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第十依頼 いるべき場所 3話

「大まかな話は聞いているよ。異世界とはいえ、俺達がすまなかった」


 ローキスは悲痛な面持ちで深々と頭を下げる。

 だが、その姿をアーティマは冷めた目で見ていた。


「……協力する為に来てくれた者に言うべきでないと理解しておるが……お前達も儂を侵略しに来たうえ、今でも居座っておるじゃろ。そのことに対しての謝罪はなしか?」

「これはこれはアーティマ様。過去に手荒な行為をしてしまったことは謝ります。ですが、我々がこの星を離れるかは私の一存では決められません。この話はまた後日に」


 陸の時とは違い、微塵も申し訳ないと思っていない様子でローキスは早々に話を切る。アーティマは苛立ちを隠すようにローキスから目を逸らした。


「……ふん。どの世界でも、お前達はどこかの星を侵略せねば生きていけぬのだな」


 そんな嫌味も聞き流し、ローキスは陸に話しかける。


「陸が俺に頼みたいことは、異世界の俺達に星檻を使えるようにしてほしい……であっているかな?」

「あ、ああ。それと、オレの視界に入る範囲に天神達を全員集めてほしい」

「お安い御用さ。俺……ではなく、異世界の俺に頼めば簡単さ」

「異世界のローキス?何をするんだ?」


 陸が興味を持ってくれたことが嬉しかったのか、ローキスは笑顔になる。そして、自身をアピールするかのように自信満々に話し出す。


「俺には異世界を渡る力はないけれど、異世界の俺に干渉できる力があるんだ。そこで陸達の為に動くよう伝えるよ」

「頼んだところでやってくれるか?向こうのローキスにとっては損しかねぇじゃん」

「大丈夫。俺を信じてくれ」


 あまりにも真剣な表情でそう言うので、陸はただ頷くしかなった。陸の返事に満足したローキスは、「それなら」と言葉を続ける。


「報酬の話をしようか」

「報酬……そうだよな、タダでやってもらう訳にはいかないよな」

「いや、他ならぬ陸の頼みなのだから何も貰わなくても構わないのだが……それでは君も、君の仲間達も怖いだろう?『何を企んでいるんだ』、と。だから敢えて君に要求しよう。陸、この仕事が無事に終わったら──」


 陸はごくりと唾を飲む。一体、ローキスは何を頼むつもりなんだ。もしかして、星檻の力を悪用しようと──


「俺の友人になってくれ」

「……は?」


 それは思ってもみない言葉だった。異世界とはいえ自分を、仲間達を殺すも同然のことをするのに、その報酬が友人になるだけ?あり得ない。

 陸はじとっとした目でローキスを見る。


「何を企んでるんだ?」

「あれ?何故か警戒されてしまったな……。他意はないよ。俺は本当に、心の底から君と仲良くなりたいと思っているんだ」

「……分かった。信じる」

「嬉しいよ。これは絶対に成功させないとね」


 ローキスとの話が終わると、次はスタが前に出て来た。スタは陸達に一礼する。そして、2個の石を差し出してきた。

 青の透明な石と、血のように真っ赤な石。それがスタの手の上でキラキラと輝いていた。


「何に使うんだ?」

「連絡用です。この石は『双石』と呼ばれる物で、片方の石が砕ければ自動的にもう片方の石も壊れます」

「ああ、成程。陸とボクでそれぞれ石を持てばいいんだね。陸が天神の対処をした後、石を壊す。そうしたらこちらの石も砕けるから、それを合図にボクは結界を解除し、人間達を外に出す、と」

「はい。もしかしたら使うことはないかもしれませんが、念の為に持っていた方が安心でしょう」


 灯達の話を聞きながら陸は石を取る。その内、青い石を灯に渡した。


「はい、灯さん。……というか今更だけど、灯さんが結界を解いたら中の人達は向こうの世界に戻るんだな」

「うん。ボクが結界を使ったのは向こうの世界だからね。結界は向こうの別空間に取り残されているよ」

「じゃあ、天神さえ何とかなれば全部元に戻りそうだな」

「いや、天神に支配されたキミの星がどうなっているかは分からない。もし人間達が住めない土地になっていたら、石を砕かずに戻って来てくれ」

「了解!」


 そこからも作戦について話を続け、ひとまずローキスの行動を待つことになった。陸はローキスと嫌々ながら連絡先を交換し、ルアニア商会を後にするのだった。


         ♢♢♢


 その日の夜。ローキスは誰もいない砂浜を歩いていた。


「今は冬というのだったかな。人間が誰もいないから助かるよ」


 そう言って海に入っていく。海は月明かりに照らされても尚暗く、海の中がどうなっているかなんて見えない。それでもローキスは恐れることなく進んでいく。側から見たら身投げを疑われることだろう。

 ある程度歩き、半身が海水に浸かった辺りで止まる。


「これくらいかな」


 深さを確認した後、ローキスは呪文を唱えた。


『うあでにしたわ いなはでしたわ てせわあをめ いかせの くおとかるは』


 地面を蹴り、背中から倒れるように海へと入る。ぶくぶくと口から漏れた息が上へと上がっていくのを見ながら、ゆっくり目を閉じた。


 数秒して目を開けると、そこは真っ暗な空間だった。辺りには複数の扉が何枚も浮いている。見渡していると、その内の1枚の扉が光っていることに気付く。


「あれだな」


 扉に近付き、躊躇なく開ける。そして体の半身を入れ、誰かの手を引っ張ってきた。

 ローキスに手を引かれ出てきた者もまたローキスだった。


「は……は?ここは……お前は?」

「俺は異世界のお前だよ。ふむ、俺の世界とお前の世界の時間軸は同じように進んでいるのだな……なら、お前達が地球を支配するのはまだ先か」

「なっ、何を……」


 怯えている自身の姿さえ興味ないようで、頭を掴み無理矢理目を合わさせる。


『るなにれお えきはえまお らかまい』


 パッと手を離す。目の前の自分は力無く座り込む。だが、その表情は驚きでも困惑でもない。……笑顔だ。


「は、はは……あはは!そうか!は〜……俺はお前の世界ではそうなっているのか!」

「理解してくれたかい?」

「ああ、記憶の共有感謝する。まさか、俺が未来では別の星を乗っ取っているとはな。驚きだ」

「受け入れてくれてよかったよ。まあ、この方法ではお前の性格を俺で“上書き”してしまうけれど」

「構わない。俺もお前の夢の為……陸の為に動こうじゃないか」


 “上書き”というのは例えでなく事実のようだ。連れて来られたローキスにはもう怯えはない。


「さっさと契約書を出してくれ。持っているのだろう?」

「はい、これだよ」

「確かに受け取った。リーダーに名前を書かせたら、俺達も星檻の対象になるんだな?」

「ああ。できるな?」

「当然だ。リーダーを上手いこと騙し……話をして、俺達の代表としてサインしてもらうよ。“地球”という星に行くまでに必ず」

「そうかい。頼んだよ」


 そうしてローキス達は別れを告げる。怪しい笑みを浮かべて。


         ♢♢♢


 陸達は翌日もまたルマニア商会に来ていた。その理由は……


「陸、来てくれたのだな」

「お前が来いって言ったんじゃん、ローキス」

「ボク達もいるからね」

「わざわざ会いに来る必要はなかったじゃろ……」

「陸君、あまり近付いてはいけません。危険ですから僕達の側に」

「りっくんに変なことしたら許さないよ!」

「あっはは。騒がしいな〜。」


 陸を守るように周りを固める灯達。その様子を笑いつつ、ローキスはポケットから小さな物を取り出す。


「異世界の俺に契約書を渡したから、後は君が元の世界な戻るだけだ。……しかし、君が行っても向こうの俺が気付かなければ意味がない。そこでこれだ」


 それはペンダントだった。紐には金の指輪が通されており、派手さのない、身に付けやすいシンプルなデザインとなっている。


「これは俺の魔力で作った物だ。これを持っていてくれれば、異世界の俺は直ぐに君に気付くだろう」

「そ、そっか……」


 陸は灯達から離れ、ペンダントを受け取った。手元にある指輪をジッと見た後、視線をローキスに戻す。


「単純な疑問なんだけどさ、ローキスはオレのこと気に入ってる?んだろ……多分」

「多分じゃない。愛していると言ってもいい程に、君は俺の特別だ」

「なら尚更、オレが元の世界に戻る手伝いをしてもいいのか?」

「問題ない。君が幸せならそれでいいんだ……」

「……」


 嘘だ。直感だが、ローキスは嘘をついている。例え陸が元の世界に戻ろうが絶対に会いに行く。その為の手段も用意している。……そんな気がする。

 だが、これ以上質問してもはぐらかされて終わるだろう。陸はローキスに背を向ける。


「分かった。じゃあ、オレはこれで」

「うん。頑張ってくれ」

「……ローキス」

「ん?」

「オレはお前のこと嫌いだけど……ありがとう。お前が手伝ってくれて助かった」

「!」


 それだけ伝え、逃げるように灯達の元へ戻る。そして、全員で直ぐにその場を後にした。


 用は済んだものの動かないローキスの顔を、ビラとスタが覗き込む。


「ローキス様〜?もう八崎陸様はお帰りに……」

「ロ、ローキス様。少々お顔が……その、他の者に見せられない表情を……」

「……あ、ああ。すまない。もう大丈夫だ、大丈夫……お前達、金が好きだろう?俺にこの話を持ってきた褒美をあげよう」

「「え〜!いいのですか!?/えっ!よいのですか!?」

「いい。構わない。今直ぐこの感情をどこかに発散させないと、陸を追いかけて隠してしまいかねない」


 ビラとスタはキラキラと目を輝かせ、臨時報酬を喜んでいる。


(普段はコイツらを見ても金の亡者としか思わないが……不思議だ、今は全てが美しく見える。陸にお礼を言われただけでこうも変わるとは……やはり、彼は俺の運命だ。全てが落ち着いたら会いに行こう。その為に“目印”を渡したのだからな)


「ふふ」


 陸のことを想い、笑みをこぼす。……もしかしたら、陸はこの世界で一番関わってはいけない者に好かれたのかもしれない。

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