3話:混色の片鱗と男子寮の夜
属性を吸われた飛鳥は茫然としていた。
「何だったんだ今のは。私の轟が・・・消えた?」
飛鳥はバレットアーツが解除された拳を見つめ、信じられない様子で茫然と立ち尽くしていた。
「恐らく、諒輔の『零』は他者の属性と反発するどころか、その波長を取り込んで、己の力に変性させる性質があるんじゃないかな?・・・零属性、ますます興味が湧いてきた。」
恭平が顎に手を当て、冷静な分析を口にする。
「諒輔くん、大丈夫!?怪我はない・・・?」
パタパタと小走りで駆け寄ってきたのは、心配そうに眉を下げた真澄だった。
小柄ながらメリハリのある豊満な体が至近距離まで迫り、甘い香りに思わずドギマギしてしまう。
「――邪魔するでー!」
そこへ、トレーニングルームの扉を豪快に開けて、黒曜色に七彩のラインが入った作業服の大柄な男がずかずかと入ってきた。
「おおっ!お前さんが転校生の鶴城やな?バレットアーツの簡易診断を頼まれとる、専攻科2年 神薙 鉄馬や。」
「零属性のバレットアーツのデータ取得と可用性の確認をさせてな。」
遅れて、黒曜色の作業服を着て機材を持った女の子もやってきた。
「はぁ、はぁ、おい!鉄馬!!女子のあたしに機材持たせて先行くってどうゆう了見や。」
「あらら、息切らしてどうしたんや?ロアちゃん」
「はぁ!?転がすぞワレ!」
「あーあ、始まったよいつもの夫婦漫才。」
恭平がやじって、周囲に笑いが起こった。
「誰と、誰が夫婦やねん、もういっぺん言うてみいや、恭平!」
「まぁまぁそこまでにしておきましょ。今日は諒輔に用事でしょ。」
「せやった。あんさんが諒輔やな?あたしはロア。専攻科2年 ロア・アークライトや。こんな名前しているけど親が日本人じゃないだけで、あたしは日本生まれ関西育ちの日本人やと自負してる。」
黒曜色の作業服の袖をまくり、金色の髪を高い位置でまとめたハイポニーテールが印象的だった。
「よろしく、ロアさんと呼べばいいのかな?」
「おう、ええで!ちゃん付けだけはやめてくれよ。鉄馬みたいな感じがして寒気がする。」
「善処します。」
ニッと笑ったあと、諒輔の展開中のバレットアーツを覗き込んだ。
「あれ?あんさんのバレットアーツ無色透明なんじゃなかったか?」
「それが、先ほど皇さんとバレットアーツ同士がぶつかった時に、皇さんが纏っていた轟属性を僕が吸収したみたいなんですよ。」
「なんやて!?体に異常は感じんのか?そこにいる恭平みたいにデュアル属性でも、自分の属性同士が反発して苦しむことあるんやで?なんともないんか?」
「今のところは特に。」
「鉄馬!零用に調整したデータセットを準備せい。」
「もう、しているよ。」
「流石。じゃあ諒輔悪いけどこの芯棒をバレットアーツで握ってくれるか?そうするとバレットアーツ特性を芯棒を通して記録できるから。」
芯棒をバレットアーツの籠手で握った。
「なんやこのグラフ。通常異なる属性が混じろうとすると相反するんやけど、まるで零に引き寄せられるような属性の変性が見て取れる。恭平のデュアルも属性値の優位性を決めることで、相反せず扱うことができるってのに。」
「つまりどうゆうことなんですか?」
諒輔は何もわからない状態だった。
「つまり、諒輔の零は大きく分けて2つの特性を有している。1つ目は他の属性を吸収もしくは提供してもらってその属性特性を得られる性質。2つ目は零属性は未だ見たことのない3属性以上を混色できる。要は最大7属性を一手に引き受けてそれを扱うことが可能ってことだ。」
鉄馬が淡々と特性を語っていく。
「ってことは、俺の完全上位互換ってこと?」
恭平は興味津々に確認している。
「いや、あくまで仮定の話だが、今は偶然吸収してなじんでいる状態だ。これを任意で発動させようとするなら、諒輔の技量向上、お互いの意思と良好な関係が必要だと思う。」
「今は轟属性がどんどん諒輔のバレットアーツから霧散していっており、透明な籠手に戻り始めている。特務機関も仮称だとしても零とはとんでもない名称をつけやがったな。」
鉄馬とロアの検証がハイスピードに進んでいった。
「あたしらの検証は終わり。最後に超簡単に諒輔に零属性のことを言うなら、属性バランサーってところかな。」
「属性バランサー・・・」
「せや、恐らく零自身の装甲透過の技能が各属性を束ねる役をしているんだろうね。」
「なるほど、俺小隊のみんなからは遅れている。だから真の仲間だと心から思ってもらえるよう努力する。」
「ええ心意気や。気張りいや!」
そう言い残し、来る時と逆で鉄馬に全荷物持たせてトレーニングルームを後にしていった。
「じゃあ諒輔くん、また夜ご飯のときに食堂でね!」 真澄と燈が手を振って女子寮へ戻り、男子組も男子寮へ向かった。
「零属性の装甲を透過するだけでもすごい技なのに、いい技知れたな。」
隆利が背中を叩きつつ、ほめてくれた。
「さあ、トレーニングもここでお開きだな。諒輔の荷解きするために寮に戻るか。」
「そうだな、おーい冥。部屋戻るぞ。」
「りょうかーい。」
冥の気の抜けた返事が聞こえた。
男子部屋にて、諒輔の荷解きが3人の強力によって着々と進み、一瞬で片付いてしまった。
「あれま、諒輔私物こんだけか?少なくねえか?」
「ああ、僕の家はそこまで裕福じゃなくてね。唯一連絡用のスマートフォンがあったぐらい。元の学校も奨学金を借りて進学していたほどなんだよ。でも、僕は研究対象だからか、学費寮費全額公費負担らしい。」
「何・・・だと・・・。じゃあ、今日は冥のゲームで遊ぼうぜ!いいよな、冥」
隆利は驚愕したが、気を利かせてくれた。
「いいよー。4人で出来るパーティーゲームがいいよね?」
「それで行こう。小隊の頭脳と呼ばれる俺の策に嵌るなよ、お前たち。」
周りを煽る恭平。
「ゲームなら誰にも負けないよ。」
意外と負けず嫌いな冥。
「俺の鉄壁で全員封鎖してやる。」
ゲームでも熱い男の隆利。そんな仲間たちを見て諒輔はここにいてもいいんだと実感できた。
一通りゲームも終わり、男子組は食堂に移動して晩御飯を食べていた。そこに、真澄、飛鳥と燈がやってきた。
「ふふ。何そのご飯の量。そんなに取らなくてもご飯は逃げないよ?」
真澄が男子のチョモランマのように盛られた白ご飯を見て笑っていた。
「なんで、男子ってご飯でもバカなんだろうね。」
飛鳥は憐れむように言った。
「飛鳥ちゃん、男子ってこんなんだよ?でもこんなおバカなとこが男子らしいじゃん。」
全肯定してくれる、幼馴染みたいなことを燈が言った。
「うるせえ、諒輔も冥も細っこいからな。たんと食わせて立派な筋肉つけるんだよ。」
「あーあー始まっちゃった。隆利の筋肉談義。」
「飛鳥、筋肉は男のロマンだろ。俺は、諒輔に筋肉がついたら今よりもっとかっこよくなると思ってる。」
「確かにね。筋肉は重要だよ。でも量がおかしい。自重しな!」
飛鳥のチョップが隆利に振り落とされる。
「いったー。明日の模擬戦覚悟しておけよ。飛鳥。」
「かかって来いよ。どうせ私が勝って150戦中148勝をさらに伸ばすから。」
「くそ、なんも言えん。」
「はいはい、言い合いはその辺で。小隊のみんなに私からおすそ分け。真澄特製プリンだよ。」
男子一同「うぉぉおおおお!」
真澄の女子力に感謝する一同だった。
諒輔のすぐ横にちょこんと横に座り、肩が触れそうな距離で上目遣いに覗き込んでくる。
「今日はお疲れ様。初日に大変だったね。明日からは授業に模擬戦が組み込まれているけど、ケガしても安心してね。私が治してあ・げ・る。」
真澄からふわっと甘いシャンプーの香りが諒輔の鼻腔をくすぐり、最後まで真澄にドギマギしながら初日が終った。
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