼むよ。それと学生諸君、此度の戦闘ご苦労だった。部隊ヘリで特務機関運営の病院に送りますから、十分な治療を受けてください。」
ヘリで移動中――隊長を務めた恭平の表情はどこか、引き締まっていた。
「俺ら・・・今回無事に危機を乗り越えられて、実践初陣は初勝利を飾ったけど、課題が残る戦いになったな。」
「しょうがねえよ。俺らまだ学生だぜ?自分たちの限界値も知らなければ、諒輔が加入してまだ2日だ。課題があって普通だろ。」
隆利はお気楽に答えたが、それでも目は真剣だった。
「諒輔がいてくれたおかげだな。」
そうボソッと恭平はつぶやき、ヘリに揺られて病院へ向かった。
――時は過ぎ、学校には帰れず、8人部屋の病室には第3小隊の面々が詰め込まれていた。
周防地区に現れた変異種に相対し、ボロボロだった7人は病院で精密検査を受けさせられていたためだ。
検査後には、病室に呼吸が乱れ・ぼさぼさの髪に乱れた服装の瀬戸先生が飛び込んできた。
「あぁ!僕の教え子たち無事でよかった。病院に行くと聞いてすっ飛んできたよ。」
「せんせ~い。ここに若干2名無事じゃないのがいまーす。えーっと、あばら7本の骨折とー腕の複雑骨折だっけ?」
燈のいたずらっ子の声が響いてきた。
「ああ、燈言うんじゃねえ!」隆利が慌てて止めに入ったが遅かった。
「なにっ!誰と誰だ!?陣内くんと、鶴城くんか。」
「えっと、先生、僕は治癒術が効くから3日もすれば、くっ付くそうですが諒輔は・・・」
「僕は、治癒術が透過してしまうみたいで・・・自然治癒待ちですね。それか、絆結んで精霊の助けを借りるかですね。」
「精霊・・・?えっなんだい属性には精霊がいるのかい?諒輔くん今すぐ僕と研究論文を・・・ぐえっ!」
「瀬戸くんストーップ!彼らは患者だよ?特に鶴城さんは骨だけじゃないの。ねっ!」
瀬戸先生の暴走を止めたのは、僕たち第3小隊の精密検査をしてくれた氷室 魅波先生だった。
「あれ、魅波ちゃんだ、おひさ!」
「魅波ちゃんやめーや、瀬戸くん。」
「ごめんごめん。氷室特務准尉さん。」
「あかん、イライラしてきた。もぉいいよ、学生時代からの腐れ縁や魅波でいいよ。」
「ん?氷室先生と瀬戸先生は夫婦なの?」純粋な眼差しで燈が尋ねた。
「誰がこんな奴と。」氷室は今にも茹で上がりそうに顔を真っ赤にしていた。
「いやー、魅波ちゃんとは中学からの同級生でね。僕の小隊の輝属性のメンバーだったんだ。」
「先生にも、そんな甘酸っぱい青春あったんですね。」
「コラ、瀬戸くん!昔話で誤魔化さない!・・・とにかく鶴城さんは絶対安静よ。治癒術が透過しちゃう体質なんて前代未聞なんだから。・・・でも、魂を通わせた『本当の絆の波動』なら、あなたの零をすり抜けずに届くかもしれないわね」
「本当ですか、氷室先生!」
真澄が身を乗り出すと、氷室先生はふっと優しく微笑んだ。
「ええ。属性の深淵は、信頼と直結しているものよ。――じゃあ、あなたたち、今日はゆっくり休みなさい。明日には退院手続きを取るからね」
「はーい、お邪魔しましたー!」
瀬戸先生が氷室先生に首根っこを掴まれ、ズルズルと病室から連行されていった。
パタン、と扉が閉まり病室に7人だけの静寂が戻る。
「ふぅ・・・嵐のような先生たちだったな。」
ベッドに腰かけた恭平が苦笑し、点滴スタンドの横で隆利がポリポリと頭を掻いた。
「しかし、参ったな。諒輔の腕、自然治癒じゃ完治までに何週間かかっちまうぞ!次の演習までに間に合わねえ。」
「・・・うん。トランゼの言う通り、みんなとの絆を深化させて精霊に力を借りるのが、一番の近道だと思う。でも・・・絆を深めるって具体的にはどうすれば。」
拘束具の上から包帯が巻かれた自分の腕を見つめ、諒輔がつぶやいた。
すると、パイプ椅子に逆向きに座っていた燈が、にししッとチャームポイントの八重歯を見せながら身を乗り出した。
「あーあ、何深く考えてんのさ!退院祝いも含めて週末皆で街に繰り出して遊べばいいじゃん!」
「街に・・・?」
「そう!学校でもいいんだけど、やっぱり人となりは街でこそ見えるでしょ。訓練場や戦場じゃ見えない一面を知って、おいしいもの食べて、馬鹿みたいに笑い合う!それが仲間ってもんでしょ!」
「それいいな!俺おいしいラーメン屋知ってるぜ!」と隆利が賛同し、飛鳥も「フン、ケガ人の快気祝いなら付き合ってもいいわよ。」とそっぽ向いていたが顔はにやけていた。冥も「じゃあ、ゲームショップも寄ってよ。みんなで出来るゲームを調達するからさ。」と小さくつぶやいた。
「決まりだな、次の日曜日第3小隊でお出かけ会だ!」
恭平の言葉で、みんなの顔にパッと笑顔が溢れた。
――やがて夜も更け、消灯時間も過ぎた頃。
静寂に包まれた、他のメンバーの寝息も聞こえる病室で、諒輔のベッドの横にふわりと甘いシャンプーの香りが漂った。
「諒輔くん・・・起きてる?」
カーテンの隙間から、病院着の真澄が顔をのぞかせていた。
「真澄?どうしたの、こんな時間に・・・」
「ん・・・ちょっとだけ、お話ししたくて」
真澄は当たり前のように諒輔のベッドの縁に腰掛けると、ぎゅっと身体を寄せてきた。薄い布地越しに伝わる温もりと柔らかな感触に、諒輔の心臓がトクンと跳ねる。
「私の治癒術・・・効かなくて、ごめんね。私がもっと強い光を使えたら、諒輔くんの骨、治してあげられたのに・・・」
潤んだ瞳で俯く真澄に、諒輔は怪我をしていない左手をそっと動かし、彼女の頭にポンと置いた。
「真澄のせいじゃないよ。僕の方こそ、無茶して心配かけてごめん。・・・でも、氷室先生が言ってくれただろ?魂を通わせれば、届くかもしれないって。僕、真澄と一番に絆を結びたい」
「・・・っ」
真澄の白い頬が一瞬で林檎のように真っ赤に染まる。
真澄は恥ずかしそうに俯きながらも、そっと諒輔の左手を自分の両手で包み込み、胸元にぎゅっと抱きしめた。
「うん・・・!私、諒輔くんのこと・・・絶対に治してみせるからね。」
至近距離で見つめ合う二人の鼓動が、静かな病室に甘く溶け合っていく。
――だが、二人は全く気づいていなかった。
諒輔のベッドのすぐ左隣。
カーテン一枚隔てた向こう側で、隆利が布団を頭からすっぽり被り、顔を真っ赤にして口元を必死に手で押さえていた。
(あ、甘い・・・ッ!あばらの骨折より、胸焼けでこっちの心臓が爆発しそうだぜ・・・!ていうか諒輔、おまえもうほぼ告白だろそれ!はよくっつけよお前らぁぁぁッ・・・!!)
そして、諒輔のベッドのすぐ右隣。
同じく薄いカーテンの隙間から漏れ聞こえる甘い囁きに、恭平は天井を仰ぎ、腕で目元を覆いながら音もなく身悶えしていた。
(・・・頼むから俺の耳の真横でイチャつくのは勘弁してくれ、諒輔。こっちまで顔が熱くて寝られたもんじゃない・・・。――よし、日曜日の街のオフ、絶対にこの2人を2人きりにしてやるからな・・・。)
親友二人が布団の中で激しい悶絶と決意を固めていることなど露知らず。
真澄は名残惜しそうに諒輔の手を離すと、「おやすみ、諒輔くん」と小さく手を振って、自分のベッドへとパタパタ戻っていった。
残された諒輔は、まだ手のひらに残る真澄の柔らかい温もりに、一人ボーッと赤面しながら天井を見上げる。
――初陣の夜は、別の意味で眠れそうにない熱を帯びながら、静かに更けていった。
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