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第十依頼 いるべき場所 2話

 食事を終えた陸達は机を囲んでいた。机の上には1枚の紙が置かれている。


「これがルマニア商会のチラシかい?随分と怪し……見づら……派手だね」

「詐欺系のチラシみたいだよな。でも、ビラ達に閉じ込められた後に降ってきたから本物だと思うぜ。……じゃあ、電話をかけるぞ」


 数コール後、女性の声が聞こえてくる。


「お電話ありがとうございます。ルマニア商会アーティマ支部です」


 この声、聞き間違うはずがない。ビラだ。

 ビラには恨みがあるが、これは協力を仰ぐ為の電話。陸は心を落ち着かせ、平常心を意識して喋り出す。


「八崎陸だ。この前は世話になったな」

「あら!お久しぶりでございます!お元気そうで何よりです〜。今回お電話してくださったのはご依頼ですか?ご依頼ですよね?」


 畳み掛けるように喋り続けるビラに若干気圧されながらも、陸は「おう」と返事をする。


「お前……というかお前達ルマニア商会の知恵を借りたいんだ」

「ほうほう、ふむふむ、成程成程。かしこまりました。では、今からこちらで詳しいお話を聞かせていただきますね」


 ビラがボソボソと何かを呟く。電話越しなこともあり上手く聞き取れない。陸が耳を澄ましていると、パッと景色が変わった。

 そこは小さな部屋だった。部屋の中央から右側がピンク、左側が青でまとめられており、丁度その境目に机と椅子が用意されている。


「おや、ここは……」

「ルマニア商会の部屋かのう」

「うっ、この部屋の青い部分、嫌な記憶が甦る……」

「マミちゃん、大丈夫ですか?」


 部屋に連れて来られたのは陸だけでなく、事務所にいた全員がその場に立っていた。皆、思い思いに辺りを見ていく。そんな時、パンパンと手を叩く音がした。


「お待たせしてしまい申し訳ございません。皆様のご依頼を担当させていただきます、ビラと申します」

「ビラ……」

「八崎陸様!今回はご依頼ありがとうございます。どんなことでもお力になりますよ。さあ、どうぞ。座ってください」


 陸は言われた通り椅子に座る。ビラも陸の対面に座り、嬉しそうにニコニコと笑う。陸のことを見つめるその目は、1人の客を見ているというよりも硬貨や紙幣を見ているかのようだった。

 ここに来たことを少し後悔しながら、陸は話し始める。


「実は──」


         ♢♢♢


「ふむ……八崎陸様の世界が天神様方に支配される、と。一つ確認なのですが、その天神様方はこちらの世界の天神様とは別の存在ですよね?」

「うん。ボクも色々と調べたからね。アイツらはこちらの世界とは関係ない。異世界の天神共と思っていいだろう」

「そうですかぁ〜……う〜ん」


 ビラは腕を組み、考え込む。


「流石の私達でも、自由に異世界に干渉できる者はおりません。私達だけでの解決は難しいですね」

「そうか……」

「ですが!」


 ビラが立った勢いでガタンッと椅子が音を立てて倒れる。しかし、ビラは気にすることなく続ける。


「アイデアの提供と、それを実現できる方をご紹介することは可能です!」

「何か方法があるのか!?」

「はい!アイデア料と紹介料は別にいただきますが、アイデア料に関しましては採用していただけた場合で構いません」

「金の話ばかりだねぇ……全部合わせていくらだい?」

「そうですね……」


 喋りつつ電卓を取り出し、目にも止まらぬ速さで計算をしていく。3秒程で結果は出た。電卓の画面を灯に見せる。

 灯は画面を見ると、悩むことなく「頼むよ」と言った。


「まあ!よろしいので?」

「即答ですね、先生。安かったのですか?」

「いや、だいぶ強気な値段だったね。けれど、ボクは陸の世界を救うことを目的に生きているんだ。これくらいなんてことはないよ」

「素晴らしい!お客様はまさに聖人君子のようなお方!これからも困ったことがございましたら、是非私達にご相談ください」

「はいはい。それより、早くキミのアイデアを教えてくれないか」

「はい、承知いたしました」


 コホンと、わざとらしく咳払いをした後、ビラは喋り出す。


「別世界だったとしても、天神様は簡単に勝てる相手ではないでしょう。そこで使うのが〜……ズバリ、星檻です!星檻で天神様方をまとめて閉じ込めてしまえばよいのです!」

「……」


 ビラは自信満々にそう語るが、彼女を見る他の面々の表情は暗い。言葉を口にしなくても、皆同じことを思っていることだろう。


「皆様、『できたら苦労しねぇよ』といった顔をされておりますね」

「当然だろう。一体いくつ問題があると思っているんだい」

「ご安心を。実はその沢山の問題、八崎陸様を異世界……元の世界の、更に天神様方がいらっしゃる時代にさえ連れて行ければ全て解決するのです」

「いや、それが一番難しいだろ。元の世界に帰る方法も分かってないのに、未来に行くなんて……」

「元の世界に帰ることはできるぞ」

「ほら、アーティマもこう言って……え!?」


 思わず流してしまいそうだったが、今アーティマは何と言った?『元の世界に帰れる』?陸がこの世界に来てから、探しても探しても掴むことができなかったことを、こうも簡単に言われるとは……。

 驚く陸を見て、アーティマは気まずそうな表情をする。


「まあ、陸を連れて来たのは儂じゃからな。儂は元々、世界を超える力を持っておる」

「あ〜考えてみればそうか。アーティマはあちこちの世界を渡ってるんだもんな」

「うむ。じゃが、この魔法は不安定でな……儂が異世界を流れているのは、この魔法が暴走しているからじゃ。……しかし、陸ならば問題ない」


 陸は首を傾げる。アーティマでも暴走させてしまうような魔法を、陸が扱えるとは思えない。


「意識体の儂とは違い、陸には体がある。更に、陸は元々あちらの住人。向こうの世界とこちらの世界、両方で生きる資格が陸にはあるのじゃ。本来いるべき場所、いるべき時代に帰るだけなら問題なくできよう」

「へえ、いるべき時代に帰る“だけ”なら、か」


 灯は考え込む仕草をした後、確かめるようにアーティマに質問する。


「では、本来いるべき時代より未来に飛ぶのはどうなんだい?」

「できるじゃろうが……失敗する可能性もある。予定よりも未来の時代にいったり、逆に過去に戻ったりするかもしれんのう」


 沈黙が流れる。そんな賭けのようなことを陸にやれとは誰も言えなかった。

 他の手段を、と灯が提案しようとした時、陸が「任せろ」と言い出した。


「りっくん!?失敗したらどうなるか分からないんだよ?危ないよ」

「失敗を怖がってたら何もできないって。それに、これはオレの為でもあるじゃん?50年後に死ぬかもって思いながら生きるより、ここで行動したい」

「陸……ボクが不甲斐ないばかりにすまない」

「何で灯さんが謝るんだよ。むしろ、オレ達の世界の為に色々とありがとうな。……ビラ」

「はい!何なりと」


 ビラは上機嫌で陸に返事をする。この依頼を絶対に受けてもらいという熱意を感じる。……まあ、やる気がないよりはいいだろう。

 陸はビラの方を向き、尋ねる。


「異世界に行ければ、他の問題は全部解決するんだな?」

「はい。残る大きな問題は、どうやって星檻を天神様方に使うか、ですよね?」

「うむ。儂の星檻は、儂という星の上で産まれた存在と、星檻の罰を受け入れた者のみ効果を発揮する。異世界の奴らには当然効かないじゃろうな」

「それに、オレが目で見える範囲じゃないと駄目だ。こっちの世界でも空に浮かんでる目に試してみたけど、意味はなかった」

「成程成程」


 ビラは何度もうんうんと頷く。本当に理解しているのだろうか。


「自分達から罰を受け入れた後、八崎陸様の目の前に全員集まってくるようにしたらよいのですね。お任せください!スタ!例の方を呼んで来なさい!」

「命令するなクソ兎。死ね」

「アンタが死ね!」


 遠くからスタの声が聞こえてくる。相変わらず仲が悪いようだ。

 そこから待つこと約10分。ビラもどこかに行き、陸達だけが部屋に残されていた。放置されている不安もあり、早くビラ達が帰って来ることを祈っていると──


「お待たせいたしました!」


 やっとビラが戻って来た。


「皆様の悩みを全て解決できる方を連れて参りました。どうぞ、入って来てください」


 ビラの呼び声と共に、スタと……男性が入って来る。

 陸はその男性を知っていた。忘れたくても忘れられない、大嫌いで、もう二度と会いたくない存在。


「やあ、久しぶり。会いたかったよ、俺の運命」

「……ローキス」


 陸に名を呼ばれ、ローキスは嬉しそうに微笑むのだった。

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