6話:港湾エリアでの初陣と激震
トランスポーターで指定箇所まで移動してきた7人。現場を見て戦慄した。
工場からは火が吹き出ており、あちこち建物の外壁が崩れている。
工業地区近くの住居エリアからは、悲鳴と共に逃げ惑う人々の声が聞こえる。
「これは、まずいな・・・。工場や住居は復旧補助金が出るからいいとしても、瓦礫の下に逃げ遅れた人がいる状態だ。それと、先ほど連絡があり今回の襲撃の作戦本部が作られた。俺たちはまずそこに向かう。」
「「「了解!」」」
「クロマ学園 2年A組 第3小隊現着しました!小隊特性上、全線特化となっておりますが、防衛線でしょうか。それとも攻勢でしょうか。」
「ああ、クロマ学園第3小隊の皆さんお早い到着で。この作戦本部を取り仕切る特務機関特務防衛隊所属、伊佐木 重蔵だ。階級は1等特務佐だ。現状の説明は私の部下である、3等特務尉からお伝えさせてもらう。」
「3等特務尉の橘 涼音だ。ん?恭平じゃないか。どうしてここに?」
「げええ、姉さんあんたこそなんでここに。」
「私は仕事よ。港湾エリアに、比較的近いところに出張していたところに警報と来たもんだ。あんたは?」
「俺は学園に出た出撃命令だよ。」
「まあいいわ。現状を手短に話します。現在港湾エリアの5地区のうち2地区が被害甚大です。残りの3地区は比較的軽微なため、特務防衛隊の精鋭部隊にて処理中。学生の君たちには本来であれば軽微な方に回ってもらうのだが、甚大側の人手不足が報告されている。そのため、第3小隊は重量鉄鋼製品を多く扱う周防地区に行ってもらう。」
「了解!本部からの支給品や通信装置などはありますか?」
「通信装置は部隊長が持て、支援品はこの属性結晶を持っていけ。」
「属性結晶とはなんですか?」
「ああそうか、これ軍用品だから公じゃないのか。自身が発せれる属性には最大容量がある。少なくなるとバレットアーツが起動できても、継戦能力は著しく落ちる。属性結晶はあらかじめ属性値をため込んだ結晶で、割ることで自分に属性を纏わせることが可能だ。念のために1人1本持っていけ。」
「よくわかりました。ありがとうございます。」
「――恭平」
踵を返そうとした恭平に向かって、涼音がふっと表情を緩めて声を掛けた。
「死ぬんじゃないよ――。それから鶴城くんで合ってるよね?弟とこの子たちのことを頼むわね。」
「だあぁ。姉さんらしくねえな。姉さんに言われなくても全員無傷で帰ってくるさ。――行くぞ、みんな!」
「「「了解!!!」」」
作戦本部を飛び出した第3小隊は、火の粉と黒煙が上空まで舞っている周防地区へと全速力で駆けた。
重量鉄鋼製品を扱うそのエリアは、巨大なガントリークレーンや積み上げられたコンテナ、剥き出しのビル用鉄骨が迷路のように入り組む重工業地帯だった。
そして――そこに群がっていたのは、異界の怪物【虚烈】の群れ。
「ゲギャッギャギャッ!」
「くそ、持ちこたえろ!増援はまだなのか。」
『・・・ざ・・・ざざっ・・・周防地区防衛ライン聞こえますか。こちら橘3等特務尉・・・応答されたし。』
通信が聞こえ、指揮者は返答した。「こちら、周防地区防衛ライン部隊指揮官、真鍋 司真鍋1等特務曹です。」
『真鍋1等特務曹、そちらに増援を向かわせている現着は本通信の30秒後だ。学生だが特務防衛隊を遥かに凌ぐ戦力を向かわせた。持ちこたえてくれ。』
「了解!」
「防衛ライン全員に告ぐ!およそ30秒後に増援が来る!それまで持ちこたえろ!」
その時だった。真鍋の真上に影が差した。通常の虚烈の約3倍はあろう体躯をもつ重装甲虚烈だった。
「冥!状況分析できてるか!」
「分析完了してるよ~。指揮者を襲おうとしている虚烈は通常種の3倍の体躯を誇り、装甲は2.5倍だ。訓練時より弱いけど匹敵するよ。」
「了解、燈!弾くだけでもいい。あそこまで何秒だ!」
「リミッター効いているから、2秒かな?」
「OK!じゃあ燈の速攻で戦況を覆す!隆利と真澄は燈の後に部隊指揮官のところに!防衛線を成形しなおす。飛鳥と冥は負傷者救助!諒輔は俺と一緒に最前線で敵の削減だ!」
「「「了解!」」」
燈のバレットアーツが紅色に強く染まり、高出力の噴出で一気に重装甲虚烈に詰め、勢いそのまま振るい落とそうとしていた腕を「バキィン!」と轟音を響かせながら弾いた。
「クロマ学園2年A組第3小隊現着しました。ご無事ですか?」
「ああ、無事だありがとう。私は周防地区防衛ライン指揮官、真鍋1等特務曹だ。援護感謝する。」
「諒輔!あのデカブツのコア属性は闇だ!行けるか?」
「もちろん。任せてくれ!」
無色透明なバレットアーツを起動し、零属性を籠手に纏わせた。
「うぉぉぉらぁぁぁあ!」
燈の攻撃でよろけて態勢を直している、重装甲虚烈に一直線に向かい、諒輔の1撃がコアに叩き込まれた。
「パキィィン!」コアが割れる音が響き渡った。
その光景を目にした指揮官は目を丸くした。
「俺は夢でも見ているのか?バレットアーツがない人間が虚烈のコアを破壊しただと?」
「あー、諒輔も立派なバレットアーツ使いですよ。彼は零属性の保有者で、多分人類の希望だと思います。」
「零・・・ああそういえば特務調査局の最新資料に記録が合った子か!」
「ええ。入学2日目でもう実践投入です。」燈は淡々と綴った。
そこに、防衛ライン引き上げのため隆利と真澄がやってきた。
「討ち漏らしは俺らでカバーする。全力で行ってこい!」
そういい終わると地面に大盾を突き刺し、その盾を基準とした光の広域障壁が覆った。
「光の広域障壁・陣内回復を展開します。条件は虚烈以外は通すこと!」
一瞬にして第3小隊によって周防地区の防衛ラインは下がらず維持された。
――防衛ラインが維持されて1時間が経過した。
飛鳥と冥によって周防地区に取り残されていたすべての作業員・住民たちが防衛ラインより後方に避難が完了した。
負傷者は一時的に真澄の光の障壁内で回復を行っていた。
「はぁ・・・はぁ・・・。」
真澄の疲労が限界に近かった。
「真澄・・・障壁は解いていいぞ。俺が全攻撃を防衛するから。」
「ダメだよ隆利くん。まだ、負傷者が回復しきれていない。今閉じちゃうと回復できないよ。」
次の瞬間、「う・・・っ」とうめき声が聞こえたと同時に真澄がへたり込み、障壁が明滅し始めた。
「恭平!真澄が活動限界だ!特務防衛隊の追加支援はないのか!」
「今は、ここと同じぐらい被害が大きい多々良地区が優先されているらしい。ここへの追加支援は今から1時間後だ!」
普段あれだけ、おちゃらけていてでも、戦闘時には頼りになる隆利の顔が初めて歪んでいた。
防衛ラインにいた5人はバレットアーツの属性値が空に近く、これ以上の継戦は困難を極めていた。
ズズンッーー。地響きが聞こえた。
「なんだ!地震か?建物の倒壊か!?」
恭平と諒輔を除いた5人の前の建物が倒壊して、その瓦礫の中から歩み出てきたのは、大柄で激しく燃え盛る虚烈だった。
「なっ!!こんな時に大柄虚烈かよ。しかも燃えてる。燈の1撃で倒せるか?」
「私もガス欠気味だから、次の1発でもう動けなくなるよ。いい?」
普段元気な燈からは想像できない、弱気な声が聞こえた。
「ああ、動けなくなったら俺が防ぐ!お見舞してこい!」
「だりゃあぁぁぁぁ!」最後の気力を振り絞り、焔を解放一瞬にして敵に距離を詰めコアを破壊しようとした。
次の瞬間、虚烈の焔の周りにキラッと光る属性が真澄には見え、同時に解析を進めていた冥と叫んだ!
「「だめだ!燈逃げろ!そいつは実質的にゾンビだ!」」
とっさに、拳を前に出し逆噴射で事なきを得た。
「ええ!ゾンビって何!?」障壁内に戻ってきた燈が驚愕しながら尋ねてきた。
「僕も隆利と同じで燃えているから焔だと思っていたんだけど、あれはまずい。恭平のデュアル属性と同じくデュアルコアを持つ虚烈だ。しかも、こちらには都合の悪いことに、焔と輝の属性だ・・・。自身を燃やしていても倒れないのは、燃えたところが輝の超再生で即時回復しているからだ。」
冥から淡々と説明が入った途端、完全に真澄の属性値が切れ障壁が解けた。
「まずい!恭平!諒輔!防衛ラインに戻ってくれ!真澄の属性切れだ。」
「ああ!今戻っている。隆利、飛鳥10秒その虚烈の足止めできるか!?」
「10秒なら耐えて見せる!!!」2人から頼もしい声が聞こえた。
――10秒後、恭平と諒輔が防衛ラインに戻ってきた。
隆利が大盾で防いでいるが、今にも大盾が崩れそうだ。飛鳥も隙を見つけては装甲破壊を続けたが、輝の超再生で回復され焼け石に水状態だった。
飛鳥も隆利も今にも崩れそうな状態で、諒輔は息が苦しくなりただ見つめていることしかできなかった。飛鳥の攻撃に合わせて恭平がバレットアーツを構え飛び出していき、ハッとした。
恭平が担いでいるバックパックに、渡された属性結晶が格納されていることを思い出した。
零属性の自分なら2つ割っても扱いきれるはずだ、恭平が戻ってきたタイミングで輝属性と焔属性を取り出した。
「お・・・おい、諒輔!何するつもりだ。いくら【零】だからと言っても2つの属性を一気に取り込むなんて、肉体が弾け飛ぶぞっ!」
恭平の悲痛な叫びがあったが、諒輔は迷わず両拳で結晶を握りこんだ。
――ンバチィィィッ!!!砕け散った結晶から輝と焔属性が濁流のように諒輔の体内へ逆流を始めた。
その流れは、まるで肉体が引き裂かれるような激痛と共に、骨は軋み、視界はぶれ、心臓の鼓動が加速し他人にも聞こえそうな音を打ち鳴らしていた。
(ぐぅぅっ・・・!体が痛い、だけど僕がやらなきゃ誰が守れるっていうんだ!動け!動けっていうんだよ僕の体!!)
己の命を投げ打つ覚悟の叫びに呼応するように、突如世界がスローモーションとなり、頭の奥底に神々しくも凛とした声が響き渡った。
「――ふふ。属性の王よ。器がありつつも、絆を結ばずに属性の奔流で身を焦がすか。・・・救いようがない愚かだが、愛おしい王よ。」
目の前には、虹の光条をすべて統べる無色のオーラを纏った精霊が立っていた。
「よかろう。王の無謀なる覚悟に免じ、この我が直々に王に力添えしよう。」
「あなたは・・・。」
「そうじゃな、自己紹介がまだだったな。では、時の流れが戻ったら我の名前を叫べ。我の名前は・・・・。」
お読みいただきありがとうございます!
次回もどうぞお楽しみに!




