下降と浮島
「ええ? い、今のって、今のって夢じゃあないわよね!」
慌てて周りを見回しても、見えるのは濃い瑠璃色の空だけ。
慌てる私に、タルカムさんは笑顔で頷いた。
「無事に面会出来たようだね。改めておめでとうと言わせておくれ。グレイ、ルリさん、末長くお幸せに」
笑ったタルカムさんは、そう言ってグレイさんの腕を叩いた。
「じゃあ、俺は先に戻らせてもらうよ。どうぞごゆっくり」
そう言って笑ったタルカムさんは、何とホバリングしていた翼の角度を変えると、そのまま一気に下降していった。
以前、地上との取引の時みたいに、いえ、あの時よりももっと速度はあったと思う。
あっという間に見えなくなったタルカムさんを探すように、慌てて下を見る私。
「気にしなくていい。じゃあ、俺達も降りようか。ちなみに、明日の予定は?」
今の私は、グレイさんと片手を繋いで並んだ状態でホバリングしている。
「ええと、特に聞いていないけど、多分いつもの子供達と一緒に近場の採取だと思います」
そう答えてから、リッティに言われた言葉を思い出して唐突に真っ赤になる。
「ん? どうした?」
不思議そうに私の顔を覗き込んでくるグレイさんの顔を直視出来ない。
「あの、リッティが……」
「彼女がどうかしたか?」
「明日も、お休みにしておくから、ゆっくりしてきていいからねって、さっき別れる時に、そう言ってました」
実際には、一晩ゆっくりしてきてくれていいから、だったんだけど、さすがにそのまま伝えられない。
「ああ、確かにそんな事を言っていたな」
苦笑いしたグレイさんが、私を引き寄せてまた向かい合わせの状態で両手を繋ぐ。
「まずは降りよう。ここは少し寒いからね」
確かに、初夏くらいの気温がある浮島周辺と違い、ここは少し肌寒いくらいだ。
「降りるよ。ルリは翼を畳んでくれていい」
笑ったグレイさんの言葉に頷き、素直に翼をたたむ。
体を引き寄せられて、ほぼくっついた体勢のまま一気に下降を始める。
でも、しっかりとグレイさんが支えてくれているので、全然怖くない。
お互いの顔を見つめ合い、自然に時折キスを交わした。
どれくらい下降したのかもう分からなくなった頃、ようやく足元に浮島がはっきりと見えてきた。
「こうしてみると、浮島って大きさが本当に違うのね。ホームのある浮島が最大だと思っていたけど、上にはもっと大きな浮島もあるんだ」
近づいてきた巨大な浮島を見て、思わずそう呟く。
「ああ、あそこにも翼人達が大勢暮らしているよ。俺達のホームがある浮島は、どちらかというと猛禽類やオウムのような大型の種族が多いんだけど、あっちはインコや小型の鳥の種族が多いんだ。翼の色はとても華やかな種族が多いな。ここの狩猟組の人達とは、たまに協力して一緒にワイバーンを倒したりもするよ。小柄な者が多いが、その分動きは素早く弓を使う者が多いので、力のある俺達と連携してワイバーンを落とすんだ。皆、気の良い連中だよ」
巨大な浮島を指差しながらそう教えてくれる。
「へえ、そうなんですね。確かに言われてみれば、ホームにいる種族って猛禽類や大型の鳥の種族が多いですね」
「大きな浮島はこの二つだな。後の浮き島は、ジェムモンスターが出る危険な場所が多いから、野良が何人か住み着いている程度で、誰も住んではいない。いくつかの野生動物や普通の鳥達がいるぐらいだな」
「そうなんですね。確か私が初めてこの世界に来た時に一晩過ごした浮島も、途中に立ち寄った浮島も、どこもかなり危険な場所だったって後で教えてもらいましたからね」
「ああ、そうだったな。あの時は本気で驚いたよ」
私を見つめたままグレイさんがそう言い、またキスを交わす。
「じゃあ、少し休んでいこうか。あそこに降りるよ」
しばらくして翼の角度を変えて下降をやめたグレイさんが、少し離れたところにある小さな浮島を見た。
浮島の端から水が流れ落ちているので、小さいけれどもあの浮島には泉があるのだろう。
確かに、かなり体が冷えているしちょっと疲れてきてもいるので休憩は必要かも。
そう思って頷いた私は、その浮島に向かって飛ぶグレイさんと一緒に、畳んでいた翼を開いて大きく羽ばたいたのだった。




