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11話:企業実習と現場の現実

 午前8時、第3小隊は品川駅港南口に集合していた。

「朝から日差しが暑いぜ。」

「そうだな、実習先の天城重工の本社が目の前にあるから仕方ないけどな。」

 駅前に集まった7人の前へ、2台のトランスポーターが止まり、扉が開き紺色のスーツ姿の男性が降りてきた。

 

「あなたたちが、クロマ学園2年A組の第3小隊の方々ですね。」

「あっ、はい!」

「定刻時間より早めの集合、感謝申し上げます。私、天城重工・防衛技術開発本部 実証試験課長、一ノ瀬史郎(いちのせ しろう)と申します。今回の実習は、目の前の本社ではなく、防衛技術開発本部にて行います。移動しますので、トランスポーターに乗車してください。」

 第3小隊は品川駅から、専用トランスポーターで湾岸の天城重工・防衛技術開発本部へ向かった。


「まずは会社に到着したら、弊社内で会社紹介並びに、防衛装備などの開発製造現場をご覧いただきます。その後、君たちを教育してくれる自慢の若手をご紹介します。」

「ありがとうございます。一ノ瀬課長、移動中に1点質問よろしいでしょうか。」

「はい、なんでしょう、橘さん。」

「今回、私たちの実習を受け入れていただきありがとうございます。その上で、御社では今まで学生受け入れをしていなかった中、私たちを逆指名してまでも受け入れていただいた理由は何でしょうか。」

「ああ、そのことですか。理由は3点あるのですが、一番大きな理由は、防衛隊に協力して港湾エリアの周防地区を防衛したことを、評価してのことですね。あの地区には、弊社の工場もあったので、君たちに助けてもらった社員がたくさんいるのですよ。後の2つは、まあ実習中に自ずと判明するでしょう。」

「はあ、ありがとうございます。」

「さっ、着きましたよ。ここが、天城重工 防衛技術開発本部です。」


 トランスポーターから降りた第3小隊の目の前には、そびえ立つ大型ビルと、併設された工場・訓練場が広がっていた。

「なんてデカさだ。流石、国内最大の天城重工だぜ。」

「そうだな。俺たちここで実習させてもらえるのか・・・」

「では、まずは会議室にて説明と手続きを済ませます。ついてきてください。」


――エントランス奥に位置するエレベーターで、20階へ上がった。

 上がった先にある『F20A会議室』の扉を開けると、2名の人が待っていた。

「「お疲れ様です、一ノ瀬課長。」」

「ああ、今日は君たち2人だけなのかな?」

「はい、後の5名は任務のため、後日彼らの指導に当たります。」

「そうか、ありがとう。では、早速だが、自己紹介をしてもらう。駅でも伝えたが、私が、防衛技術開発本部 実証試験課長 一ノ瀬だ。次、青葉くんよろしく。」

「はい!防衛技術開発本部 防衛運用課所属、青葉凛(あおばりん)です。属性は碧です。はい、次どーぞ。」

「同じく、防衛技術開発本部 防衛運用課所属、福島陽太(ふくしまようた)です。属性は巌だ。よろしく。」

「2人とも紹介ありがとう。では、クロマ学園の諸君らも自己紹介を頼みます。」


「はい!クロマ学園2年A組 第3小隊 小隊長 橘恭平です。属性は碧と翠の2属性持ちです。未熟なので、精いっぱい勉強させていただきます。」

 恭平の自己紹介が終ると、青葉が目を丸くしていた。

「ねぇ、陽太聞いた?碧と翠の複合だって。強い組み合わせだね。」

「ああ、しかも体内の属性が反発せずに均衡を保っていると来た・・・」

「同じく、クロマ学園2年A組 第3小隊 陣内隆利です。属性は巌、アーツは2種変形持ちです。」

「同じく、皇飛鳥です。属性は轟で、刺突系を得意としています。」

「同じく、速水燈です。属性は焔で、焔の推進力を生かした機動力と、瞬間火力を得意とします。」

「影山冥です。属性は闇で、分析と妨害・拘束が得意です。」

「佐竹真澄です。属性は輝です。支援特化で近距離回復とバフ、広域防壁が得意です。」

「鶴城諒輔です。属性は零、無色です。装甲貫通によるコア破壊と、属性混色による各属性の長所を引き出すことが得意です。」

 諒輔の紹介が終ると、一ノ瀬課長の目が愁いを帯びたように見えた。

「君が、噂の『零』ですか・・・いや、すまない。映像などは見てはいたのだが、いやなんとも稀有な存在だな。」

 やはり、零は稀有で、敬遠されるのだろうか。通常とは異なる力を持つ自分を、諒輔は少しだけ疎ましく思った。


「すまない、鶴城くんのことは調査局並びに学園側から聞き及んでいる。実習期間中に、多くを学び、鶴城くんには弊社の装備テスターも兼ねてもらおうかと思案している。」

「わかりました。僕にできることであれば、尽力させていただきます。」

「ああ、いい返事だ。」

「では、遅くなったが、天城重工の説明をさせていただく。」


――一ノ瀬課長から、天城重工の成り立ちと国との協業によって作り上げてきた製品の紹介を受け、最後に虚烈(リフター)対応についての説明があった。

「最後に、弊社では、防衛運用課 通称:フロントライン、支援システム課 通称:バックライン、戦略企画課 通称:コマンドラインの3ライン構成を敷いている。青葉くんと福島くんはフロントラインで防衛任務や、救援、果てには復興支援など、最前線で必要な任務を担ってもらっている。」

 民間企業にしては、やけに防衛隊じみた構成をしていた。

「今回の実習は、主に現地実習がメインとなる。つまり、君たちにはフロントラインにて存分に実力を発揮してもらう。以上。青葉くん、後のことは伊佐木くんに任せてある。彼女と連絡を取り、彼らを頼むよ。」

「承知しました。伊佐木と連携し、彼らの指導に当たります。」

「では、私はここで失礼するよ。何かあれば、教育担当を存分に頼ってくれ。」

「ありがとうございました。」第3小隊は一同にお礼のあいさつをした。


 一ノ瀬課長が退出して、青葉から小隊メンバーに早速の質問があった。

「さて、諸君!改めて天城重工にようこそ!8月末までの約1ヵ月半ほどよろしくね。困ったことがあれば、何でもお姉さんに頼ってね。」

「お姉さんって、お前いくつだよ・・・」

「あー!陽太のあほー!!彼らとそんなに離れていないからお姉さんでいいの!」

「すまんな。改めて、福島だ。年は君たちと丁度10歳差の27歳だ。入社して9年だが、一応俺たちのチームはフロントラインで実績No1で活動させてもらっている。」

「またそうやって私を置いてけぼりにするんだから。」

 まるで熟年夫婦のようなやり取りだった。


「俺たち第3小隊、まだまだ未熟ですので、精いっぱい先輩たちから勉強させていただきます。」

「おっ!いいね。俺たち第1-B小隊は、明日会える伊佐木をリーダーにしている。リーダーは切れ者か、かなりの実力持ちじゃねえとまとまらんからな。」

「じゃあ、早速で悪いけど訓練場で、君たちの現在の実力を見させてね。」

「はい!」第3小隊はそろって返事をした。


――第1訓練場、そこは学園の訓練ドームより3倍ほど巨大で、広大なコンクリートの地面が広がっていた。

「おぉ!外からでも大きさは見えていたが、これほどとは。」

「はーい、じゃあ今から君たち7人には、連携して仮想虚烈(リフター)20体を5分以内にすべて、撃破してもらいます。もちろん、天城重工特製プログラムが入っているから、一筋縄ではいかないよ。準備できたら話しかけてね。」

「20体を、5分以内に!?1体15秒ってこと!?」

 7人は、学生服から、実技対応の服装に着替え、戦闘態勢を整えていた。

「青葉さん、準備完了しました。」恭平が青葉に話しかける。

「いいねー。フレッシュだねー。じゃあ、訓練開始しようか。普段の配置についてね。」

 諒輔は巌属性を吸収させてもらい、第3小隊は隆利と諒輔の2枚盾を軸とする、対多数用陣形で並んだ。

「それでは、訓練開始!」その声を境に、目の前には次々と仮想虚烈(リフター)が現れた。

「隆利!諒輔!前方5体受けてくれ!今回は各個撃破じゃ間に合わない!まとめていくぞ!」

「「了解!」」

 「後ろは私がいるからね。」とすかさず、諒輔と隆利に真澄の強化バフが乗った。

「冥!飛鳥!俺と燈で敵を誘導するから1箇所にまとめてくれ。」

「「了解!」」

 恭平の翠による俊足と、燈の焔の推進力による誘導が始まった。だが、学園の模擬虚烈(リフター)と違い、なかなか中央に集められず、刻一刻と時間が進んでいく。

「燈!あと2体、時間は残り1分だ。」

「OK、すぐ冥のところに届ける!」

 2体縦に並んだところを狙い、推進力を生かし仮想虚烈(リフター)の懐を発勁の要領で一気に押し込んだ。

「諒輔!とどめの準備だ。あの技は行けるか?」

「任せてくれ、巌が混じっているから翠と焔をミックスレスで混ぜ合わせる!」

 諒輔の琥珀色に染まった籠手に燈と恭平がバレットアーツを重ねた。

 籠手から、刀身の形を巌で作り出し、刃の部分に焔を纏わせ、翠の風の力で焔の火力をブーストさせる、『零の刀身』が出来上がった。


――残り、20秒まで迫り、諒輔は刀身を集まった虚烈(リフター)に向かい振りぬいた。

 スッとコアを中心に虚烈(リフター)が切断され、切り口から焔がさく裂。「ズドドドオォン!」とけたたましい炸裂音を響かせていた。ここでタイマーがストップされた。残り時間は11秒と何とか目標時間をクリアできた。

「あっぶねぇええ!残り11秒で何とかクリアできたぞ!」隆利の叫びで、ハッとした青葉。

「う・・・嘘でしょ・・・君たちまだ学生だよね!?2枚の強力な壁と、翠の風と焔の推進力での誘導、それに応える強力なデバフ拘束に、さっきの破壊力ある刀身はなんなの!?プロや防衛隊でも見たことないんだけど!」

「・・・ああ。無色適性とは聞いていたが、ここまでの出力と持つ攻撃力と、メンバーを統率できるとは恐れ入った。凛、俺の目から見えたのは、『零』の子が、巌を纏った状態に追加で焔と翠を混ぜて刀身にしていたぐらいにしか見えなかったぞ。」

「えっ・・・正解です。さすが、天城重工の人は目がいいのですね。先生にも、混ぜた属性数が見破られたことはないです。」諒輔は驚いていた。

「ほう!じゃあ、俺は運がよかったな」


 その時、第1訓練場にサイレンが鳴り響いた。

「あちゃー、スクランブル出動のサイレンだ。陽太、端末!」

「もう見てる。現場はほど近い、湾岸エリア工場区画だ。表に、緊急トランスポーター手配済みだ。学生諸君も、一緒に来てください。」

「はい!」第3小隊は、息の合った返事を返した。

 エントランスは、スクランブル出動に合わせて続々と天城重工の人々が集まり、そろった部隊から出動していった。

 青葉と福島の準備が整い、第3小隊を乗せたトランスポーターは緊急走行のサイレンを鳴らし、湾岸エリアに向かった。

「さて、現着前に1つだけ。実戦経験あると思うけど、今回は君たちが体験した周防地区の防衛と違い、すでに建物崩落が発生し、死者が出ているとの情報があります。虚烈(リフター)撃破もさることながら、被害に遭っている作業員の方々の救助を並行して実施します。」

 生唾が口の中にたまり、「ゴクリッ」と飲み込む音が聞こえた。


 出発して5分後、現場に到着した。青葉はトランスポーターをオートモードに変更し、福島を連れ飛び出していった。

「怖気づいている場合じゃねえ!俺たちも、行くぞ!」恭平が、第3小隊を鼓舞した。

 青葉と福島の2人は、息を切らすこともなく、自分の属性に合う虚烈(リフター)を次々に倒しながら、現場状況を無線でやり取りしていた。2人が倒せない虚烈(リフター)は、後を追う第3小隊が倒していた。

「コマンドラインこちら、フロントライン第1-B小隊 青葉!現場は虚烈(リフター)で溢れ、火災並びに建物崩壊が激しい箇所が見受けられる。消防救援と、輝属性の増員を求む。」

『こちら、コマンドライン 高崎。消防救援並びに、バックライン人員手配完了!現着まで6分かかります。』

「了解!陽太!バックライン用の救護所開設と、現場にいる巌属性者を集めてバックライン到着までの防御壁構築頼む。」

「了解!青葉、無理はするなよ。」

「当たり前よ!さ!学生諸君、目標は前方の屋根が崩落している工場だ。虚烈(リフター)は10体、救助人数は概ね15人だ。私は別区画の救助を優先するから、この工場は君たちに任せる。君たちで撃破してみな。」

「はい!」第3小隊はそろって返事をした。


 屋根が崩落した工場では、折れ曲がったガス配管からガスが漏れ、その近くには燃料タンクがあり、壁面には「火気厳禁」の警告表示があった。

「隆利、真澄、冥は西側の崩落区画へ。冥は影で要救助者の位置を把握。隆利は梁を支えて、真澄は防護を頼む。」

「任せろ!」

「うん、絶対に守るよ。」

「りょーかい。影で足場も見るね。」

「よし!私の焔で一気に、吹き飛ばすよ!」燈が属性を出そうとして、恭平が止めた。

「待て、燈ここでは焔はダメだ!引火して大規模な爆破が起こるぞ!」

「じゃあ、どうやって倒すのさ!」

「物理的に殴るしかない。ここでは、燈と飛鳥の攻撃は使えない。冥!工場配管図で、元栓位置はどこだ。」

「ダメ!学園端末では図面が開けない!」

 第3小隊は、環境リスクに縛られ、10秒、また10秒と刻一刻時間だけが過ぎていく。


「恭平!翠で風を起こしてくれ!」諒輔の呼び声で、ハッとして指示が届き始めた。

「そうか!すまない助かった。」恭平が上部に開いた穴に向かい、工場に滞留しているガスを吹き飛ばした。

「飛鳥、燈!いいぞ、全力で敵を叩きのめせ!」

 1体、また1体と倒し、残り2体は諒輔の零で貫通させ、倒した。残りは、救助者を助けるのみ。

 隆利は崩れかけた梁へアームシールドを押し当て、巌の波動でその重みを支えていた。

 真澄は白銀の防護膜で作業員たちを包み、冥の影が示す安全な足場へ誘導していく。

「8名、救護所へ搬送完了!残り7名だよ!」

「救助者は残り7名、最後まで気を抜くなよ。」

 3分後、無事に全15名を救助でき、青葉を先頭に救護所に戻った。救護所に着いたとき、連絡端末には「敵影全滅確認、残救助者0名」と表示され、スクランブル出動は閉幕した。


「スクランブル出動、お疲れ様!」青葉が話しかけてくれた。

「お疲れ様です。」第3小隊はそろって返事をした。

「さて、君たちは、崩落した工場で虚烈(リフター)を10体倒し、15名を無事に救助しました。そこは、ちゃんと評価します。だけど、今回は合計24秒迷ったね。」

 言い返す言葉は見当たらなかった。

「それに、もし配管が先にさく裂したら?敵がもう1体多かったら?ここは、試験場でも訓練場でもない。現場は、褒められるために戦う場所じゃない。君たちが1分迷えば、その1分で誰かが死ぬ。」

 第3小隊は、その言葉を受け意気消沈していた。

 訓練場で抱いた「自分たちは、現場でも通用する」という自負が、プロが放つ静かな現実の前に音を立てて砕け散っていく。

 立ち込める硝煙の向こうで、湾岸の空が重苦しく曇って見えた――。

お読みいただきありがとうございます!

次回もどうぞお楽しみに!

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