謎の声の正体と聖なるドラゴン達
「うわあ、どこまで上がるのかしら」
グレイさんに抱き締めれたままぐんぐん上昇していく中、思わずそう呟く。
先に上がったタルカムさんは、さらに上空にいて小さな姿が見えるくらいまで離れている。
「まだまだ上がるぞ」
私の呟きを聞いたグレイさんが、笑ってそう教えてくれる。
ちらっと見た下は、もう浮島が小さな胡麻粒くらいの大きさになっているから、ここってもう成層圏に届くくらいの高度なのではなくて?
冗談抜きでそう言いたくなるくらいに、もう見える範囲には雲すら無くなっている。
でも普通に呼吸は出来ているから、本当にどうなっているのかしらね?
その時、頭上に何かが見えて思わず目を凝らした。
ほぼ透明なんだけど、明らかにそこに何か巨大なものがある。
ホームのある浮島くらいはありそうな突然現れた謎の透明なそれに、タルカムさんがそのまま突っ込んでいく。
「いくよ、ちょっと衝撃があるだろうから、しっかり俺に掴まっていてくれ」
グレイさんの言葉に、しがみつく腕に少し力を入れる。
ぐっと抱き寄せられてほぼくっついた状態になったまま、グレイさんもその透明なそれに飛び込んでいった。
その瞬間、目の前が真っ白になる。
「無事に到着だな。じゃあ、俺はここで待っているから行っておいで」
真っ白だった目の前が一気に開けた時、すぐ横にいたタルカムさんがそう言い、グレイさんの腕を叩いた。
すると、一瞬でタルカムさんの姿が消えてしまった。
「ええ? 今のって……」
慌てて周りを見回した私は、もう驚きすぎて完全に固まってしまった。
だって、私とグレイさんは下から吹き上げる上昇気流に乗ってホバリングしている状態だったんだけど、その周囲を取り囲むようにして巨大なドラゴンが私達を見つめていたんだもの。
顔だけでも私達よりも遥かに大きいドラゴン達は、私とグレイさんを見て嬉しそうに目を細めた。
『よく来たね。我らが吾子よ』
『どうやら無事に試練を乗り越えたようだな』
『そして良き相手と巡り会えたようだ』
『我らからの祝福を』
『未来ある二人に祝福を』
パッと見たところ、巨大な顔は全部で十個あるので、多分ここにいるのは十匹のドラゴン。
そして、その声を聞いて私は声をあげそうになるのを必死で堪えていた。
今思い出した。私はこの声を知っている。
初めてこの世界へ来る前、それから先日流砂に流されて死にかけた時、私はこの声に二度助けられている。
目が合った一番近くにいたドラゴンが、まるで、そうだよ。とでも言うかのように軽く頷くのが分かってなんだか嬉しくなったわ。
私は元々この世界に生まれるはずだったのに、間違えてあの世界に生まれてしまった。
この考えは間違っていなかった事も分かって、もう嬉しくて叫びそうになるのを必死で我慢した私だったわ。
「祝福をありがとうございます。お目にかかるのは二度目ですね」
その時、嬉しそうなグレイさんの言葉を聞いて思わず目を見開く私。
もしかして、例の彼女ともここに来たの?
咄嗟にそう考えてしまった自分が嫌になったわ。
でも、そんな私の考えなんて知らないグレイさんは、笑って巨大なドラゴンを見て一つ頷く。
「死にかけた私を救っていただき本当にありがとうございました。あれは夢だとばかり思っていたので本当の事だったと聞いて驚きました。いずれお礼に伺いたいと思っていたのですが、タルカムからそれは必要ないと言われて諦めていました。こうして、直接お目に掛かれて嬉しく思います。私は、彼女とこれからの人生を共に歩んで行きたいと考えここに来ました。彼女もそれに同意してくれました」
嬉しそうなグレイさんの言葉に頷いた私は、その前に聞こえた予想外のグレイさんの言葉を考えて、思わず彼の胸当てを叩いてしまった。
「グレイさん。待って! 死にかけたって何の話なの?」
しまった、と言った風に苦笑いしたグレイさんは、自分の胸元を指でかるく叩いてから自分の翼を示した。
「前回、はぐれのワイバーンと遭遇した時に俺が怪我をしただろう?」
グレイさんが翼を脱臼して、さらに酷い裂傷も負っていたあの時の事を思い出して何度も頷く。
「実を言うと、本当はもっと酷い怪我だったんだよ。特に翼は……」
肩をすくめるグレイさんの言葉を聞いて、真っ青になる私。
でも、彼の言葉を反芻してその意味を考える。
「もしかして、シルフ達の癒しの術?」
タルカムさんに助けられて運ばれていた時の事を思い出してそう尋ねると、笑った彼は一つ頷いてからまたドラゴン達を見た。
「あの時、瀕死の重傷を負って落ちる俺を駆けつけたタルカムが受け止めてくれた。そしてシルフ達の癒しだけでは間に合わないと判断して、聖なるドラゴンに癒しを願ってくれたんだそうだ。おかげで、俺の怪我はあの程度で済んだ。完治しなかったのは、怪我そのものを無くす事は摂理に反するからだとも言われた。癒しの術で怪我そのものはかなり軽くなったが、俺の体は怪我の衝撃をまともに受けていたからね。それで回復に普通よりも少し時間がかかったんだよ。その時に、俺はドラゴンの皆様にお会いしている。あれはてっきり夢だと思っていたんだが、後でタルカムにそう教えてもらって、本気で驚いたんだよ」
笑って教えてくれたのは、これまた私の常識では考えられない話だったけれど、目の前にいる巨大なドラゴン達を見るとこの世界ではそういうのもありなのかなって素直に思えた。
「グレイさんの怪我を癒してくださり、本当にありがとうございました。おかげで、彼とこうして一緒にいられます」
思わずそう言って頭を下げると、ドラゴンの皆様は嬉しそうに目を細めて喉を鳴らし始めた。
遠雷のような低いその音を聞いて、思わず私とグレイさんは笑顔になる。
『役に立てたようで我らも嬉しい』
『愛し子達の健やかな姿は我らにとっても喜びだからな』
『では、そろそろ時間だ。戻りなさい』
『我らは常に其方達の翼と共にある』
『良き風が吹くよう祝福を贈ろう』
『其方達のこれからに祝福を贈ろう』
『どうか幸せにな』
『我らからの祝福を贈ろうぞ』
『どうか幸せにな』
『その翼で好きなだけこの空を飛ぶが良い』
ドラゴン達の言葉と共に、また周囲が真っ白になる。
そして次にその真っ白が晴れた時にはドラゴンの姿はどこにもなくて、代わりに笑顔のタルカムさんが側にいて私とグレイさんは揃って驚きの声をあげる事になったのでした。




