遊覧飛行と退院祝いのお茶会
「ねえ、戻るのは急がないんでしょう? ルリさん、少し一緒に飛んでみましょうよ!」
笑ったロアの言葉に、私も笑顔で頷く。
「もちろん! じゃあ行きましょう!」
そう言って大きく羽ばたきグッと加速する。
当然、全員がそれに続いて加速する。
私を真ん中に左右にチムニーを抱いたチムタムと私と手を繋いだリッティ、チムタムの後ろにロアがいて、私達の上下をカーク君とキース君が守るかのように少し離れてついてきてくれている。下から見たら、私を中心に円陣を組んでいるみたいに見えると思う。
「はあ、本当にもう大丈夫そうだね。飛び方もとても安定している」
上側にいたキース君が、安堵したように一つため息を吐いてからそう言って笑ってくれた。
「ええ、あれだけ頑張っても全然飛べなかったのが嘘みたいに、普通に飛べるわ」
私も笑ってそう言い、軽く一度だけ羽ばたく。
今は滑空していたんだけど、ちょっと横風が来て体勢が崩れそうだったからね。
皆もそれぞれ羽ばたき、ちょっとお互いの位置が離れる。
「それで右手の怪我は? もう痛くない?」
下からカーク君が、少し心配そうに右手を軽く振りながら尋ねてくれる。
「うん、無理に動かさなければもう大丈夫よ。こうしていてもほとんど痛みはないからね」
一応、もう三角巾ははずされている私の右手にはまだ包帯が巻かれている。
それにまだ、腕を振り回したり重い物を持ったりするとまだ少し痛みがあるので、一応、もうしばらく無理はしないように言われている。
「それは良かった。ルリさんは大容量の収納持ちだから、無理に手で荷物を持つ必要はないからそれなら大丈夫だね。じゃあ、採取にはもう行けるのかな?」
「ええ、一応先生からも、明日から採取に行っても良いって言われているわ」
「そっか。じゃあ楽しみにしているね。皆にも飛べるようになったのを見てもらわないと」
笑顔でそう言われて、私も嬉しくなって返事をしつつちょっと泣きそうになっていたわ。
そのまましばらく遊覧飛行を楽しんだ後、女性棟の前まで飛んで行った私は、リッティとロアと一緒に女性棟の中へ入っていった。
チムタムはチムニーと一緒に家へ戻るって言っていたし、カーク君とキース君も男性棟へ戻るとの事で、建物の前で解散している。
「おかえりなさい!」
「ルリさん、退院おめでとう!」
「ねえ、飛べるようになったって本当なの!」
建物の中に入ったところで、周りにいた人達が目を輝かせながら文字通り飛んできてくれた。
「ただいま戻りました。はい、おかげさまで飛べるようになりました! 見てください!」
リッティの手を離した私は、大きな声でそう言って翼を広げた。
それから思いっきり床を蹴って真上に向かって飛び上がり、そのままタイミングを合わせて大きく羽ばたく。
ググッと体が持ち上がる感覚のあと、いとも簡単に床から離れた私の体はそのまま上へ向かって軽々と飛び立った。
歓声が上がり、皆も一斉に飛び立ってくる。
ここは吹き抜けになっていて、はるかに高い天井まで壁には個室がずらりと並んでいる。
その吹き抜けを私は声を上げて笑いながら上下しては大きく弧を描くようにして飛んだり、一気に急降下してはまた急上昇したりして思うがままに飛んだ。
自由に飛べる嬉しさを噛み締めながらね。
一緒に飛び立った人達とも、飛びながら空中で手を叩き合ったり握手をしたり、並んで一緒に飛んだりしながらもう一度声を上げて笑った私だったわ。
皆からは、とても上手に飛べているとお褒めの言葉をいっぱいいただいたわ。
そのまま前回退院した時にも使った集会所と呼ばれている広い部屋に集まり、退院祝いという名目のお茶会が始まった。
前回と同じく、お酒ではなくお茶が出たのは未成年の子達も大勢いたからね。
山盛りになったドーナッツを見て、思わず声を上げた私だったわ。
以前、リッティからの差し入れで初めてもらったあのドーナッツは、私の意見をいくつか取り入れて劇的な進化を遂げていたわ。
そもそも甘味も増していたし、石臼を使って私が教えた粉砂糖を作った料理長は、それはそれは張り切って飾り付けを工夫してくれていて、トッピングにはベリー風味のものや、レモンみたいな酸味のある柑橘系の果汁で溶いた粉砂糖がかけられていて、もうどれも最高に美味しかったわ。
それ以外にも、カップケーキみたいな形のものや、いわゆるパウンドケーキタイプのものまであって、クッキーと果物くらいしかなかったお茶会のお菓子は、めっちゃグレードアップしていたのでした。
皆大喜びで、明日もまた退院祝いをしましょうと誰かが言い出し、じゃあ毎日退院祝いをしないとねと言った誰かの言葉に、部屋は大爆笑になったのでした。
結局、以前借りていたリッティの隣の部屋を改めて私用に借りる事にして、お茶会が終わってから懐かしい上の部屋に久し振りに戻った私だったわ。
「一応、お掃除はしてあるわ。それと、下の部屋に私物って何か置いてある?」
一緒に部屋に入ってきたリッティの言葉に、私は笑って首を振る。
「全部収納してあるから大丈夫よ。でも、ちゃんとお掃除してから鍵を返さないとね」
一階の部屋の鍵はまだ持ったままだったのでそう言うと、笑ったリッティが首を振ってこの部屋の鍵を渡してくれた。
まあ、部屋の扉は閉めているけど鍵を閉める事なんてほぼ無いので、鍵を貰ってはいたけれども、一度も使った事がないんだけどね。
「それなら大丈夫よ。留守番組の子達がお掃除してくれるって張り切っていたからね。鍵だけ管理室へ戻しておいてちょうだい」
「え? いいの?」
「ええ、綺麗に使ってくれていたから、お掃除といってもシーツを変えるくらいだしね」
笑ってそう言い、部屋を見回したリッティは部屋の外を指差した。
「じゃあ、荷物を置いたら昼食ね。子供達もきっと待ち構えているわよ。明日はルリさんとチムニーが退院するんだって昨日からもう皆して大騒ぎしていたからね」
「そうね。心配かけちゃったから謝らないと」
苦笑いする私に、それより先に報告する事があるでしょうがと言って私の翼を軽く叩いた。
「飛行練習をしている子達も、そろそろ体が浮き始めているわ。チムニーは入院中は飛行練習が出来なかったから、ちょっと出遅れた感じかな?」
傷んでいた風切り羽もすっかり綺麗に生え揃った真っ白なチムニーの翼を思い出して、私も笑顔になる。
ちなみに、オリーブちゃんは昨日退院しているんだって。
彼女の怪我は右肩のところだけで、翼が血まみれだったのは肩の血が飛んだ時のものだったらしい。
怪我自体もそれほど深くなかったみたいで、一応まだ包帯はしているんだけどもう元気に走り回っているらしいわ。
もちろん彼女も飛ぶ練習の真っ最中で、そろそろ体が浮き始めているらしいから、きっと入院中のブランクなんて何のその。すぐに飛べるようになるだろう。
「じゃあ、頑張って練習しないとね。なんなら手を引いて一緒に飛んであげないと」
「そうね。チムニーはああ見えて頑張り屋さんだから、きっとすぐに飛べるようになるわよ。あの時期の子供達って、数日見ないだけでも本当に変わるからね」
笑ったリッティの言葉に私も笑顔で頷き、いくつか収納していた私物を戸棚に戻した私は、一緒に食堂へ向かう為に部屋から飛び降りたのでした。
「ううん、飛べるって分かっていても、この高さから飛び降りるのはやっぱりちょっと怖いわね」
翼を広げて滑空しながら床に降り立った私は、はるかに高い自分の部屋の扉を見上げて思わずそう呟いたのでした。




