チムタムとの語らいとリッティの登場!
「はあ、もう恥ずかしすぎて顔から火が出そうだわ」
上掛けに顔を隠して、ごく小さな声でそう呟く。
体を起こしたいんだけど、今、間違いなくキッラキラの目で自分を見つめているであろうチムタムと顔を合わせるのすら恥ずかし過ぎて、もう自分でもどうしたらいいのか分からない。
「ル〜〜リ〜〜〜〜〜お〜〜きて〜〜〜〜く〜〜ださ〜〜〜〜〜い」
完全に面白がっている口調のチムタムが、私が隠れている上掛けの端っこを引っ張りながら歌うみたいに調子をつけながらそう言ってきた。
必死になって上掛けを掴んだまま、ただただ無言で首を振る私。
「ねえルリ。まさかとは思うけど……グレイさんが嫌だなんて事はないわよね?」
ここで一転口調が真剣なものに変わってそう問いかけられて、思わず上掛けから顔を出してしまう。
「い、嫌なわけない!」
咄嗟に叫ぶように答えた瞬間、もうこれ以上ないくらいのいい笑顔になったチムタムが私に抱きついてきた。
もちろん、ちゃんと怪我をしていない左側からね。
「だったら、何もそんなに恥ずかしがる事ないじゃない。良かったわね。ようやく両片思いから一歩前進ね」
「え? 何の話?」
思わずそう尋ねると、チムタムは思いっきり吹き出したわ。
「ねえルリ、まさかとは思うけど……他の皆に、知られていないとでも思っていたりする?」
「な、何を……?」
答えが予想出来てしまったので思いっきり聞きたくないけど、聞かずにはいられなくてそう尋ねる。
「誰かさんは〜〜グレイさんの事が好きで〜〜」
すると手を離してくれたチムタムは、今度は両手を握りしめて胸元に当てると天井を見上げてまたしても歌い始めた。もとい、歌うような調子で話し始めた。
「グレイさんも〜〜誰かさんの事が大好きで〜〜思いっきり両思いなのに〜〜〜〜〜〜〜誰がどう見てもその気持ちは丸分かりなのに〜〜その当の二人だけが〜〜何故か全くお互いの気持ちに気づいていないという〜〜〜〜〜〜〜すっごく面白い状態になっていたので〜〜す!」
「面白くないわよ!」
思わず叫んだ後に慌てて口を押さえる。
ここは一応入院棟なんだから、大声は駄目よね。
「ええ、ちょっと待って。今の話って、創作じゃあなくて……」
「もちろん事実よ! 最近のリッティとワルターは、自分達がおせっかいを焼かないと、この二人は永遠にあのままなんじゃあないかって、割と本気で悩んでいたんだからね!」
もう耳まで真っ赤になった私は、左手で顔を覆ってもう一回ベッドに倒れ込んだわ。
チムタムは、そんな私を見てもう遠慮なく大笑いしている。
「ねえ、冗談抜きで、本当に誰にも知られていないと思ってた?」
まだ笑いながらのチムタムの質問に、本当にその通りだったので無言で頷くしかなかった私だったわ。
「ルリ〜〜グレイから聞いたけど、また入院になったんだってね。とりあえず勝手に部屋に入らせてもらってごめんなさい。必要そうなものを持って来ておいたわよ」
その時、声がして包みを抱えたリッティが部屋に入ってきた。
「ああ、ありがとうございます」
あとでチムタムに頼もうと思っていた着替えや暇つぶし用の刺繍の入った袋をそのまま持ってきてくれたので、お礼を言って包みを受け取ってとりあえず一旦収納しておく。
「ファングワームと戦って左手を怪我したんだってね。ああ、痛そう! それから飛べるようになったとも聞いたけど、本当なの?」
もう一つ置いてあった丸椅子に座ったリッティの言葉に、私は笑顔で大きく頷いたわ。
ここで笑いを収めたチムタムも加わり、どういう状況でファングワームに襲われてチムニーと一緒に戦ったかや、その際にチムニーが怪我をした時の状況も、改めて詳しく話した。
チムタムにはさっきグレイさんに説明した際に一緒に聞いてもらっているけれど、チムタムもここは茶化す事も揶揄う事もなく真剣に聞いてくれたわ。
「それで、怪我をしたチムニーを抱えて、私が飛べればチムニーをホームへすぐに連れて行ってあげられるのにって、そう思って走ってから思いっきり飛び上がったの」
「「そうしたら飛べた?」」
二人の声が綺麗に重なる。
「ううん、最初はそのまま大きく弧を描いて地面に落ちたわ。その際にまた茂みからファングワームが一匹飛び出してきて……」
「ええ、大丈夫だったの? ルリの両手はチムニーを抱えていたのよね? 今のあの子なら、ルリは片手では抱けないと思うわよ。どうやって戦ったの?」
真顔のリッティにそう言われて、私も苦笑いしつつ頷く。
そうなのよね。今回抱き上げて改めて思ったけど、私が入院と療養をしていたこのひと月半ほどの間にチムニーの身長は確実に伸びている。
それに体自体もかなりしっかりしてきていて、手足も伸びているし筋肉もつき始めている。抱き上げた時に重くてびっくりしたもん。
もう、初めて会った頃のような子供の体とは言えなくなってきている。
あれくらいの年齢の男の子の成長っぷりって本当にすごいわよね。
確か、男児三日会わざれば刮目して見よ。だっけ。前の世界にそんな言葉があったけど、今のチムニーを見ていると本当にその通りだと思う。
大人としてはかなり低めな私なら、もう身長を追い越されるどころか見上げるようになる日も近いんでしょうね。
「戦ったと言っても剣で戦ったんじゃあないわ。こう、ちょうど落ちるところに飛び出してきたもんだから、成り行き上……上からまともに踏んづけちゃったのよ。パンパンの水袋を踏んだ時みたいな、なんとも言えない妙な感触の後に、バン! って感じに破裂するのが分かったわ。それでそのままもう一回地面を蹴って思いっきり飛び上がって、それにタイミングを合わせて羽ばたいたら……」
「「飛べた?」」
もう一回二人の声が綺麗に重なる。
「はい、飛べました。一気に体がググッと持ち上がるのがわかって、そのまま必死になって羽ばたいたら……もう今まで飛べなかったのが嘘みたいに普通に飛べたわ。それであとはチムタムも知る通りよ。上空でオリーブを抱いたチムタムと合流して、そのまま一緒にホームまで飛んできたの。ちなみにこの右腕の怪我は、自分では全く気が付いていなくて、チムニーを引き渡した後に来てくれた看護師さんに言われて初めて気が付いたわ。それでカシム先生に手当てをしてもらったの」
最後は誤魔化すように笑いながらそう言うと、真顔になったリッティは、小さなため息を吐いてから私に抱きついてきた。
もちろん左側からね。
「良かった。ルリが無事で良かった。グレイが言っていたけど、最初に襲ってきたファングワームは最大サイズだったそうじゃない。それをチムニーとルリの二人だけで倒したなんてね。怪我こそしたけど、普通サイズのファングワームに至ってはルリさん一人で二匹も倒したなんてね。すごいわ、いつでも狩猟組に編入出来るわよ」
「あはは、グレイさんにもそう言われたわ。でも私は子供達と一緒がいいです!」
冗談だとわかってはいるけれど、それでもそう言って顔の前で手を振る。
「あら、いいの? 狩猟組に入ればいつでもグレイさんと一緒にいられるわよ」
にんまりと笑ったチムタムの言葉に、情けない悲鳴をあげてベッドに倒れこんだ私は、もう一回さっきの上掛けの中へと逃げ込んだのでした。




